[第三章]

コア人材に関するヒアリング調査の分析・考察Ⅱ

中国日系企業を中心に

 

 1――本ヒアリング調査の目的
鈴木岩行 和光大学教員

 本ヒアリング調査の目的は第二章で述べたように二つある。一つはマクロ的なアンケート調査から見えてこない事実や重要事項を発見することにある。本ヒアリング調査では、これまでの先行研究や調査ではあまり明らかにされることのなかった日系企業の経営の現地化度についてヒアリングを行なっている。

 本ヒアリング調査のもう一つの目的は、事前に実施したアンケート調査の結果やデータの解釈を定性的なヒアリング調査により補完したり、あるいはアンケート調査結果を導くに至った要素や事実を抽出することにある。特に、コア人材の採用・選考の実際、キャリア形成のあり方、定着策の実際、コア人材に対する考え方などをヒアリング調査で明らかにしたいと考えている。

 

 2――本ヒアリング調査における仮説

 本ヒアリング調査を実施するうえでの仮説は、第二章と同様に以下の三つである。

 仮説1:経営の現地化度が高い日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。

 仮説2:出資比率が低い日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。

 仮説3:高学歴者、ホワイトカラーを採用している日系企業は、コア人材の採用・育成活用に積極的である。

 なお、仮説1における経営の現地化度は、現地従業員の管理職への登用率、権限の委譲度、会議への参画度の三つの視点から評価・測定する。

 

 3――本ヒアリング調査対象企業の概要

    および実施時期

 ヒアリング調査は、事前に実施したアンケート調査に協力してくれた企業群の中から有意に抽出した六社を対象に実施した。ヒアリング調査対象企業の地域は華北(天津一社、青島二社)と華南(広州一社、東莞二社)であり、業種は五社が機械関連製造業で、一社が素材関連製造業である。なお、本ヒアリング調査は二〇〇二年八月二日~八月八日の七日間にかけて実施した。

 

 4――ヒアリング調査から導き出された

    特筆すべき重要事項

 中国における六社の日系企業に対して行なったヒアリング調査を通して判明した重要事項をまとめると、以下のようになる(詳細は「ヒアリング調査記録」および資料「ヒアリング調査結果の概要」参照)。

 (1)コア人材の定義は、課長(中国では科長)以上が四社で、部長(中国では経理)以上一社、工場長一社となっている。

 (2)現地子会社の社長(中国では総経理)は、六社すべてで日本人が就いており、中国人が社長になっている企業はない。

 (3)課長クラスは多くを中国人が占めているが、部長クラスはまだ少なく経営の中枢には日本人派遣者が就いている。

 (4)コア人材の人事権(採用決定権)は四社で日本人の社長または役員がもち、一社は日本本社がもっている。現地法人の人事部門がもっているのは一社だけであった。

 (5)コア人材の採用は、中途採用と新卒採用が三社ずつであり、中途採用する理由として二社で新卒採用が難しいことをあげている。

 (6)コア人材の選抜要件で重視されるのは、実績、実行力、人柄等である。

 (7)コア人材のキャリア形成はパターンⅡからパターンⅢへ移りつつある。

 (8)コア人材としての評価制度はまだできておらず、評価が難しいという意見が多かった。

 (9)コア人材の昇進の可能性は五社が現地法人の部長までとし、役員までとするのは一社だけである。

 (10)コア人材に対する定着策としては、給与・賞与、昇進の可能性、福利厚生などの経済的インセンティブが極めて有効である。しかし、それだけでなく企業に定着するかについて中国人は会社の将来性を重視するとする企業がある。

 (11)経営の現地化の推進策として、コア人材の考え方は有効であるという企業は多い。しかし、人材の流動の激しい中国ではコア人材を育成するのは難しいとする企業が半数を占める。

 

 5――仮説の検証

 本ヒアリング調査における仮説の検証は、経営の現地化度に関するヒアリング調査結果に基づき、各仮説ごと詳細な分析・考察を通して行なっていくこととする(詳細は資料「経営の現地化度に関するヒアリング調査結果」参照)。

 仮説1――経営の現地化度が高い日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。

 表1からO社に代表されるように、経営の現地化度が低い日系企業はコア人材の採用・育成・活用に消極的であるが、現地化度が相対的に高いL社やN社も消極的である。仮説1は立証されるには至らなかった。

 仮説2――出資比率が低い日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。

 表2から出資比率が比較的低いN社において、コア人材の採用・育成・活用は消極的である。一方、出資比率の高いM社においてコア人材の採用・育成・活用は積極的に展開されている。以上の点から、仮説2は立証されるに至らなかった。

 仮説3――高学歴者、ホワイトカラーを採用している日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。

 表3から大卒を採用している日系企業のうち、M社はコア人材に対して積極的に取り組んでいるが、半数の三社(N、O、P社)はコア人材に対する積極的な姿勢は見られない。以上の点から、仮説3は立証されるに至らなかった。

 

 6――小括:結びにかえて

 ①中国の日系企業においては、課長クラスの職位には登用されているが、部長クラス以上への昇進は少ない。会議への参画の機会や権限の委譲もまだ少なく、コア人材に対する積極的な取り組み姿勢は見られない。

 ②コア人材に対する取り組みが消極的な理由として、中国経済の発展が非常に速く、人材不足で人材の流動化が激しいため、日系企業にコア人材を育成する余裕がないことがあげられよう。

 ③また、ヒアリングをした中国の日系企業は東南アジアの日系企業に比べて設立年数が短く(中国平均七年、東南アジア平均一八年)、コア人材育成のノウハウが蓄積されていないことも理由の一つであろう。

 ④コア人材が重要と思われる中国で、日系企業でコア人材の育成・活用が進まないと、他の外資系企業や勢力を拡大しつつある中国国内企業にさまざまな面で遅れをとる恐れがある。

 

 


  ヒアリング調査の記録(中国)


 

◎中国六社の事例

事例一 機械関連製造業K社(天津)

 

 1―会社概要

 業  種:自動車部品、半導体製造業
 設立年月:一九九五年七月
 進出目的:安価な労働力、日本への逆輸入
 企業形態:多数合弁
 従業員数:現地従業員四五二人(内ホワイトカラー六〇人)
      日本人派遣者八人

 

 2―コア人材の定義

   同社では一八人いる管理職をコア人材と位置付けている。一八人中八人の日本人を除く中国人管理職一〇人中八人が科長(課長)、二人が経理(部長)である。経理のうち一人は人事・総務を担当し、もう一人が営業と生産管理を兼務している。営業と生産管理を兼務するのは税金関係を担当しているためである。総経理(社長)は日本人である。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社では四年制大学を卒業した勤続一〇年以上の者をコア人材と考えている。その理由は中国では大卒者とそうでない者とは知識に取り組む姿勢や向上心などかなりの差が認められ、また少なくとも一〇年勤めないと仕事ができるようにならないからである。これに該当する人は他社からの誘いがあり流動性が高く、定着率が低いため同社ではコア人材がかなり不足していると感じている。

 

 4―コア人材の採用・選抜

 コア人材の採用は経験者採用が中心のため、職業紹介機構や新聞広告を利用している。開発・設計担当者は新規学卒者を採用し、日本へ二年間派遣し教育している。しかし、二〇人採用して残るのは一人か二人であり、新規学卒者を育てるのは難しいと感じている。

 コア人材の選抜は現地子会社で行ない、最終的に日本人総経理が決定している。選抜要件としては入社時から三年目くらいまでは実績を最も重視するが、それ以降はリーダーシップを最も重視する。その理由は中国人従業員は仲間意識が強いため、管理職になっても他の従業員を注意できないものがいる。それではコア人材としての管理職失格のため、リーダーシップが必須であると考えている。

 

 5―コア人材の育成・キャリア形成

 同社ではコア人材の育成のために社外の育成機関(出身大学)へ派遣したり、前述のように開発・設計担当者は日本へ二年間派遣し教育している。

 コア人材のキャリア形成は、これまでは一定年齢まで一つの職務で高度な専門性を身につけ、その分野のプロフェッショナルを育成する方法が主であった。コア人材は幅広い経験を必要とするため、今後は一定年齢までに幅広い職務を経験し、将来の中核となる人材を育成する方法への変更を考えている。

 

 6―コア人材の職種と評価・活用

 同社ではコア人材を生産・技術職で最も必要としており、開発・設計が次ぐ。他の営業、総務・人事、財務・経理などではあまり必要としていない。現在、同社は日本で受託・設計したものを現地で生産し、日本へ輸出しているが、将来は自立するために現地で受託・設計し、現地で販売したいとしている。

 コア人材の昇進の可能性としては、コストの面からも日本人を減らし経営の現地化を目指しており、将来は現地子会社を中国人に任せたいので、年数が経てば子会社の社長・役員候補が出てくると考えている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社ではコア人材の定着策として給与・賞与の反映幅の拡大と昇進・昇格のスピードが非常に有効であるとしている。実際にコア人材と見なしたものを半年で昇進・昇格させおり、他の人の二倍のスピードである。また、中国人は定着には給与、地位はもちろんであるが、それだけでなく勤務している会社の発展性を重視すると理解している。

 

 8―コア人材に対する考え方

 コア人材という考え方は非常に有効なものだが、選抜のための基準作りや評価が難しく、育成に費用・時間がかかり、また要件を満たす人材も少ないのが現状である。したがって、中国では全面的にではなく、どちらかというと受け入れられるとしている。


 

 

事例二 機械関連製造業L社(青島)

 

 1―会社概要

 業  種:精密機械製造業
 設立年月:一九九七年七月
 進出目的:日本への逆輸入や第三国への輸出、安価な労働力、法的・税制等の優遇措置
 企業形態:多数合弁(中国側は個人で出資のため、経営には携わっていない)
 従業員数:現地従業員数二四人(内ホワイトカラー〇人、ブルーカラーとの区別なし)
      日本人派遣者一人
 

 2―コア人材の定義

 同社では管理職でも現場で作業をするため、ホワイトカラーとブルーカラーとの区別はない。機械ごとに管理職が五人いるが、コア人材とは管理職から工場全体を統括できる工場長へなれる人と理解している。現在、中国人工場長はいないため、日本人派遣者が兼任している。

 

 3―コア人材の過不足感

 コア人材である工場長に任命すると権限を乱用したり、従業員をまとめられなかったりと職責を果たせないので、現地子会社設立以来工場長は毎年変わっている。したがって、コア人材は不足している。

 

 4―コア人材の採用・選抜

 同社ではコア人材は最低限管理職であり、経験者でないと務まらないので、新卒者は採用しない。他社で工場長の経験のある人を採用する。口コミで同社が工場長を募集しているのを知り、売り込みに来た人を採用したことがある。

 コア人材の選抜を最終的に決定するのは同社董事長(会長)である本社の社長である。選抜要件は社内での実績と実行力である。同社の従業員は全員一つの村から採用したので、従業員全員が同じ方向を向きやすい。従業員を引き付けられるかは工場長の実績と実行力にかかっているからである。また、大卒は現場に入らないため、選抜要件に学歴は一切考慮しない。

 

 5―コア人材の育成・キャリア形成

 コア人材を意識した能力開発として、到達点は指示するがやり方は教えずにまず現場にほうり込み、実際に自分でどこまでできるか見る方法を取っている。

 キャリア形成はこれまでは自分の専門以外やらないプロフェッショナル的なやり方であったが、今後は工場全体を統括するためには幅広い職務を経験しながらキャリアを形成する方法を採用したいと考えている。

 

 6―コア人材の職種と評価・活用

 同社ではコア人材を生産・技術職だけでなく、営業でも非常に必要と感じている。人的関係により価格が左右されるため、販売で交渉力が必要なことはもちろんであるが、原材料費が販売価格の七~八割を占める同社では購入でも有能な人材が必要だからである。

 評価の方法は工場長に自分で目標を立てさせ、目標を達成すれば達成率に応じて一般従業員の一・五~二倍の報酬を出し、達成できなければ降格となる。前の工場長は目標を達成できなかったため降格した。

 コア人材の昇進の可能性は、同社は客先の八〇%が日本向けでクイックレスポンスしなければならず経営を全面的に任せるには難しく、工場長までと考えている。ちなみに同社親会社は威海にも現地工場を所有しているが、そこは大量生産品中心のため日本人は常駐せず、現地に任せている。

 

 7―コア人材の定着策

 コア人材の定着策としては給与・賞与の反映幅の拡大と裁量権の拡大が非常に有効であると考えている。同社では前述のように給与を一般従業員の一・五~二倍とするほか、住居も支給している。青島現地では欧米企業や中国企業がもっと高給を払っているが、日系企業では無理だとしている。

 

 8―コア人材に対する考え方

 コア人材という考え方は能力があるものを引き付けるシステムで非常に有効なものだが、選抜のための基準作りや評価が難しく、育成に費用・時間がかかり、同社のような小規模な企業は育成に時間をかけられない。また、裁量権を与えると乱用するため、コア人材という考え方はあまり受け入れられないとしている。


 

 

事例三 素材関連製造業M社(青島)

 

 1―会社概要

 業  種:食品添加物の製造
 設立年月:一九九四年七月
 進出目的:日本への逆輸入、安価な労働力
 企業形態:単独出資
 従業員数:現地従業員数一七〇人(内ホワイトカラー四〇人)
      日本人派遣者三人

 

 2―コア人材の定義

 同社では一〇人いる管理職をコア人材と位置付けている。一〇人中三人の日本人を除く中国人管理職七人中五人が科長、二人が経理である。経理のうち一人は人事・総務を、もう一人が投資を担当している。中国人副総経理が一人いるが名誉職的存在である。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社は現地子会社設立八年で、まだ会社を任せられるような中国人が育っていないため、営業面・工場内の技術面ともに日本人派遣者が中心となって会社経営を行なっている。総経理(日本人)は八年間同一人物が務めている。したがって、コア人材はかなり不足していると感じている。

 

 4―コア人材の採用・選抜

 同社の採用は大学に新規学卒者の求人を出すやり方が最も多く、職安に求人募集をしたり、新聞に求人広告を出すことも行なっている。
 コア人材の選抜は入社時は現地子会社の人事部門が行ない、入社後は日本人の総経理および役員が行なう。選抜要件としては入社時は学歴や人柄を重視し、三年目くらいより後は社内での実績と専門性を重視している。

 

 5―コア人材の育成・キャリア形成

 同社ではコア人材の育成のためにコア人材を意識したキャリア形成策を考えている。その方法はコア人材となりそうな人にさまざまな職務を経験させることによりキャリアを形成させるというやり方である。

 コア人材のキャリア形成は、これまでは会社立ちあげ期間ということもあり、一定年齢まで一つの職務で高度な専門性を身につけ、その分野のプロフェッショナルを育成する方法が主であった。コア人材は幅広い経験を必要とするため、今後は前述のように一定年齢までに幅広い職務を経験させ、将来の中核となる人材を育成する方法への変更を考えている。

 

 6―コア人材の職種と評価・活用

 同社ではコア人材を営業、総務・人事、財務・経理、生産・技術職で必要としている。現在は開発・設計ではあまり必要としていない。製品の九〇%は日本へ輸出しているため、生産方針は日本本社で決定され、それに基づき開発・設計も本社で行なわれているからである。
 同社はコストの面からも日本人を減らし、日本人は総経理だけにしたいと考えている。コア人材の昇進の可能性としては、創業から八年いる従業員が五年~一〇年たって四〇歳ぐらいになったとき、子会社の役員になれるのではと考えている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社ではコア人材の定着策として給与・賞与の反映幅の拡大と昇進・昇格のスピードが非常に有効であり、ほかに裁量権の拡大、社内公募制、表彰制度もどちらかというと有効であるとしている。社内公募制は新たな仕事ができたときに行なっている。もし既存の仕事で公募をし、仮に応募したものがあったすると、その中国人従業員は属する部署に不満をもっていると見られるだろう。中国人はそういうことを非常に嫌うため応募者はないと考えているので、既存の仕事での公募は行なっていない。

 

 8―コア人材に対する考え方

 コア人材という考え方は選抜のための基準作りや評価が難しく、育成に費用・時間がかかるが非常に有効なものと理解している。したがって、中国では全面的に大いに受け入れられるとしている。


 

 

 事例四 機械関連製造業N社(広州)

 

 1―会社概要

 業  種:輸送機械製造業
 設立年月:一九九二年八月
 進出目的:現地市場
 企業形態:中国国有企業との半数合弁
 従業員数:現地従業員二二五〇人(内ホワイトカラー六五〇人)
      日本人派遣者五人

 

 2―コア人材の定義

 同社では一二五人いる管理職のうち科長以上をコア人材と位置付けており、科長五七人、経理助理三〇人、経理九人が存在している。従業員二〇〇〇人以上の同社で日本人は役員三人と管理職二人の計五人であるが、合弁相手が国有企業ということもあり、生産・開発・資材調達・品質管理など重要な部署は日本人が担っている。

 

 3―コア人材の過不足感

 合弁一〇年で親会社の考えが同社に根付き、コア人材が育成されたと考えているため、同社はコア人材は十分であるとしている。人員が足りていることもあり、ここ三年間採用していない。

 

 4―コア人材の採用・選抜

 同社ではコア人材の採用は基本的には新規学卒者の定期採用であるが、前述のように三年間採用していない。ちなみに中国では製造業は不人気で、同社のような著名な企業よりも商社や銀行などの希望者が多いとのことである。
 コア人材の選抜は入社後に日本人の総経理および役員が行なう。選抜要件としては社内での実績、人柄、実行力を重視している。人柄を重視するのは中国で今後国際的センスをもつことが必要となると考えるからである。

 

 5―コア人材の育成・キャリア形成

 平社員を科長(コア人材)に登用するのに次の三つの方法を取っている。一つは責任請負人で、担当部署の科長にし、三カ月~半年仕事振りを見て、良ければそのまま科長をさせるが、仕事ができなければ元の平社員に戻す。二つ目は科長助理にして、科長の仕事ができるかどうかを見る。仕事ができると認められれば科長になるが、認められなければ科長助理のままにする。三つ目は科長への抜擢であるが、これは少ない。

 同社のコア人材のキャリア形成のあり方は営業、総務などは一つの職務でその分野のスペシャリストを育成する方法が中心である。

 

 6―コア人材の職種と評価・活用

 同社ではコア人材を営業、財務・経理、開発・設計、生産・技術職で必要としているが、他の総務・人事、法務・特許などではあまり必要としていない。
 コア人材の昇進の可能性は、部門の長と経営者では仕事の質が違うと考えており、役員クラス以上はかなり難しいと厳しい見解である。前述のように、合弁相手は国有企業のため国有企業出身者は会社はつぶれないと考えており、市場経済のスピードに合わせられる人が少ないとしている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社ではコア人材の定着策として給与・賞与の反映幅の拡大、昇進・昇格のスピード、福利厚生の充実が非常に有効であると考えている。給与で見ると、科長は平社員の二倍で、経理は科長の二・五倍である。福利厚生では住宅の貸与を行なっている。しかし、コア人材だからといって優遇するつもりはなく、やめたら穴を埋めるものが出てくると考えている。

 

 8―コア人材に対する考え方

 同社では合弁企業を設立して一〇年となり、経営の完成度が高まったため、コア人材を意識した経営は行なっていないとしている。


 

 

事例五 機械関連製造業O社(東莞)

 

 1―会社概要

 業  種:精密機械製造業
 設立年月:一九九七年四月
 進出目的:現地市場、安価な労働力、日本への逆輸入
 企業形態:単独出資
 従業員数:現地人従業員数二五〇人(内ホワイトカラー二一人)
      日本人派遣者六人

 

 2―コア人材の定義

 同社の社員は以下の四段階に区分されている。経理(三人とも日本人)、科長(五人中二人が中国人であるが、一人は本社採用の中国人であるので、現地採用の中国人は一人である)、班長(二二人全員が中国人)、ワーカー。基本的には科長以上をコア人材と考えているが、班長の中にもコア人材と認められるものはいる。

 

 3―コア人材の過不足感

 華南は一般的にどこでも従業員の流動性が高いが、東莞は特に定着率が低く、簡単にやめてしまう。したがって、コア人材はかなり不足していると感じている。

 

 4―コア人材の採用・選抜

 コア人材の採用は土日に開かれる東莞市の労働専門市場にブースを出し、そこに申し込みをして来たものから採用する。

 コア人材の選抜は本社採用の中国人は当然本社人事部で行ない、現地採用の中国人は子会社の直属上司が一次選抜をし、総経理と副総経理(ともに日本人)が最終決定する。選抜要件は本社採用者は語学力、学歴、専門性を重視し、現地採用者は実績、実行力、専門性を重視する。

 

 5―コア人材の育成・キャリア形成

 コア人材の育成は本社採用の中国人は、本社で一年間教育した。今までは現地工場へは本社から日本人を派遣し指導していたが、今後は現地採用の中国人も本社へ派遣し教育することを考えている。

 コア人材のキャリア形成については、これまでは会社の規模が小さいこともあり工場では幅広い職務を経験させていた。今後は工場での仕事の種類が増えるので狭い範囲の職務を経験させ企業内スペシャリストを育成するパターンにするつもりである。

 

 6―コア人材の職種と評価・活用

 同社ではコア人材が生産・技術で非常に必要であり、次いで営業、総務・人事職で必要としている。現在は開発・設計、法務・特許ではあまり必要としていない。製品のほとんどは現地に進出している日系企業へ提供しているため、生産方針は日本本社で決定され、それに基づき開発・設計も本社で行なわれているからである。

 同社は将来現地化を進めたいとしているが、前述のように定着率が低く、現地採用の中国人従業員で科長になっているものは一人だけである。したがって、コア人材の昇進の可能性は、現在は未知数である。

 

 7―コア人材の定着策

 同社ではコア人材の定着策として給与・賞与の反映幅の拡大が非常に有効であり、賞与は一カ月で一般従業員の二倍弱である。ほかに昇進・昇格のスピード、報奨金・奨励金制度、福利厚生の充実がどちらかというと有効であるとしている。

 同地の労働者は企業に対する忠誠心に乏しく、育成しても少しでも有利な条件の会社があれば転職してしまうため、現地採用の中国人を育成・定着させるのは難しいと考えている。

 

 8―コア人材に対する考え方

 同社はコア人材に対する考え方として、コア人材として選抜された人が嫌がったり、流動性が大きいためコア人材の要件を満たす人材が少ないことはあるが、人材が流動化する中で有効な人材育成のシステムであるので、どちらかというと受け入れられるとしている。


 

 

事例六 機械関連製造業P社(東莞)

 

 1―会社概要

 業  種:自動車部品製造業
 設立年月:一九九五年一一月
 進出目的:安価な労働力、現地市場、法的・税制等の優遇措置
 企業形態:単独出資
 従業員数:現地従業員数八一五人(内ホワイトカラー六一人)
      日本人派遣者七人

 

 2―コア人材の定義

 同社の中国人管理職は科長一一人、経理助理一人、経理一人である。コア人材は管理職の中でも幹部という位置付けで、経理以上ととらえている。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社は設立七年弱であるが、今春やっと中国人経理が一人誕生したことでもわかるとおり、コア人材が育っていないためかなり不足と感じている。

 

 4―コア人材の採用・選抜

 同社設立当時、管理職の採用は東莞市政府に紹介してもらったものを面接して採用した。管理職は会社のポリシーを身につけて欲しいので、中途採用はうまくいかないと考えている。したがって、現在は大学へ求人を出し、新規学卒者を面接して採用している。広東省では製造業に入社する大学生は少ないので、隣の江西省まで募集に赴いている。

 コア人材の選抜は現地子会社の社長・役員が決定している。選抜要件は入社時は学歴と専門性であり、三カ月の試用期間中に判断する。入社後は実績、リーダーシップ、問題解決力を重視している。

 

 5―コア人材の育成・キャリア形成

 コア人材の育成は社外の専門的セミナーへ参加させ、技術・実習教育を受けさせている。また、コア人材として意識させるため待遇面で優遇している。

 コア人材のキャリア形成は、同社は製品数が多いため、自分の専門分野だけ知っているだけではだめで、製造の範囲内の知識が必要だと考えている。そこで、一定年齢まで狭い範囲の職務を経験させ、企業内スペシャリストを育成するキャリア形成方法をこれまでも今後もとっていく。

 

 6―コア人材の職種と評価・活用

 同社ではコア人材の職種として営業、総務・人事、財務・経理、開発・設計、生産・技術、法務・特許すべてで必要と考えている。中でも営業はかなり不足している。中国国内市場を一〇〇%メイドインチャイナ製品で開拓しようとしているので、開発・設計にも必要であり、まだ具体的ではないが特許紛争に備えて法務・特許でも必要だと考えている。

 日本人派遣者は三~五年で交代するので、日本人派遣者に左右されない現地コア人材の経理が必要だと理解している。コア人材の昇進の可能性は現在のところ現地子会社の経理クラスを考えている。

 

 7―コア人材の定着策

 コア人材の定着策としては、給与・賞与の反映幅の拡大、昇進・昇格のスピード、福利厚生の充実等が有効であるとしている。中でも給与は役職によりかなり差をつけており、科長は一般職員の七倍で、経理は科長の二倍としている。福利厚生の一つとして、広東省では省外から来た人は施設利用料として一人年八〇〇〇元求められるが、同社はそれを代わりに支払っている。

 

 8―コア人材に対する考え方

 コア人材という考え方は有効なシステムではあるが、選抜のための基準作りや評価が難しく、育成に費用や時間がかかるため、コア人材システムは同社にはなじまないとしている。