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ずいぶん、ごぶさたしてしまった。
冬学期はモントリオールのマッギル大学で教えていて、そこでの生活を書こうとも思ったが、何だかサバティカル(研究休暇)みたいに見えたらイヤだし、実際、週に二日、英語で講義をして議論や論文指導までするのは大変だったので何も書けずにいたのだった。
春からは和光大学に関心をもつ高校生や保護者の方と週末のオープンキャンパスなどでお会いする仕事が忙しく、ついついブログを延々さぼることになってしまった。けれど、書きたいネタはいろいろあるので、これを再スタートとしたい。
春先に、二年間続く入試委員に指名されたとき決めていたことがあった。
進行中の単行本の作業はおそらく遅れるだろう、ならばせめて翻訳をやろう。雑務が忙しくて論文が書けないとか、本が出せないなんて台詞を絶対言わないようにしよう、という気持ちがあった。
案のじょう、複数進行している単行本の方は遅れに遅れている。バァや居酒屋で読書しながら飲んだくれる自堕落な日常のせいもある。しかし、やっと何とか一冊、翻訳本を出すことができた。週末から店頭に並ぶし、和光大学の生協でも売っているはずだ。
いや、夏の忙しい時期でのゲラいじりは、編集者にも苦労をかけたので、ちょっと今回は感慨もなくはない。
この著作、文学や思想だけでなく、音楽や映像、ダンスや演劇に関心をもつ高校生がオープンキャンパスに訪ねてくれたり、受験してくれたりする総合文化学科の構成員だからこそ、ぜひとも訳しておきたかった。
著作の名前は『リズム・サイエンス』、著者はDJ Spookyこと、ポール・D・ミラーというDJである。刊行されたのはMIT(マサチューセッツ工科大学)の出版局である。邦訳は青土社から刊行された。
原書にはCDがついていて、スプーキー自身のミックスが楽しめる。ヒップホップ、ジャズ、アンビエント・・・自由奔放にジャンルとスタイルを横断する彼の仕事を聴きながら、そのテクストを読めるという豪奢で憎い構成になっている。CDはちゃんと邦訳版にも付属しているので、お買い得である。
彼はDJだが、この本では音楽や音源のミックスやサンプリングと、文学や思想、アートや映画、演劇の関わりを詳細に追っている。まずウィリアム・バロウズのカットアップ論を通して「書くこと」(ライティング)とDJの相同が語られる(彼のもう一つのプロジェクト名である「サブリミナル・キッド」は言わずと知れたバロウズの小説からの引用である)。
さらに、彼自身、グリフィスの『国民の創生』という映画を再構成した作品に取り組んだことがあるので、映画や映像のモンタージュと音楽のミックスの類似もまた詳しく論じられている。「音響彫刻」や「リズミック・シネマ」といった章では、現代美術(コンテンポラリー・アート)と音楽のミックスの接点が考察されている。
ガートルード・スタインやデュボイスの文学、デュシャンの美術と、彼の音楽観、DJ論、メディア論がどこでどう噛み合っていくかを確認していくのはとてもスリリングである。
いや、まさに表現学部という職場にいて、たまにDJもする自分としては、どうしても訳しておかなくてはならない著作だった。幸い、いくつかの英語圏のMLを通して、NYとの半日の時差のせいもあって非常にスピーディーな「メル友」でいられる著者のポール/スプーキーには、翻訳作業の仕上げにいろいろ細かい質問事項を聞くこともできた。
原稿用紙で30枚ほど書いた解説と同じことを、ここで繰り返すことはしない。ただ「DJすることは書くこと/書くことはDJすること」という章句に、何かを感じとってほしい。
この本はA面とB面というレコードみたいな構成の章立てになっていて、A面の冒頭は「白痴------フリースタイル」となっていて、B面は「娼婦」となっている。ここには文学(小説)と音楽、書くことや読むことと聴くこと、さらにTJ(テクストジョッキー)とDJの間の重大な接点が謎かけのように込められている。
後期は、「言語表現の現在」という水曜三限の授業で、この本をテクストにしているので、このあたりを喋っている。最近の和光の学生さんは、ちょっと前と異なってクラブ音楽やDJ文化にさほど親しんでないようなので語り方にも苦労があるが、講義でつかんだ言葉の塩梅はしっかり翻訳にも活かしたつもりである。
宣伝から再スタートという、いささか貧乏くさくカッコ悪い有様だが、この本ともどもまたよろしく。

日本文化文学コース
上野俊哉
Toshiya Ueno



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1 : From space tiger | 2008年10月29日 13:45
はじめてコメントします。
ただの観客としてですが楽しみにしていたのに、最近はオープンキャンパスの報告ばかりだな、と思っていたら入試委員会になっていたんですね。
ご苦労様です。
「大学の教授にもなって、本の一冊もださないなんて、よほどうかうかしているとしか思えない」
という一文を、とあるエッセイで読んだことがあります。
20年以上前の和光の先生でした。
「本を読むヒマがない」というのも、同年代からよくききますが、これも「よほどうかうかしてるとしか思えない」、と言うことができそうですね。
入試委員会に、国籍の違うふたつの大学で教えていて、本を出す人もいるわけですから。
DJやTJといわれると『UTS(アーバン・トライバル・スタディーズ)』を思い出しますが、今回の本でまた違ったDJとTJの一局面を見ることが出来る、ということでしょうか。
2 : From Toshiya the tribal | 2008年11月03日 00:08
コメントありがとうございます。
ちょっと数日、東京を離れ、島の風、山の温もりをテントやサウンドシステムと一緒に味わっていました。先ほど、Babylon Tokyoに帰還したので、返事が遅れました。
そのころの学生さんはいい意味で生意気で、背伸びもし、こちらの知らないこと、感じることのできないことをいろいろ教えてくれたものです。もうすっかりオヤジなので、今の若い人の気持ちはだいぶわからなくなっています。生意気や背伸びや「凝る」ことに、もはや価値をおかない世代にとって、ぼくはオールドタイプにしかすぎません。
けれど、パーティやクラブのシーンでは、つまりビートとヴァイブの世界では、まだまだ世代を横断する感覚のつながりを生きることができて、どうして同じことがなかなか今の大学ではできないのか、それが不思議でもあります。
今年はあと一冊何とか翻訳を仕上げて、自分の単行本もいくつかまとめないといけないので、うまくこのブログも景気づけに使っていくつもりです。
3 : From space tiger | 2008年12月17日 21:50
せっかくお返事して頂いたのに、気が付きませんでした。スミマセン。
先ほどtopでラジオで出演されると知りました。
楽しみにしています。あ、それより先に読まなきゃですね。
今年もすでに残すところ1ヶ月をきっておりますが・・・
ますますのご活躍、期待しております。