図書・情報館紹介

館長あいさつ

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 出張や調査で知らない街へいったら、大抵そのまちの本屋によることにしている。古書店はどこだって楽しい。それに、品揃えにポリシーを持っている(大抵は)個人経営の、小さめの書店もまた楽しい。 

 近年、四国・中国地方に出張する機会が多かった。香川県の高松市。どうもこの地方都市、今どき珍しいことに中心部の街路、それも個人商店に活気があって街が元気だ。数筋のアーケードが商店街を形成しているが「ライオン通り」なる歓楽街の某海鮮居酒屋は酒も肴も絶品。同じならびの別の店に入ればそこも大繁盛。聞けば、例にもれず20世紀末に衰退した旧市街のアーケード街を、デベロッパーなどいれずに地域の人々だけの力とアイデアで再活性化したという希有な例だ。

 このまちでも書店をさがした。中心部に総合書店はあるのだけれど、アーケードのはずれのほうに小さな佇まいの新刊書店がある。「ルヌガンガ」という名のその店は、小さな出版社の珠玉の刊行物、個人出版のジーンまで取り揃えてあって、その棚の丹念な品揃えには「こんな本出てたんだ」と教えられるところが多い。またその町で発行されている地域誌『せとうちスタイル』のレイアウトが洗練されているのにも関心。教材になるので購入。そういえばこの町、昨年逝去した平野甲賀さんが晩年に移住し、住われていた町でもある。平野甲賀さんといえば晶文社の多くの書籍を手がけた造本家。本学表現学部で教鞭を執り、何代か前の館長をつとめられた津野海太郎先生の僚友。私の研究室の隣にいた津野さんは、出版界の巨人。図書館を学生生活の中心とする取り組み、学生と図書館をつなぐ取り組みの走りをつくった人物だ。

 書店で物珍しい書物をあさって、夜更の町をほっつき歩いて、そんな繋がりを思い出した。町が居心地よく感じる。やはり、出版物とか書店というのは、ギャラリーと同様、まちの文化や住民の有り様を反映して、それを来訪者にも感じさせる要素なのだろう。

 本学の図書・情報館は蔵書60万冊。大学の規模にそぐわぬ程の充実。大学にとっての図書館というのは本を読んだり借りたり、勉強して情報を摂取する場所。それもある。加えてスタッフがいろんな棚を工夫するし、本にまつわるイベントもあれば、テーマに合わせて定期的に入れ替わるテーマ本棚なんて企画もある。「シラバス指定図書」コーナーは教員たちの思考の足跡が判明するようで、背表紙を眺めればその人柄が想像される。大学の中の図書館だから和光大学という"まち"に受継がれてきた空気を反映し続けてきたことだろう。学生、教職員はもとより、地域のみなさんにも居心地がよく、かつ刺激的な場所であり続けたい。以上、新任館長のご挨拶にかえて。

 

                                  2022年10月 図書・情報館長 半田 滋男

図書・情報館概要

館内には、本学教員や卒業生の作品も展示されています。

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和光大学附属図書館は、1966年大学創立と同時に発足しました。
当初は、書庫、閲覧スペースを含めて約300m2の小さな図書館でした。

1984年4月に、学生数、蔵書数の増加にあわせて、地上4階、地下1階(約 3,400平方メートル)の初代学長の名を冠した和光大学附属梅根記念図書館として開館し、1994年4月には、二期工事によって、総面積5,427平方メートルの規模になりました。

2009年4月には、図書館と情報センターが統合し、新たに「和光大学附属梅根記念図書・情報館」としてスタートしました。

これを受け同9月には、3Fメインフロアの改修を行い、学生の多様な学習・生活スタイルに対応できる施設へと発展しました。

図書資料は、ほとんどが直接手にとって利用できる自由接架システムを採用し、各階に資料検索システム<さとるくん>の端末も配置しています。

蔵書は、現代人間学部、表現学部、経済経営学部のそれぞれの領域に関する人文・社会科学分野の資料が中心となっています。特色ある資料として、教育学を中心にした蔵書からなる梅根文庫、中国現代文学研究資料および近現代関係資料などを中心とした図書・雑誌からなる小野文庫のほか、大高文庫、朝鮮資料、家永教科書裁判関係資料などを収蔵しています。

サービス面では、誰もが使いやすい図書・情報館を目指して、対面朗読サービスや、一般の方への貸出サービスの実施などにも努めています。

一方で、学内における情報ネットワークやコンピュータ教室(メディア室)などの情報関連施設・設備の整備・運用も行うことで、学内における総合的な情報基盤整備やITを活用した学習・研究支援の充実にも努めています。

誰もが使いやすく居心地のよい空間をめざして

1984年に開館した図書館は、"誰もが使いやすい図書館"をコンセプトに作られました。段差のないフロア、車椅子でも使いやすいローカウンターや書架間隔、ゆっくりとドアが開閉する設定のエレベータ、トイレの入り口の自動ドア化などはその表れです。

当時図書館建築の主流であった収蔵能力を重視した積層式書庫も、使いやすさの面から見て導入を見送り、各フロアに開架書架と閲覧座席を併設しました。いまほど広がっていなかったユニバーサルデザイン(障がい者・高齢者・健常者の区別なしに、すべての人が使いやすいように製品、建物、環境等をデザインすること)へのチャレンジでもありました。この考え方は現在も受け継がれており、2008年度末に導入された1階電動書架も通路幅をゆったりと確保し、利用時の圧迫感の軽減や車椅子での出入りなどに留意されています。

2009年度には組織改編でそれまでの図書館と情報センターが統合され、図書・情報館として生まれ変わり、それを機に「大学生活の一機能として位置づく滞在型図書館」をめざし館内をリニューアルしました。

コミュニケーション・ゾーン(3階)は、資料・情報・サービス・パソコン環境の総合的な利用の場、活発な交流やくつろぎの場として、スタディ・ゾーン(4・2・1・B1階)は資料を手元にじっくりと取り組める落ち着いた学びの場として棲み分けをし、時代の変化を視野に入れつつ多様な過ごし方ができる空間づくりを進めました。長時間の学習・利用を支えるため、イートインスペース(飲料の自動販売機あり。軽食OK)やラウンジも設置されています。それぞれのニーズに合わせて、ぜひ図書・情報館を活用してください。

"Observez la nature, et suivez la route qu'elle vous trace."―par J.J. Rousseau
「自然を見よ、そして自然の教える道に従ってゆけ」 J.J.ルソー著『エミール』より

梅根記念図書・情報館のエントランスホールの壁面に掲げられたレリーフ

梅根記念図書・情報館のエントランスホールの壁面に掲げられたレリーフ

「ルソーのことば」によせて 石原静子(名誉教授)

新図書館に入る人は誰でも、左側の大理石の壁に大きな浮き彫りの文字があるのに、気づくはず。ルソーって誰だか、知ってる? そう、十八世紀の思想家。故梅根学長が、学問上の初恋、といえるほどに好きだった人。だからフランス語だけど、読めますか。語学で取ってない、なんて言わずに、図書館で辞書借りて、引いてごらん。梅根さんも学生時代に、この『エミール』を読むために、わざわざ語学学校にフランス語習いに行ったんだって。語学はほんとはそうやって、必要を感じて学ぶもの。と、これも梅根さんが言いました。

辞書なくたって、初めのニ語くらい、見当つくでしょ。そう、「自然を見よ」。その先はちょっとムリだけど、「ルート」「トレース」なんて英語と似たのがありますよ。ヨーロッパ諸民族が歴史的に近い親類だってこと、コトバの上からも分かるんだな。分かった所で、後半分の訳を教えよう。「そして、自然の教える道に従ってゆけ」。これは、梅根さん自身の訳です。彼著『エミール入門』の36頁を、ひらいてごらん。

そこにもあるように、ルソーの強調する「自然」は、山や川とか動植物などをさすのではなく、また「人工」の反対、つまり人間でいえば自分の衝動のままに行動する、ことを意味してはいません。

少しむずかしくいうと、人間を含めた「世界を支配する根本原理」「普遍意志」(のことだと、梅根さんは彼の卒業論文で論じています)で、人は誰でもその年齢なりに、これに触れ従うことによって成長してゆく。例えば子どもなら、「自由にかけまわ」っていて「石につまづいて足をすりむくといった」経験によって、大人なら「社会に生きる人間の欠くべからざる義務である」ところの「労働」を通じて(どちらも『エミール入門』より引用)、自分を教育してゆくわけで、それがやがて「普遍意志」を表現した社会をつくることにつながる、というのです。

人間理想としての自然とは何か。とは、梅根さんが生涯追及した課題であり、和光大学を創ってからも、ずっと自分に、そして学生みんなに投げかけ続けてきたにちがいない問いです。

私たちが、彼を記念し和光の将来を託すこの図書館に、ルソーの自署と共にこの言葉を選んだのは、今後永くここに学ぶ一人一人が、それぞれに考え、また実践を試みるための礎石、と考えたからにほかなりません。

(和光大学通信第32号1984年4月1日刊より)

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