社会と学問をつなぐ視点

「遊び」の可能性を追い求めて。

「遊び」の可能性を追い求めて。

大橋さつき 教授

現代人間学部 人間科学科
専門 身体表現論 舞踊教育学 ムーブメント教育・療法

「遊び」がもたらす、幸福感や調和のとれた発達。

私の研究の根本にあるのは、「遊び」です。「遊び」というと、人によっていろいろとイメージが異なるかもしれません。私が研究しているのは、「遊び」が発達や人間関係、コミュニティ形成に与える影響についてです。もう少しわかりやすい表現で例えるなら、「遊び」の可能性を追求しているといっていいかもしれません。そのアプローチとして「ムーブメント教育・療法」に身体表現遊びや舞台づくりの方法論をあわせて活用しています。「ムーブメント教育・療法」とは、運動遊びを原点として、「からだ・あたま・こころ」の調和のとれた発達を支援する方法です。大切なポイントは「訓練」ではなく「遊び」であること。指導者中心ではなく、参加する子どもの「~したい」という気持ちを最大限に生かすことです。かかわるすべての人たちが喜びや満足感を得て、健康と幸福感を達成していく。そのためには、どんなことができるのか…、学生と共に実践の中で問い続けています。

「遊び」がもたらす、幸福感や調和のとれた発達。

「遊びの場を共に創る」意味 ~本気で遊ぶ学生たちの姿から~

2004年度から、障がい児を含んだ地域の親子を対象に「和光親子ムーブメント教室」を開催してきました。学生たちが主体的に参加し、童話や季節等をテーマにしたドラマ性のあるプログラムに発展しました。これは、私の研究室に、ダンスや演劇に興味がある学生たちが多く集まっていたということも影響していると思います。彼らは、専門的な知識や経験が足りない分、若い感性を信じて、自身も楽しむことができるプログラムを自然と考えたのかもしれません。ストーリーを拠り所にすることで発想も浮かびやすく、また、役柄になりきることで積極的にかかわることができたからだと思います。結果として、創造的な流れを共有することで保護者も参加しやすく、本気で遊ぶ大人たちが魅力的な「環境」となったのです。そこには、参加者全員で即興的に「遊びの場を共に創る」関係性があり、互いに想像し、伝え合い、創る喜びの中に好循環が生まれていました。私は、学生たちの姿に遊具や音楽以上に「人」が遊び環境の大切な要素であることを再確認しました。そして、参加者の個性や表現を受け容れ、共に創り上げるための「余白」の重要性に気づき、遊びの本質について深く考えさせられたのです。

「遊びの場を共に創る」意味 ~本気で遊ぶ学生たちの姿から~

偶発的な出会いから、新しい何かが生まれる。

私は実践の中で、思いがけず新たな問いに出会う体験を重ねてきました。それは、偶然であり必然であったと感じています。川崎市麻生区との連携による地域子育て支援は、担当者が私たちの活動に参加したことを機に始まりました。保育所を拠点とした子育て支援の実践を通して、障がい児や「気になる子」を含んだインクルーシブな保育の具体策が求められていることを知り、保育士研修等で学び合いを続けています。学生たちの活動は学外に「出張」することも多くなり、地域施設で定期的な実践を任されるようになりました。すると、職員や保護者と支え合う構図が生まれ交流が増し、学生たちは子育ての日常を身近に感じたようでした。少子化の中、次世代育成の面で意義深い変化であったと思います。東日本大震災後は、被災地まで出張し親子遊び活動を行いました。最近では、高齢者ボランティアとの出会いから多世代型の子育て支援を試みているところです。今後、コロナ禍で出会った新たな問いにも挑むことになるでしょう。私たちは地域の人々と共に遊びの場を創ることで社会の課題に挑み、その中で多くの気づきと問いを得てきました。「支援」という言葉を使ってはいますが、これからも、支援する-支援されるという関係を超えた、育み合う場でありたいと願っています。