実験大学を実験材料にした実験
和光大学人間関係学部助教授・堂前雅史
和光大学は、和光坂と呼ばれる坂を汗かきながら登ってキャンパスにたどり着く。すなわち山の上にあるのだ。和光大学キャンパスの位置する山は古来「逢坂山」と呼ばれた、谷戸地の山であった。開学以前の逢坂山の姿はキャンパス南部に名残をとどめ、その区域は2004年3月に「岡上和光山緑の保全地域」に指定された。しかし指定というものは書類上の手続きに過ぎない。どういう手続きを取ろうが、所詮は人間様の勝手で、当の森の動植物にとっては直接には関係ないはずである。不思議なことに、この書類というものに書かれていることが、人間という動物の行動に影響を与える。計画書という書類に、この森をどのようにするつもりで、どんなことをするのかが書かれていると、それによって人間の森への態度が変化して、森の動植物の運命が決まるのだ。
本計画書には、この森について具体的アイデアの数々が盛り込まれている。これらのアイデアは和光大学の学生たちが独自に考案したものである。これまで自然保護とは縁の薄かった学生たちが森に接しながら考えたことがちりばめられている。これによって、森の姿はなんらかの方向に向かうであろう。貴重な花々が咲き乱れ、鳥獣が帰ってくる林になるかも知れない。あるいは授業や実習の教材に使う森になるかも知れない。しかし素人の学生が考えた計画である。勘違いや、あるいは思いもしなかった森の変化に出くわすこともあるかも知れない。そんなときには、また学生たちでこの計画書を作り直して、また森の姿を描き直していくことになろう。試してみなくては分からない。つまり、これは森全体を実験材料とした、何年何十年もかけて行われる巨大な学生実験なのである。
和光大学は「小さな実験大学」という名前を持って開学された。でも開学者は気づいていなかったかも知れない。大学キャンパスと、それに対する学生教職員のふるまいも実験材料だということを。