PAC分析応用心理学会報告より
日本応用心理学会第69回大会 ワークショップU  2002年 9月7日(土) 15:30〜18:00  
PAC分析の解釈をめぐって
<企画・司会> 井上 孝代(明治学院大学)
<講 師>
井上 孝代(明治学院大学)「PAC分析の機能と研究方法としての面接部分の留意点」
内藤 哲雄(信州大学)「デンドログラムの解駅を巡って」

<企画趣旨>
 PAC分析が心理学的な方法として質的分析と多変量解析を組み合わせたものとして着目されている。本ワークショップでは、2人の講師の問題提起をもとにしてPAC分析の初級者と、既に学会発表や論文を書いている中級者にとって役立つような問題、とりわけPAC分折の出カ(クラスター分析のデンドログラム)の解釈をめぐって実践的なディスカッションをおこなう。まず、井上からはカウンセリングの事倒研究から導かれたPAC分析の機能について概説し、研究方法としての面接部分の留意点について述べる。ついで、内藤は具体的なPAC分析のデンド口グラムの解釈をめぐって主にクラスターのまとめ方と関係の読みとリの点から述ぺていただく。参加者は内藤(1997)を既に目を通していることが望ましい。また、解釈の実例をさまざまな参加者から出していただくことにしたい。

(1)PAC分析の機能と研究方法としての面接部分の留意点」: 井上 孝代(明治学院大学)
 PAC分析は、開発された当初からカウンセリングや心理臨床への応用の可能性が指摘されていた(内藤,1993)。井上(1998)は、PAC分析のカウンセリング導入への効果を大きく3つの機能の分野に整理した。
 第1の機能分野は,1対1のカウンセリングの場におけるカウンセラーとクライエントの関係に注目した分野である。カウンセリング場面における2者関係は特徴的な関係であって、この関係の成否がカウンセリングの成功・不成功に重要な意味をもつこの第1の分野をヴィゴツキーの用語にならい「直接的精神間機能分野」とよぶことにする。「直接的」としたのは,この機能がカウンセリング場面という1対1のマイク口・システム(Bronfenbrenner,1979 磯貝・福永訳)を基本に展開されるためである。
 第2にクライエント自身の精神世界とその変化についてPAC分析の及ぼす影響を「精神内機能分野」とよび検討する。カウンセリングにおいては,最も本質的な無意識を含めた心の構造や問題の明確化や現象学的理解が問題となろう。
 第3の機能分野は1対1のカウンセリング場面を越えて作用するPAC分析の効果に関するものであり、第3者への働きかけにおけるPAC分析の効果を検討する。これはマイクロ・システムの外にある人間を対象とするので、「間接的精神間機能分野」とよぶことにする。
 第1の「直接的精神間機能分野」では、まず、「カウンセリング導入への心理的抵抗を低減し,動機を高める」ことにより、関係が成立することを助ける道具としてPAC分析が有用である。これを【1a.導入促進機能】とよぶことにする。次に、クライエントが心理的に抵抗ある事柄も含めて、自己開示をおこなっていく上で、PAC分析は語連想という心理的に抵抗がない方法から出発し,樹形図による自己対面による対話をとおして、自己開示の効果があると予測し、これを【1b.自己開示促進機能】と名付ける。PAC分析はカウンセラーとクライエン卜の2者の共同活動によって信頼感を深め関係の安定に寄与すると考えられる。これを【1c.信頼感形成機能】とよぶ。さらに、樹形図解釈の対話などを通して,共通話題によるコミユ二ケーションがPAC分析終了後も含めて)発展する効果が考えられるので、これを【1d対話発展機能】とよぷ。
 第2の機能分野「精神内機能分野」では、クライエン卜の内面で、問題への認識と自己理解を深める道具としてのPAC分析の役割が考えられる(精神内機能分野)。まず、【1d.対話発展機能】とも関連するが、共有知識的理解が共同活動を通して深まる効果が考えられるので、これを【2a.共有知識的理解機能】とよぷ。適切な刺激語によるPAC分析により問題の「明確化」が生ずる効果を起こすことを【2b.明確化機能】とよぶ。また、PAC分析の全体を通してクライ工ン卜の自己理解と他者理解が促進することが期待される。これを【2c.自己理解促進機能】とよぷ。さらに、カウンセラーにとっても認識の深まリや気づきのきっかけになる可能性もあるので、これを【2d.カウンセラー気づき機能】とよぶ。
 第3の機能分野として、「間接的精神間機能分野」では、カウンセリングの1対1の場面を超えて、クライエン卜の持っている内面世界を、第3者にも理解可能な形で提示する。客観的なデータ・資料・査定・評価の道具としてのPAC分析の機能がある。いわゆる心理テストの1種としてのPAC分析の機能である。まず、カウンセリング過程内で生じている、個の主観的世界を客観的に記述し記録することができる効果が期待される。これを【3a.記述記録機能】とよぷ。次に、関係書へのコンサルテーションのための客観的資料として、クライエン卜の状況を設明するための道具としての効果が考えられる。これを【3b.実務設明機能】とよぷ。カウンセリングの効果を測定・評価するために、クライエントの内面世界がカウンセリング開始時からカウンセリング終結時の2時点でどのように変化したかをPAC分析によって、いわぱ事前・事後テスト的に利用し、カウンセリングの効果を評価することが可能である。これを【3c.評価査定機能】とよぶ。
 このなかでの第3の機能分野を実現するために実際の面接にどのような注意が必要かについて述べる。
文献:井上孝代 1998 カウンセリングにおけるPAC(個人別態度構造)分析の効果 心理学研究, 69, 295-303.


(2)「デンド口グラムの解釈を巡って」:内藤 哲雄(信州大学)
 PAC分析は、当該テーマに関する自由連想(アクセス)、連想項目間の類似度評定、類似度距離行列によるクラスター分析、被検者によるクラスター構造のイメージや解釈の報告、検査者による総合的解釈を通じて、個人ごとに態度やイメージの構造を分析する方法である。今回のワークショップでは、クラスター構造(デンドログラム)の解釈を巡る技法について取リ上げる。クラスター構造の析出法は、統計ソフ卜HALWNに代表されるように、1項目ずつ結節していくものと、SPSSに代表されるように、クラスター同士を結節するものの2つに分類できる。では、項目ごとの連鎖を折出するので、スクリプトなどの解明や、クラスター間の結節に関わる重要項目を発見することができる。どの項目がクラスター間の結節や全体構造の要となるのかを発見することは、心理臨床や集団運営における診断に有効である。これに対して、では、各クラスターがどのように結合されていくのかを析出するので、要因間の関係を明らかにするのに適している。以下の解釈技法のポイン卜は、とのいずれにも当てはまる。
<クラスターの切断について:検査者による事前解釈>
 クラスターのまとまりを決定する作業は、原則として距離による。換言するならば、ある距離によってデンドログラムを切断することになる。距離は、切断された各クラスターが有効な固まリとなると分析者が判断できるのならば、どこであっても統計上は間題ない。分析者の解釈に依存しておリ、恣意性から逃れられないのが弱点とされている。PAC分析では、被検者が1名であるので被検者に聞くことができる。しかし、それでも原案は検査者の判断による。
 それでは切断する距離をいかなる風に決定するのか? 内藤は、次のようにしている。まず、2から3、多くても5つぐらいの分劇として、項目の内容を探ってみる。これは、多すぎると細かな分析になって、全体構造のイメージを被検者も検査者も掴みにくいためです。クラスターの項目内容については、異質でまとまり難いと感じられるときは、分割することを想定している。すると、切断距離はそこまで短くなる。逆に他の部分も含めて感じてみると、コインの裏表のようにまとめた方がよいと感じることもある。分割すべきか否かを被検者に確認することもある。上記のような切断法が原則だが、まれに斜線や曲線で切断する解釈を被検者が報告し、それに従った方が有効な解釈になることがある。
<クラスター間の関係について>
 クラスター間の関係については.被検者がどのように報告するかとは別に(独立して)、クラスターの結節から上位の下位の関係や、包含されたクラスターがさらに他のクラスターとどのように連関していくのかは、クラスター間の結節を全項目から出発して1つにまとまる最終段階までを丹念に繰り返し追跡することで明らかになる。これによって、連関関係だけでなく、因果関係を推定できることが少なく無い。これらのクラスター構造の読み取リに、被検者によるイメージ報告を合わせると、劇的に了解できることが少なくない。被検者の報告だけに依存したリ、研究者の主観だけによって、クラスター間の上下関係や連関関係を解釈する検査者がいる。これは、切断してクラスターのまとまりを見つけるだけにとどまっており、それまでの結節や最終段階までの結節を折出しているデンドログラムの貴重な情報を捨てていることによる。デンド口グラムの読み取リには、有効なクラスターの発見するためにする切断の作業と、結節を追跡していくことでクラスター間の関係を読みとる作業の2つがあるのである。後者は、構造の総合的解釈に際して不可欠なものである。
文献:内藤哲雄 2002 PAC分析実施法入門[改訂版] 「個」を科学する新技法への招待 ナカニシヤ出版


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http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaap/work.html
作成日: 06/08/10

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伊藤武彦研究室