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教員ブログ

ジブリアニメの神話学

2011年9月3日

 9月18日(日)のオープン・キャンパスで「ジブリアニメの神話学」と題した模擬授業を行います。そこで、それにちなむ話題を。

 私の専門の一つは日本古代の神話ですが、その神話を読む授業で、私はしばしば宮崎駿監督の作品に触れます。なぜかと言うと、宮崎監督のいくつかのアニメは古代神話とよく似ていると感じるからです。

 宮崎監督は『崖の上のポニョ』制作の様子を伝えたドキュメンタリーの中で、「場面のイメージやストーリーの重要なところは頭で考えない。自分の無意識に釣り糸を垂れて、そこから何かが釣り上がるのを待つのだ」という趣旨のことを語っています。私はこの発言を聞いて、なぜ古代神話とジブリアニメが似ているのか、よくわかった気がしました。

 「神話」というのは人間にとって大事な問題を物語の形をとって考えたものです。だから、同じテーマの物語がいろいろなバリエーションをもちつつ、くり返し語られてきました。そして、そのくり返された物語の型は文化的記憶として人間の心の奥底に沈殿している可能性があります。宮崎監督が自分の無意識から「釣り上げ」たイメージや物語が古代の神話とよく似ているのは、たぶんそのためなのです。

 前期の私のゼミでは『もののけ姫』に登場するキャラクター(?)であるコダマ(木の精霊でしょう)の原像を古代に探った発表があり、とても興味深いものでした。以下、その発表の一部をご紹介します。

 「こだま」という言葉(名前)は、10世紀の日本で作られた(いわば)漢和辞典『和名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう)に出てきます。そこでは、漢語(中国語)の「木魅」「樹神」のことを「和名」(日本語の名詞)では「こだま」というのだとあります。「木魅」の「魅」は「魑魅魍魎」(ちみもうりょう)の「魅」。「バケモノ」「妖怪」のことです。木の妖怪が「こだま」とは、語源は「木」(こ)+「魂」(たま)ということでしょうね。

 その次には、11世紀の『源氏物語』に出てきます。庭が手入れされず、木立ちが勝手に生い茂ると「こだま」がだんだん姿を現すようになるとか、「こだま」は狐と同様に人を化かす、などと書かれています。平安時代の人々にとっては常識だったのでしょう。

 そもそも古代人にとって木とは人間に向けて何ごとかを話しかけたりするような存在でした。だから、山から切り出す時にも細心の注意が必要だし、建築用材にする時には、ものを言ったりしないよう鎮める必要がありました。一方で、そういう神秘のものゆえに、神様に対する最高のお供え物でした(現代の神社における榊奉納もそれ)。それで、斎部(いんべ)氏というそれ専門の一族がいて、そのための技術と呪文を持っていました。古代の「こだま」というのはそういう樹木の力がキャラクター化されたものだと思います。

 ここから『もののけ姫』のコダマへは、もうほんの一歩だと思われませんか。ともあれ、総合文化学科ではこういう研究もできるのです。

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