バンバン・ルディアント研究室 ~ 日本とインドネシアの学生を結ぶ国際的な人材育成

ニアス島における伝統舞踊「Maena」を活用した防災教育事業

事業概要

 本事業の対象地域であるニアス島はインドネシア国スマトラ島北西部沖に位置し、2004年12月のスマトラ沖地震大津波に続き、2005年3月に発生した地震においても大きな被害を受けました。この事業のプロジェクトマネージャー高藤洋子が2006年より 2010年において実施した調査の結果、ニアス島においては過去に地震や津波に関する教育がされていなかったことがわかりました。 そのことが避難を遅らせ被害を大きくして しまったのです。多くの人々が地震後に津波が発生する可能性があることを知らなかったために、引き波により多くの魚が飛び跳ねるのを見て捕獲しようと沖へ向って行き犠牲となったのです。
 一方、ニアス島の北西およそ150kmに隣接するアチェ州シムル島においては、犠牲者はわずか7人でした。
1907年に起こった地震と津波により 多大な犠牲者が出た経験から「Nandong・Smong(ナンドン・スモン)」という言い伝えが受け継がれ、 住民は避難する術を知っていたためでした。「Nandong(ナンドン)」は古くからシムル島に伝わる四行詩の形式をとる叙事詩です。 「Smong(スモン)」はシムル語で「津波」を意味します。「Nandong・Smong」には「強い地震が来たならば海の水が引いていったならば、まずは高いところを探しましょう」と詠われています。この伝承がすたれることなく100年の間語り継がれていたため、住民は迅速に避難することができました。この「Nandong」と呼ばれる叙事詩は韻を踏む美しい形式を備え、またメロディーの美しさもひときわ心に残るものです。重なる地震に見舞われた先人たちは自然現象をつぶさに観察して、学びとった様々な事柄を記憶に残るよう語り継いだのです。 このシムル島の事例のように先人たちの知恵を防災教育に応用できないかと考えたのがニアス島におけるこの事業のきっかけです。
 ニアス島では2004年および2005年の大地震発生後も規模の大小を問わず地震が多発しています。 災害発生に伴う被害拡大の潜在的可能性も高いです。 それゆえ島民が防災の知識を学び、普及させることが人命を災害から守るうえでは喫緊の課題です。 防災教育を続けていくにはわかりやすく楽しく日常生活に密着していることがキーポイントとして上げられます。そこでこの事業ではニアス島の人々に古くから愛され続けている伝統舞踊「Maena(マエナ)」を防災に活かす手法を取り入れ、次世代に引き継がれていく防災教育をカウンターパートやモデル校の教職員および父兄とともに確立することを目指します。
2016年8月1日よりスタートしたこの事業は2018年11月までの2年4カ月で実施しました。

以下のサイトから事業概要をご覧いただけます。

事業の主なメンバー

【和光大学】 【カウンターパート・Obor Berkat Indonesia(OBI) ニアス支部】

現地カウンターパートOBI (Obor Berkat Indonesia)について

 インドネシアのカウンターパート機関としてはローカルNGOであるOBI (Obor Berkat Indonesia、日本語では「インドネシアの希望の灯」の意・以下OBIと略す)が現地活動のオペレーション全般の中心的役割を担います。
OBIは首都ジャカルタに本部を置いており1999年8月に設立され活動を開始しています。人道支援の観点からOBIは三つの領域(子どもたちの健康と衛生、教育分野)に焦点を当て現在も活発な活動を続けていますが、 2003年からは、経済問題を克服する研修・訓練活動も実施し住民のエンパワーメントにも力を注いでいます。さらに災害時の緊急支援活動も行っており、2004年のスマトラ沖地震大津波の際には大きな役割を果たしました。現在も国内外の災害救助活動を展開しており、住民参加型の支援を継続的に行っています。ニアス島の支部(OBI NIAS)は、協力機関官庁であるグヌンシトリ市および南ニアス県の教育局や防災局とOBIとは既に協働で多数のプロジェクトを 実施しています。この事業が主眼に置く学校を核とした防災活動において、事業を円滑に行うためにはOBIとの協働は欠かせません。共に力を合わせこの事業を進めていきます。なお、この事業の進捗は以下のOBIのサイトでもご覧になれます。
(使用言語:インドネシア語)併せてご覧ください。

【OBIのWeb Site】 【OBIのWeb Siteに掲載の当該事業関連記事】

また主な協力官庁としては、グヌンシトリ市および南ニアス県の教育局と防災局となります。その他、防災活動を中心に行っているNGO連合Koalisi Siaga Bencana (Sigana)とも協力体制をとっています。 またインドネシア国家防災省からはこの事業に関してサポーティングレターを発行いただいています。

【各協力機関・団体 Web Site】

ニアス島について

 ニアス島はインドネシアのスマトラ島北西部沖のインド洋上に位置する島で北スマトラ州に属します。南北約135キロメートル、東西約50キロメートルにわたる島で総面積は5,625平方キロメートル、総人口は約799,200人(Badan Pusat Statistik Provinsi Sumatra Utara (2015) “Sumatra Utara dalam Angka”より)で、中心地は島の北部にあるグヌンシトリ (Gunung sitoli)です。
 地場産業としては、サーフィンの国際大会も開催されたことがある西南部地域における観光業がメインでしたが、2004年12月のスマトラ沖地震・インド洋大津波また2005年3月の大地震に伴う隆起により、珊瑚礁や砂浜が海面上に姿を現し離水海岸が形成されてからは海岸線の変化により以前に比べるとサーフィンに適した波が少なくなったというのが地元の方々の声です。その他の産業としては、海岸線沿いに資源を抱える漁業に加え、ココナツ、天然ゴム、カカオなどの農業があげられます。また島内消費用は稲、キャッサバ、バナナなどを栽培しています。現在、島民の80%がキリスト教を信仰していますが、もともとニアス島には伝統的な宗教(アニミズム)とニアス島独自の宗教観があり、それらが色濃く反映された伝統文化がニアス島の各地に根付いています。

(高藤洋子(2012)「災害経験を語り継ぐ防災教育の実践-インドネシア・ニアス島の事例を中心に-」立教大学アジア地域研究所 より抜粋)
【地図1】
ニアス島およびシムル島の位置
【地図2】
ニアス島およびシムル島
【地図1】
ニアス島全島
(ニアス島ネットワークプロジェクトHPに基づき筆者作成)

(地図1,2,3とも 「高藤洋子(2012)『災害経験を語り継ぐ防災教育の実践-インドネシア・ニアス島の事例を中心に-』立教大学アジア地域研究所 」より抜粋)

ニアス島の伝統舞踊「マエナ」(Maena)について

 ニアス島には、敵の脅威から村を守る様子を表現した「戦士の踊り」、死者の魂を送りだし、残った者を慰める「鎮魂の踊り」、村を訪れる客人への歓迎と感謝の意を表現した「スカプル・シリ」(Sekapur sirih)、「ファナリモヨ」(fanar imoyo)などの踊りのほか、多くの人々が一緒になって身体を動かす「マエナ」(Maena)など様々な伝統舞踊があります。なかでも「マエナ」は非常にシンプルでわかりやすい舞踊です。一度踊ると忘れられないリズミカルで大変親しみやすい舞踊です。多くの人々が一緒になってステップを踏むその楽しさは特別です。ステップのわかりやすさから誰でも簡単に参加できる舞踊とされており、ニアス島では結婚式をはじめとする多くの儀式で踊られています。 「マエナ」は伝統的な詩形式「パントゥン」 (Pantun)を詠うことから始まります。一般的に「パントゥン」を詠うのは村の長老、年配者と なっています。「パントゥン」を通して儀式の目的が述べられ祈りがささげられます。例えば結婚式であれば夫婦となる二人の前途を祝し、神に感謝の祈りを捧げます。また村への訪問者を歓迎する式典では、来訪者への歓迎と敬意が詠われ、来訪者の安全、そして神への感謝を祈念します。 喜びを参加者全員で分かち合い、神に感謝し賛美します。ステップだけでなく、踊りに合わせて何度も繰り返し歌われる簡単な詩歌は初めて参加する人にもわかりやすいものです。知らず知らずのうちに歌をくちずさみ、軽快なステップを踏む様になる仕組みになっています。繰り返し「マエナ」を舞っていると、そこに精霊が降りてくるとも言われています。現在では多くのイベントでも歌われ踊られています。選挙活動に使われる時もあります。大勢で歌い、より多くの人とともに踊るほどよいとされています。動きはシンプルですが、多くの人々が一斉に舞うゆえ壮麗な舞踊となるのです。参加者みなが一体感を感じながら歌と踊りに興ずる様からは、ニアス島のみなぎる生命力が伝わってきます。 「マエナ」のリズムはニアス島に住む人々の鼓動のように感じます。歌と踊りにはコミュニティの生活が刻まれているのです。この事業ではモデル校の児童、教員、父兄が一緒になって協力し、この「マエナ」を活用した防災歌を創作します。そして学校で楽しく防災教育が持続するような仕組みを作っていきます。その創作過程を当サイトでご紹介してく予定です。どうぞお楽しみに!

【写真1】
地域恒例の行事での伝統舞踊「マエナ」
(撮影・高藤洋子)
【写真2】
創作した防災舞踊歌を唄い踊る児童
(撮影・高藤洋子)
(マエナについての紹介は「高藤洋子(2012) 『災害経験を語り継ぐ防災教育の実践-インドネシア・ニアス島の事例を中心に-』立教大学アジア地域研究所 」より抜粋)

【関連記事】

主な事業活動

 1年目はニアス島の中心地であるグヌンシトリ市内の小学校6校、2年目は南ニアス県の小学校6校をモデル校として
以下①~④の活動を行います。

①防災責任者の配置、指示系統、連絡網の整備、校内での避難経路の確保
②伝統舞踊「Maena」を活用した防災教材(防災舞踊歌)の創作と発表
③地恒例の地震津波祈念行事における「防災Maena」コンテストへの参加
④「防災Maena」の創作過程の記録や災害知識および防災知識を盛り込んだ防災ガイダンス資料の作成
⑤伝統舞踊「Maena」を活用した防災教育の課外授業科目への導入を対象地域官庁へ提案

 モデル校にはいずれも海岸、川岸からの距離が1000m以下の位置にあり津波発生リスクが高い学校を選定しました。
事業実施対象校の配置(立地箇所)および対象人数は下図をご参照ください。
(生徒数等は2016年計画策定時点の情報 )


【グヌンシトリ市内モデル校6校】
2016年8月から活動をスタートしたグヌンシトリ市内モデル校
6校の紹介です。

【南ニアス県モデル校6校】
2017年8月から活動をスタートする南ニアス県
モデル校6校の紹介です。

当該事業関連事項

【事業活動の様子】(使用言語)インドネシア語
ファイルを実施日順にアップする。