[第二章]

コア人材に関するヒアリング調査の分析・考察Ⅰ

東南アジア日系企業を中心に

 

 1――本ヒアリング調査の目的
谷内篤博* 文京学院大学教員
   本ヒアリング調査の目的は大きく二つある。一つはマクロ的なアンケート調査から見えてこない事実や重要事項を発見することにある。特に、本ヒアリング調査では、これまでの先行研究や調査であまり明らかにされることのなかった日系企業の経営の現地化度についてヒアリングしており、調査・研究としてかなり意義があるものと思われる。経営の現地化度に関するヒアリングは、現地従業員の管理職への登用率、権限の委譲度、会議への参画度の三つの視点から行なっている。

 本ヒアリング調査のもう一つの目的は、事前に実施したアンケート調査の結果やデータの解釈を定性的なヒアリング調査により補完したり、あるいはアンケート調査結果を導くに至った要素や事実を抽出することにある。特に、コア人材の採用・選考の実際、キャリア形成のあり方、定着策の実際、さらにはコア人材に対する考え方などをヒアリング調査で明らかにし、定量的なアンケート調査の結果に対する解釈や理解の促進を図っていきたいと考えている。

 2――本ヒアリング調査における仮説

 本ヒアリング調査を実施するにあたり、以下のように三つの仮説を立てた。
 仮説1:経営の現地化度が高い日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。
 仮説2:出資比率が低い日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。
 仮説3:高学歴者、ホワイトカラーを採用している日系企業は、コア人材の採用・育成活用に積極的である。
 なお、仮説1における経営の現地化度は前述したように、現地従業員の管理職への登用率、権限の委譲度、会議への参画度の三つの視点から評価・測定する。

 3――本ヒアリング調査対象企業の概要および実施時期


 ヒアリング調査は、事前に実施したアンケート調査に協力してくれた企業群の中から有意に抽出した一〇社を対象に実施したが、そのヒアリング調査対象企業の地域別業種別分類は表1の通りである。
 なお、本ヒアリング調査は二〇〇二年三月二五日~四月二日の九日間にかけて実施した。

 4――ヒアリング調査から導き出された特筆すべき重要事項


 東南アジアにおける一〇社の日系企業に対して行なったヒアリング調査を通して判明した重要事項をまとめ・整理すると次のようになる(詳細は「ヒアリング調査記録」および資料「ヒアリング調査結果の概要」参照)。

 (1)コア人材の定義は、マネジャー以上が七社と最も多く、次いでシニアマネジャー(SM)、ディビジョンマネジャー(DM)以上となっている。本ヒアリング調査に見られるようなコア人材の定義の幅の広さや曖昧さがアンケート調査の回収率の高さにつながったものと推測される(アンケート調査の回収率は二三・七%)。

 (2)現地法人の社長(Managing Director=MD)は、一〇社中八社で日本人派遣者が就いており、現地従業員が社長になっているのはわずか二社のみである。しかも、その二社の内、一社(B社)には地域統括会社が存在しており、日本人派遣者が統括会社の社長に就任しており、実質的には日本人による経営が展開されている。もう一社(A社)は現地におけるアメリカの工作機械メーカーの子会社への資本参加が会社設立の経緯で、日系企業になる以前よりローカルスタッフによる経営が実践されている。

 (3)マネジャークラスはそのほとんどが現地従業員で占められている。その理由としては次の二つが考えられる。

 ●積極的理由:経営の現地化の積極的展開
 ●消極的理由:連結会計制度の導入などによる海外現地法人の経営効率の向上
 このように、現地従業員のローカルマネジャーへの登用率の高さには、経営の現地化の積極的な推進といった光の部分と連結会計制度導入による経営効率向上に向けた日本人派遣者の削減に対する対策といった影の部分がある。

 (4)マネジャー以上のコア人材の人事権(採用決定権)は日本人の社長(MD)が掌握しているが、マネジャー以下の採用の是非はローカルマネジャーに一任されている。

 (5)コア人材の採用は、一部の企業(二社)を除いて中途採用が中心で、職業紹介機構、新聞広告による募集が多い。新卒を採用し、内部育成型の人材育成を展開しているのは、プラント建設の会社(E社)と素材関連企業(G社)の二社のみである。

 (6)コア人材の採用で重視されるのは、学歴、人柄、社外での実績などである。人柄は採用面接における質問に対する反応や態度、考え方などを通して判定されている。

 (7)コア人材のキャリア形成としては、次のような四つの特徴がある(参考「キャリア形成パターン」)。

 特徴1:キャリア形成パターンとしては、一つの職務で高度な専門性を身につけ、プロフェッショナルを育成するパターンⅡが最も多い(五社)。

 特徴2:エンジニア、製造部門のコア人材のキャリア形成は、固有業務と関連性のある周辺業務を経験させ、企業内スペシャリストとして育成するパターンⅢが多い(四社)。

 特徴3:管理系コア人材のキャリア形成は、プロフェッショナルを育成するパターンⅡが多い(四社)。

 特徴4:製造、営業などの部門のコア人材のキャリア形成は、パターンⅡからパターンⅢへと移りつつある(二社)。

 (8)コア人材に対する評価制度は、一〇社中八社で存在しており、評価は基本的にパフォーマンス評価と能力、勤務態度などの評価要素から成り立っている。

 (9)コア人材の昇進の可能性は現地法人の部長、役員までとする企業が多い。

 (10)コア人材に対する定着策としては、給与・賞与、昇進の可能性などの経済的インセンティブが極めて有効である。ただし、今後は更なる定着促進に向けて、こうした経済的インセンティブのみならず、仕事の魅力や能力開発の機会なども提示していくことが重要であるとする企業がある(三社:D、E、I社)。

 (11)経営の現地化の推進策として、今後ともコア人材の採用・育成・活用に積極的に取り組んでいくとする企業が圧倒的に多い。しかし、その一方で経営の現地化には、日本本社の“内なる国際化”が必要不可欠であるとする企業が存在している(二社:C、I社)。

 5――本ヒアリング調査における仮説の検証

本ヒアリング調査における仮説の検証は、経営の現地化度に関するヒアリング調査結果に基づき、各仮説ごと詳細な分析・考察を通して行なっていくこととする(詳細は資料「経営の現地化度に関するヒアリング調査結果」参照)。

 仮説1――経営の現地化度の高い日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。

 仮説1の検証にあたっては、表2からも分かるように、D、Jの各社において詳細な考察が必要である。素材関連製造業のD社は、マネジャークラスの半数は現地従業員が登用されており、現地人管理職比率は五〇%と平均的な数値となっている。権限の委譲度に関しては、工場管理はローカルマネジャーに一任されているものの、営業に関する権限やマネジャー以上の人事権は日本人社長が有しており、権限委譲度もそれ程高くない状況にある。一方、会議への参画度は製販会議、ディレクター会議ともローカルマネジャーが参加メンバーに加えられており、かなり参画度は高い状況にある。つまり、D社においては、経営の現地化度はそれ程高くなく、平均的な状況にあるにも拘わらず、現地法人の経営効率の向上に向けてコア人材を積極的に育成・活用していきたいとしており、仮説とは異なる結果となっている。

 一方、ロジスティックス関連のJ社は、マネジャークラス七名中、現地人管理職は四名と過半数は超えているものの、人事権、金銭的決裁権いずれも日本人社長が有している。また、会議への参画度に関してもほとんど会議といった形式はとられず、必要に応じてミーティングが開催されている程度である。こうした点から、J社の経営の現地化度は低い状況にあると言えよう。しかし、J社ではローカルの出資比率が高い点、コア人材の質が現地法人の質を決めるとの観点から、今後コア人材の育成・活用を積極的に行なっていきたいとしており、仮説とは相反する結果となっている。

 このように、D、Jの二社のヒアリング結果は仮説とは異なるものとなったが、その他のヒアリング対象企業においては、表2からも分かるように、経営の現地化度の高い日系企業はコア人材の採用・育成・活用に積極的である。よって仮説1は立証されたこととなる。

 なお、表2におけるコア人材の育成に関する評価は、ヒアリング調査におけるコア人材に対する考え方やコア人材に対する取り組み姿勢、経営の現地化度の結果などを総合的に勘案し、判定していることを付言しておきたい。

 仮説2――出資比率の低い日系企業は、コア人材の採用・育成・活用に積極的である。

 表3からも分かるように、日系企業の出資比率が三三%と低いJ社、過半数をかろうじて超えているB、F、I社において、仮説2を裏付けるが如く、コア人材の採用・育成・活用が積極的に展開されている反面、出資比率が高いA、D、G、H社においても。コア人材の採用・育成・評価は積極的に展開されている。こうした点から、仮説2は十分に立証されるには至らなかった。

 ところで、仮説2をたてた理由としては、日系企業の出資比率が低い場合には現地法人はより自立的な経営の展開を余儀なくされ、自ずと海外現地法人におけるコア人材の採用・育成・活用に積極的にならざるをえないと想定したからである。しかし、本ヒアリング調査を通して、海外の現地法人の出資比率は進出の目的や資本参加の経緯が大きく影響しており、出資比率とコア人材への取り組みとは直接それ程関連性がないことが判明した。

 仮説3――高学歴者、ホワイトカラーを採用している日系企業はコア人材の採用・育成・活用に積極的である。

 表4からも明らかなように、大卒の高学歴者を採用している企業の内、A、B、D、Gの四社においてはコア人材の採用・育成・活用は積極的に展開されているものの、C、Eの二社においてはコア人材に対する積極的な姿勢はそれ程見られない。また、学歴にこだわらないとするF、H、I、J社においてもコア人材に対する積極的な取り組み姿勢が見られる。以上の点から、仮説3は十分に立証されるには至らなかった。

 6――小括:結びにかえて

地域や業種に偏りがある一〇社の日系企業に対して実施したヒアリング調査の分析結果の適用性や汎用性については一定の限界があるということを十分認識した上で、本ヒアリング調査のまとめを行なうと以下のようになる。

 ①東南アジアの日系企業において、現地従業員はマネージング・ディレクター(MD)やゼネラル・マネジャー(GM)のような上位の職位への昇進はまだそれ程多くはないものの、マネジャークラスには積極的に登用されている。さらに、こうしたマネジャークラスを中心とするコア人材に対する会議への参画の機会や権限の委譲の範囲なども拡大傾向にあり、日系企業のコア人材に対する積極的な取り組み姿勢を読みとることができる。

 ②しかし、こうしたコア人材に対する取り組みには、積極的に経営の現地化を推進しようとする“光の部分”と、連結会計制度の導入、現地法人の経営効率の向上から生じる日本人派遣者の削減への対応といった“影の部分”の両面があり、日系企業のさらなるグローバル経営の推進が求められる。

 ③コア人材の採用は、外部調達型の中途採用が中心となっている。したがって、そのキャリア形成も一つの職務で高度な専門性を身につけ、プロフェッショナルの育成を目指すものが最も多くなっている。

 ④コア人材の定着策としては、給与・賞与、昇進の可能性などの経済的インセンティブが最も有効であるが、今後は仕事の魅力や能力開発の機会の非経済的インセンティブの提供も考慮に入れていく必要がある。

 ⑤コア人材のさらなる積極的な取り組みやグローバル経営の推進には、日本本社の“内なる国際化”が必要不可欠である。

 

 


ヒアリング調査記録(シンガポール・マレーシア・タイ)


 

◎シンガポール5社の事例

事例1 機械関連製造業A社

 

 1―企業概要

 業  種:機械関連製造業
 設立年月:一九八一年九月
 進出目的:アメリカの工作機械メーカーの子会社への資本参加
 企業形態:単独出資(日本の親会社による一〇〇%出資)
 従業員数:現地従業員数三七五人
     (内ホワイトカラー二四〇人)
      日本人派遣者数一二人

 

 2―コア人材の定義

 同社の社員はジョブ・グレードに基づき、以下のように大きく四段階に区分されている。
 ・G1:ゼネラル・マネジャー(GM)
 ・G2:マネジャー(セクションマネジャー、シニアマネジャー)
 ・G3:職長、係長
 ・G4:ワーカー

 同社では、上記社員グレードのG2以上をコア人材と位置づけており、マネジャークラスで三〇人、ゼネラルマネジャーで七人が存在している。日本人はゼネラルマネジャークラスで二人が存在しているのみである。同社の社長(Managing Director)は中国系で、ゼネラルマネジャーは全員大卒であるが、マネジャークラスは工専卒が多い。なお、G1の平均年齢は四三歳~四五歳となっている。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社では、G1、G2のコア人材は現状では人数的には充足しているものの、G1候補が圧倒的に不足している。職種的には、同社の成長を根底から支える開発部門、製造部門で不足気味である。また、同様にファイナンスや人事部(ヒューマンリソース)の管理系においてもコア人材はやや不足気味である。

 

 4―コア人材の採用

 コア人材の採用は、中途採用が中心で、一部新聞による募集も行なうが、主に職業紹介機構を通じての採用が中心となっている。即戦力の観点から、外部調達型の中途採用がメインにならざるをえない。職業紹介機構としてはインドのエンジニアを斡旋する会社を活用することが多い。
 コア人材の採用にあたっては、面接が中心で、社外での実績や学歴、人柄などが重視されている。中でも面接時における質問の受け答えや態度(attitude)は極めて重要視されている。G1、G2のコア人材の採用はゼネラルマネジャーやマネージングディレクター(MD)が行なうが、それ以下の人材の採用はマネジャークラスが行なうこととなっている。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 同社におけるコア人材のキャリア形成は、基本的には大学でマスターしたことや過去のキャリアを活かしたスペシャリストとしてのキャリア形成が中心である。しかし、今後はG1に昇進できる人材を育成していくために、ファイナンスや人事などを経験させても良いとしている。かっては同社でも多くの日系企業が行なっているように、現地従業員を日本本社へ技術研修で派遣していたが、ジョブ・ホッピング(転職行動)が発生するため、現在は実施していない。
 また、シンガポーリアンは積極的に自己投資を惜しまない国民であるため、自分で大学やMBA(経営学修士)を取りにいきたいとの申し入れが多い。同社では、こうした従業員の自己啓発の申請を会社として許可している。

 

 6―コア人材の評価と活用

 コア人材の評価は、マネジメント能力、イノベーション、会社への貢献、人材育成(開発)の四つの要素から実施されており、特に人材育成(development)はリーダーシップとの関連も深く、G1、G2への昇格にあたっては重視されている。
 一方、コア人材の昇進の可能性に関しては部長、役員クラスまでとなっている。現在は役員の中に現地従業員は三名が含まれており、役員クラスへの昇進の可能性はかなり高いものとなっている。これも、現在の社長がローカルスタッフ(中国系)であることが大きく影響しているものと考えられる。

 

 7―コア人材の定着策

 コア人材の定着策としては、G2までは給与・賞与以外はほとんど効果がないと考えられている。基本賞与は1カ月で、評価結果により〇・八~一・四カ月の開きがある。
 一方、G1の定着策としてはこうした給与・賞与以外に、役員になれるかどうかの昇進可能性が有効な手段となる。それ以外の定着策としては、裁量権の拡大が考えられるが、同社ではジョブグレードの上昇に伴い、給与や裁量権も拡大することとなるので、特に定着策としては意識はしていないとしている。

 

 8―コア人材に対する考え方

 同社は、経営の現地化を進めていくために、コア人材に対する積極的な取り組みは必要不可欠であり、今後とも積極的に取り組んでいきたいとしている。
 しかし、シンガポールでは国の政策もあってか、製造業には優秀な人材が集まりにくい状況にあり、多くの人材が金融業を中心とするサービス産業に流出してしまっている。また、シンガポーリアンはプロフェッショナル志向が強く、ジョブ・ホッピングが一般化している。こうした環境下において、製造業の同社が積極的にコア人材を募集・採用し、内部育成型で育てていくことはかなり難しいとしている。


 

 

事例2 機械関連製造業B社

 

 1―企業概要

 業  種:機械関連製造業
 設立年月:一九七二年八月
 進出目的:東アジア、南アジアの市場開拓
 企業形態:多数合弁(日本の親会社の出資比率は五一・四八%)
 従業員数:現地従業員数一四〇〇人
 (内、ホワイトカラー一五〇人)
     日本人派遣者数七人

 

 2―コア人材の定義

 同社の社員はジョブ・グレードにより一四ランクに区分されており、ランク10のマネジャークラス以上をコア人材と位置づけている。ランク10、11はマネジャー、ランク12、13はシニア・マネジャー、14ランクはシニア・バイス・プレジデントとなっている。シニア・バイス・プレジデントは日本人で、社長はインド系が就任している。シニアマネジャー以上は六人存在しており、内日本人は二人となっている。シニア・マネジャー以上はすべて大卒である。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社におけるコア人材は、ランク10のマネジャークラス以上においては質、量の両面において充足されており、過不足感は発生していない。しかし、マネジャークラスの予備軍とも言うべきランク8、9のヘッドクラスには全職種において人材が不足気味である。

 

 4―コア人材の採用

 コア人材の採用は、ある程度スキルや専門性を有した人材を、新聞やインターネットによる募集で採用してきた。特に、エンジニアの募集は新聞広告を中心にしてきたが、それ以外は社員の紹介による採用も実施されている。同社のコア人材の採用はスキルや専門性を有した人材を外部調達する中途採用がメインとなっている。
 コア人材の採用にあたっては、面接が重視されており、マネジャークラスの採用に関しては態度、やる気、積極性などの人柄が選考の際に重視されているが、シニアマネジャークラスの採用に関してはこれに専門性、リーダーシップが加えられている。マネジャー、シニアマネジャー以上のコア人材の採用の決定権は現地法人の社長が有している。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 同社のコア人材のキャリア形成のあり方は、階層や職種によって異なっている。シニアマネジャーのキャリア形成は、セールス、工場(生産)などできれば幅広い業務を経験させて育成していきたいとしている。エンジニアの場合は、据え付け、製造、開発といった関連のある職務を経験させてスペシャリストとして育成するキャリア形成が中心となっている。それに対し、ファイナンスや人事などの管理系のコア人材は、一つの職務でその分野のスペシャリストを育成するキャリア形成が中心となっている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 コア人材の評価は open appraisal 方式が採られており、評価項目としてはリーダーシップ、実行力、洞察力などの一四項目が挙げられている。評価結果はコア人材の昇格条件となっており、評価結果如何によっては昇格に差がつくこととなる。
 コア人材の昇進の可能性としては、同社の現地法人としての歴史が長い点などから、現地法人の役員、社長になれる可能性はかなり高いものとなっている。実際、現在の社長はインド系が就任しており、昇進の可能性の高さが実証されている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社のマネジャー、シニアマネジャーの勤続年数は長く、いずれも一〇年以上となっており、コア人材の定着率は高いものとなっている。こうした定着率の高さの要因としては二つのことが挙げられる。
 一つは評価結果の給与や賞与への反映幅の拡大である。同社の賞与は毎年一二月に支給されており、評価結果により二~三カ月と支給格差が発生している。こうした経済的インセンティブがコア人材の定着促進につながっているものと考えられる。
 もう一つは昇進・昇格の可能性で、これも評価結果により個人差が生じてくる。マネジャー以上のコア人材になれば、責任の重さやジョブ・ストレスも増えるが、裁量権も大きくなり、かなりのインセンティブとなっている。

 

 8―コア人材に対する考え方

 同社は社長を含め、ラインマネジャーはすべてローカルスタッフが占めており、日本人はライン運営をサポートするアドバイザー、特に技術サポートに徹しており、経営の現地化がかなり進展している。こうした点から同社はコア人材に対して積極的に取り組んできたと言えよう。しかし、同社では前述したように、コア人材の予備軍において人材不足が生じており、今後同社の成長に向けたコア人材の発掘が重要な課題となってくるとしている。


 

 

事例3 機械関連製造業C社

 

 1―企業概要

 業  種:機械関連製造業
 設立年月:一九八九年二月
 進出目的:現地の市場開拓
 企業形態:単独出資(日本の親会社による一〇〇%出資)
 従業員数:現地従業員数一二二人
      (全員ホワイトカラー)
      日本人派遣者数二一人

 

 2―コア人材の定義

 同社のマネジャーは二七人存在しており、内ローカルスタッフ(現地従業員)は約半数の一四人となっている。同社ではディビジョン・マネジャー(DM)以上をコア人材と位置づけており、ローカルスタッフはマーケティング部門に一人のみ存在している。マネジャークラスのほとんどが大卒で、ディビジョン・マネジャーは大学院修了である。

 

 3―コア人材の過不足感

 前述したように、マネジャーの約半数はローカルスタッフで占められているものの、コア人材であるディビジョン・マネジャーはローカルスタッフで一名しか存在しておらず、質、量の両面においてやや不足気味である。特に、現在のディビジョン・マネジャーのようなローカルスタッフは存在しておらず、マーケティングや市場分析ができるコア人材が少ないのが現状である。

 

 4―コア人材の採用

 同社における採用は新聞募集による中途採用が中心となっているが、コア人材に関しては、今後ヘッドハンティング会社を積極的に活用していきたいとしている。実際に同社では現地のヘッドハンティング会社(Harrison Inner View社)と契約を結び、財務・経理担当のマネジャーの採用に、一六項目におよぶ適性検査を実施し、採用の是非を判定している。

 コア人材の採用は、これまでは面接が中心で、採用に当たっては社外での実績やリーダーシップなどが重視されてきたが、今後は前述したヘッドハンティング会社の適性検査を活用し、職務適性なども重視していきたいとしている。面接はローカルスタッフ中心で展開される。
 コア人材の採用決定の是非は、アシスタント・マネジャー以下はラインマネジャーが中心になって行なわれるが、それ以上のコア人材は日本人社長が決定権を有している。
 ただし、ディビジョン・マネジャーの意見は重視され、社長の意思決定に反映されている。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 同社のコア人材のキャリア形成は、本人のキャリアや過去の実績を評価して採用しているので、基本的には採用された職務での専門性を深め、プロフェッショナルとして育成するものとなっている。したがって、採用されたディビジョンと異なるディビジョンに異動することは原則的にない。ただし、必要に応じて関連する職務を経験させることはありうるとしている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 コア人材に対する評価は、次のような二つの視点から実施されており、評価結果は賞与に大きく反映されることとなる。

 team performance

 売上高、売上利益、在庫回転率、債権回収などが評価項目としてあげられている。評価ウエイトは三〇%。

 personal performance

 目標管理制度(MBO)が導入されており、個人目標が具体化されている。評価ウエイトは七〇%。
 コア人材の昇進の可能性は、現状ではディビジョン・マネジャーがローカルスタッフから一名しか輩出していないが、より一層経営の現地化を推進する観点から、コア人材の育成に積極的に取り組み、今後はディビジョン・マネジャーやディレクターに登用できるような人材を育てていきたいとしている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社は二〇〇一年四月より、能力・成果に応じた給与体系を中心とする新しい人事制度を導入した。新しい人事制度は、従来のタイトルに応じた給与体系とは大きく異なるもので、社員のグレードを以下のように大きく四段階に区分し、給与をそれに対応させるゾーン型人事制度となっている。

 ・D(Director):0、1、2の三ランク
 ・M(Manager):M1~M4の四ランク
 ・E(Exective):E1~E3の三ランク
 ・C(Coordinator):C1、C2の二ランク

 さらに、同社では左図に見られるように、賞与も成果や評価結果を従来よりも大きく反映できるように改善されている。従来の賞与は年間一・六カ月で評価結果により上下にわずか±〇・三カ月の差しか発生しなかったが、現状では年間二カ月で、評価結果によって最大±二カ月の差が生じるようになっている。
 こうした新しい人事制度がコア人材の定着策として今後大きな効果を生じさせるものとして大きな期待が寄せられている。その他の定着策としては、半年に一回表彰制度が実施されており、トロフィ、香港旅行、デジカメなどが成績優秀者に提供されている。こうした表彰制度もコア人材の定着促進に間接的な影響を及ぼしているものと思われる。

 

 8―コア人材に対する考え方

 同社の親会社では経営の現地化が積極的に推進されており、ヨーロッパ、マレーシアなどの現地法人の社長はローカルスタッフが登用されている。シンガポールにおいても同様の考えがもたれており、経営の現地化をより一層進めたいとしている。しかし、シンガポールは宗教、文化などの問題もあり、当面は日本人が社長を務めざるをえない状況にある。


 

 

事例4 素材関連製造業D社

 

 1―企業概要

 業  種:素材関連製造業(化学)
 設立年月:一九八九年一〇月
 進出目的:原材料の供給地としての適合性
 (装置産業としての特異性)
 企業形態:多数合弁(日本の親会社の出資比率七五%)
 従業員数:現地従業員数七〇人
     (内、ホワイトカラー三〇人)
      日本人派遣者数七人

 

 2―コア人材の定義

 同社では、マネジャー以上の人材をコア人材と位置づけており、一〇名のマネジャーの中でローカルスタッフは半数の五名を占めている。ポジション的には、工場長、管理部長、製造課長、技術課長、人事課長となっている。同社の社長は日本人が務めている。同社では、一九九一年一月より経営の現地化が進められており、技術開発は日本が中心で、製造はローカルが担当する施策がとられてきた。その結果、ローカルスタッフは主に製造系のマネジャーに就くケースが多くなっている。同社におけるコア人材のもう一つの特徴は、ローカルスタッフが総務・経理、人事などの管理系のポストに就いている点である。これも経営の現地化の表れと思われる。
 なお、営業は商社、代理店などとのネットワークの関係や special chemical product といった商品特性から、一貫して日本人派遣者が責任者となっている。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社では連結決算の導入の影響で、現地法人の利益体質強化が重要な経営課題となっている。その対策として、従来一二人いた日本人派遣者を七名まで削減した。その結果、同社においてはローカルマネジャーの存在がこれまで以上に重要となってきている。そうした中、勤続一〇年の製造の中核とも言うべき将来のマネジャー候補者が医薬品会社にヘッドハンティングされてしまった。そうした点から、現状では現地化の核とも言うべき製造部門でコア人材の不足感が出始めている。
 同社においては職務給が導入されており、上位職務に空席が生じない限り、昇格することができない。その結果、今回のケースように、四〇歳前後で転職するケースが多くなっている。

 

 4―コア人材の採用

 コア人材以下の採用は新聞募集による中途採用が中心となっているが、マネジャー以上のコア人材の採用は、PA Consulting Group などのヘッドハンティング会社を活用した採用が中心となっている。
 採用に際しては、マネジャー以下では社外での実績、学歴が重視されるが、マネジャー以上のコア人材の場合はこれらに専門性が加えられて採用の是非が判断されている。採用されたコア人材については、五年先のキャリアをイメージし、キャリア・パスがほぼ決定されている。なお、マネジャー以上のコア人材の採用決定権は日本人社長が有している。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 前項で述べたように、コア人材のキャリア形成は採用時点において五年先までのキャリア・パスが設定されており、それに基づいた体系的かつ系統的人材育成が実施されている。人事、経理などの管理系のコア人材は、その職務での専門性を高め、プロフェッショナルとしての育成が追求されている。
 それに対し、製造部門は技術進歩に対する知識や専門性が必要とされるため、技術と製造の両部門を経験させるようなキャリア・パスが設定されている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 同社では、一部の従業員から昇格スピードや学歴格差に対する不満があがったため、公平人事の展開を積極的に推進しており、マネジャーとのインタビューを通じて評価結果がフィードバックされている。
 コア人材の評価はパフォーマンス評価、日常の行動評価の二つの視点からなる二〇項目(マネジャー以下は一七項目)におよぶ評価項目に基づき、五段階評価が実施されている。評価結果が上位に偏るため、現在は絶対評価から相対評価に切り替わっている。

 評価の導入にあたっては、組合、従業員に事前の説明会を実施し、評価制度導入に対する納得性を高めるよう配慮がなされた。
 コア人材の評価は年一回一二月に実施されている。
 一方、コア人材の昇進の可能性に関しては、現状では現地法人の部長クラスまでとされているが、短期間でのローカリゼーションを志向している同社の現状からみて、今後は役員への昇進も大いにありうるとしている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社では一九九八年のアジア経済危機に際して組合問題が発生し、一時期労使関係が不安定に陥った。その教訓を生かして、現在では労使から成る経営協議会を設置し、三カ月おきに経営状況を掲示し、開かれた経営を実践している。こうした同社の経営の透明性や人事の公平性がコア人材の定着に有効に機能していると考えられる。
 また、シンガポーリアンは金銭、昇進などの経済的インセンティブを重視する傾向にあるので、コア人材の定着策としては給与や賞与の水準なども有効であるとしている。マネジャークラスの給与は50,000S $~60,000S $、賞与は年間四カ月とかなり高い水準にある。

 さらに、コア人材の定着をはかっていくためには、こうした経済的インセンティブのみならず、今後は仕事の魅力を向上させることも重要となってくると指摘している。
 なお、これまでの事例と同様に、夜間大学への通学や通信教育などの自己啓発は援助している。

 

 8―コア人材に対する考え方

 連結会計制度導入の影響により、同社も自立性と採算性が強く望まれており、今後はこれまで以上にコア人材に対する積極的な取り組みが必要であるとしている。さらに、優秀なコア人材の採用、定着には、新しい技能の取得やチャレンジの機会が益々必要となってくることを指摘している。


 

 

事例5 プラント建設業E社

 

 1―企業概要

 業  種:プラント建設業
 設立年数:一九九二年五月
 進出目的:八〇年代におけるシンガポールプロジェクトの拡張・改造工事
 企業形態:単独出資(日本の親会社による一〇〇%出資)
 従業員数:現地従業員数六九人
     (内、ホワイトカラー六〇人)
      日本人派遣者数三人(MD、GM、設計)

 

 2―コア人材の定義

 同社におけるコア人材は、マネジャー以上で、かつ下記要件を満たす人材とされている。
 ・長期にわたってノウハウを蓄積できる人材
 ・下級者の人材育成ができる人材
 ・テクニカル・トランスポート(technical transport)に貢献できる人材

 

 3―コア人材の過不足感

 同社のコア人材(ローカルマネジャー)は設計、調達、建設、管理の各部門に存在しており、人数的には七~八人になる。設計部門は単なる設計のみではなく、プロジェクト・マネジメントを行なうため、設計と建設の両部門のコーディネーション能力が必要となる。こうした点から、設計部門では特に質的側面において人材が不足気味となっている。
 一方、もう一つの重要な部門である建設部門におけるコア人材はスキル的にはかなり高い水準にあるものの、やはりコーディネーション能力に欠けており、やや不足気味となっている。

 

 4―コア人材の採用

 同社のコア人材の採用は、大卒の新卒採用を中心とするものと、配管・設計などのエンジニアを対象とした中途採用の二本立てで実施されている。
 大卒の新卒採用は四年前より始められたもので、四年前には三人、三年前には二人、昨年は六人を、シンガポールの三つの大学より、教授の推薦ルートを通して採用している。新卒採用の場合は、面接で大学での成績、人柄・性格が重視されている。

 それに対して、配管・設計などのエンジニアの採用は、中途採用が中心で、新聞を通しての採用と紹介ルートによる採用が半々となっている。こうした中途採用の場合は、面接に際してエンジニアとしてのスキルや専門性、コントロール、プランニング能力、リーダーシップなどが重視されている。中途採用の面接は、プロジェクトエンジニアの場合は人事スタッフと日本人のゼネラルマネジャーが中心となるが、設計の場合はこれに設計部門のゼネラルマネジャー(ローカルスタッフ)が加わることとなる。
 なお、新卒採用、中途採用いずれも採用の最終決定権は同社の日本人社長が有している。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 コア人材の採用は、新卒採用、中途採用いずれも専門性やスキルなどを重視して採用しているため、自ずとキャリア形成としては特定の職務で高度な専門性を身につけ、その分野でのプロフェッショナルを目指すものとならざるをえない。しかし、プロセスエンジニアや配管エンジニアの場合は、日本本社と同様に、計装二年経験した上で、配管や土建を経験させるような周辺知識習得に向けたキャリア形成が実施されている。
 また、同社ではコア人材を日本本社へ技術研修として派遣をしており、これがコア人材のインセンティブとなっている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 コア人材の評価は年一回一〇月末に実施され、一一月に上司との面接を通してその結果がフィードバックされる。評価は大きく二つに分かれており、performance appraisal(業績評価)とcompetency appraisal(能力評価)から成り立っている。performance appraisal は目標管理制度(MBO)をベースに、自己評価と上司評価が実施されており、評価結果は賞与に反映されている。一方、competency appraisalはマインド、態度、柔軟性などベースに評価が実施されている。ただし、こうしたcompetency appraisalは直接給与とはリンクはされていない。
 ところで、こうしたコア人材の昇進の可能性は、現状ではゼネラルマネジャーまでとなっているが、同社のさらなる自立的経営の実現に向け、数年後にはローカルスタッフを現地法人の社長に就任させたいとしている。

 

 7―コア人材の定着策

 前述したように、評価と給与は直接リンクしていないが、同社の賃金水準はシンガポールにおける上位二五%に入る水準にあり、経済的インセンティブを重視するコア人材の定着策としては有効に機能している。
 しかし、その一方で同社のようなケミカルやエンジニアリングを中心とする業務の場合は、ルーチンワークのような仕事とは異なり、自分の能力が発揮できるか、あるいは将来的に学べるものがあるかなどの非金銭的インセンティブもコア人材の定着には必要となることが指摘されている。

 

 8―コア人材に対する考え方

 日本の親会社の経営方針として、同社の経営の現地化をより一層推進していくことが打ち出されており、経営の現地化に向け、コア人材の採用・育成・活用に積極的に取り組んでいきたいとしている。数年後にはローカルスタッフが現地法人の社長に就任できるような環境整備を目指したいとしている。


 

 

◎マレーシア3社の事例

 

事例6 機械関連製造業F社

 

 1―企業概要

 業  種:自動車関連部品製造業(生産は別子会社設立)
 設立年月:一九八四年一月
 進出目的:日本の大手自動車メーカーのマレーシア進出による要請
 企業形態:当初は日本の親会社五一%出資、現在は外資系企業の系列下
 従業員数:現地従業員数二五二人
     (全員ホワイトカラー)
      日本人派遣者数八人

 

 2―コア人材の定義

 同社では、シニアマネジャー(SM)、ゼネラルマネジャー(GM)以上をコア人材と位置づけており、現在、セールス担当、ファイナンス・人事などの管理担当、R&D担当、製造担当の四人のローカルスタッフがゼネラルマネジャーに就いている。同様に、ファイナンス、R&D、QMの三部門においてローカルスタッフがシニアマネジャーに就いている。マネージングディレクター(社長)は日本人となっている。

 

 3―コア人材の過不足感

 前項で述べたように、同社には現在、シニアマネジャー三名、ゼネラルマネジャー四名の七名のコア人材が存在しているが、いずれも管理能力が未熟であるため、質的には不十分と言わざるをえない状況にある。むしろ、深刻なのはマネジャーやシニアマネジャーにおいて、将来ゼネラルマネジャーを担えるような人材がかなり不足している点である。同社の経営が三人の日本人を中心に展開されている背景には、こうしたローカルスタッフの管理能力の弱さがあるものと思われる。

 

 4―コア人材の採用

 コア人材の採用は中途採用が中心で、新聞における求人広告や人材あっせん会社を通じての採用が多い。特に、欲しいマネジャーやエンジニアの求人は主に新聞による募集がメインとなっている。
 コア人材の採用は面接が中心で、過去の実績や人柄、リーダーシップ、実行力などが選考基準として重視されている。コア人材の採用に関しては大卒が原則であるが、学歴にはそれ程こだわってはいないとしている。面接はマネジャー以上はシニアマネジャー、ゼネラルマネジャーが面接をし、採用の是非を決める権限はゼネラルマネジャーに一任している。コア人材の採用決定権が日本人社長に集中する中、採用決定権をローカルマネジャーに委譲する同社の事例は希少な事例と言えよう。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 同社におけるコア人材のキャリア形成は、これまでに何人かはジョブグレードの上昇を契機に異動をさせたことがあるが、契約の概念に基づき異動を嫌う従業員が多いため、現状のキャリア形成は採用した職務での専門性の向上を目指すものとなっている。
 特に、同社はいわゆるホールディング・カンパニーであるため、全員がホワイトカラーであり、仕事に対するこだわりが強く、ジョブローテーションや幅広いキャリア形成に向けた異動はその実現が極めて難しい状況となっている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 コア人材に対する評価制度は存在していないが、採用後は三カ月の試用期間が設定されており、降格はありうる仕組みとなっている。
 コア人材の昇進の可能性に関しては、同社の従業員がマレー系、インド系、中国系など多民族から構成されており、ブミプトラ(マレー系優先)政策の存在にもかかわらず、現地法人の社長の国籍で従業員の国籍の偏り現象が発生する危険性がある。
 また、前述したように、シニアマネジャー以上のコア人材のマネジメント能力はかなり低い状況にある。
 こうした点から、当面は社長は日本人が務め、ローカルマネジャーの昇進の可能性をゼネラルマネジャーレベルに留めておかざるをえないのが実情である。

 

 7―コア人材の定着策

 同社におけるコア人材の定着策として効果を発揮しているのは、車の貸与である。同社ではシニアマネジャー以上のコア人材に車を貸し与えている。与えられる車の排気量の違いが一種のステータスとなり、コア人材のモティベーション向上に大きく貢献している。
 もう一つのコア人材の定着策として有効な手段は給与で、シニアマネジャー以上のコア人材の給与はゼネラルワーカーレベルの約二〇倍の水準にあり、かなりのインセンティブとなっている。

 また、昨年同社の親会社となった外資系企業は従業員を大切にする会社で、アニュアルディナーやファミリーデーなどのイベントが盛大に実施されている。
 こうした親会社の影響を受けて、同社でも永年勤続表彰やカンパニートリップ(社内旅行)などが実施されている。こうした表彰や社内イベントはイベント好きな国民性と合致してか間接的にコア人材の定着に役立っていると思われる。

 

 8―コア人材に対する考え方

 マレーシアはジョブ・ホッピング(job hopping)が多く、コア人材の育成はコストパフォーマンス面から積極的に取り組みにくいとしている。したがって、コア人材の採用・育成・活用、さらには定着促進には金銭的対応策しかたてられないのが現状である。


 

 

事例7 素材関連製造業G社

 

 1―企業概要

 業  種:素材関連製造業
 設立年月:一九八九年四月
 進出目的:現地の市場開拓
 企業形態:多数合弁
     (日本の親会社系列企業五六・五二%出資)
 従業員数:現地従業員数一九六人
     (内、ホワイトカラー三〇人)
      日本人派遣者数五人(MD、プロジェクトコーディネーター、テクニカルアドバイザー)

 

 2―コア人材の定義

 同社は社員のグレードを以下のように大きく五段階に区分している。

 ・MANAGER:すべて大卒
 ・E-CLASS(エグゼクティブクラス):大卒
 ・S-CLASS(スーパーバイザークラス):短大、専門学校
 ・L-CLASS(ラインリーダークラス):高卒
 ・O-CLASS(オペレータークラス):高卒

 同社ではコア人材に関する明確な定義や意識はないものの、日本人MD(社長)によれば、技術系のエンジニア、事務系のエグゼクティブ以上、つまり上記の E-CLASS 以上をコア人材と位置づけることができるとしている。大卒は入社時点で E-CLASS に入り、コア人材と位置づけられる。同社の社長(MD)は日本人であるが、製造、品質管理、マーケティング、管理(人事・総務、経理、購買、システム)の四部門すべてにおいてローカルスタッフがマネジャーとなっている。しかも、製造、マーケティングのマネジャーはシニアマネジャーである。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社は従来は五〇〇人規模の会社であったが、一昨年大胆なリストラを断行し、現在の人員規模に縮小された。
 また、同社では九五、九六年頃はジョブ・ホッピング( job hopping)も多かったが、現在では離職率も低く、社員の勤続年数の長期化が進みつつある。しかも、同社の主要部門のすべてのマネジャーがローカルスタッフで占められている。こうした点から、現状ではコア人材の過不足感はないものの、マネジャークラス以下の次世代を担うエンジニア、エグゼクティブが思ったようには育ってはおらず、将来的には不足感を感じるであろうとしている。

 

 4―コア人材の採用

 同社のコア人材の採用は、大卒の新卒採用を中心としている。募集媒体としては、新聞での募集広告が中心となっている。ただし、金型組立などの特殊なスキルや技能をもったコア人材の採用の場合は、職業紹介機構や人材紹介会社などを活用するとしている。
 コア人材の採用面接は一次面接はエンジニアやエグゼクティブクラスが中心となり、展開されており、二次面接の段階で日本人の社長が加わることとなる。面接に際しては、面接時での応対や人柄、実行力などが重視されている。なお、コア人材の採用決定権は日本人社長(MD)が有している。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 同社のコア人材のキャリア形成のあり方はエンジニアと管理系とでは大きく異なっている。管理系のコア人材は、担当職務での専門性を深化させ、その道のスペシャリストやプロフェッショナルの育成を志向している。それに対して、エンジニアは半年生産現場を経験させ、その後生産技術を三年、さらには品質管理を経験させるようなキャリアパスが予定されている。つまり、エンジニアのキャリア形成は固有業務とその関連業務を経験させるようなジョブローテーションが計画されている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 同社のコア人材の評価は日本本社の評価制度を活用している。昨年、こうした評価制度の客観性を高める観点から、目標管理制度(MBO)が導入されており、上司との面接を通して方針伝達がなされるとともに、個人ごとに目標がブレイクされている。
 コア人材の昇進の可能性は、シニアマネジャーやゼネラルマネジャーまでとなっており、現状では社長(MD)に昇進できる可能性はかなり低いものとなっている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社ではコア人材の定着策としては給与、昇進などの経済的インセンティブが最も有効であると考えられている。そこで、同社ではコア人材の定着促進に向けて、従来より不満のあった給与制度を大きく改善した。従来の給与はタイトル(資格)と給与とがリンクしており、役割や職務内容が反映されないものとなっていた。そこで、同社ではタイトルと給与を切り離し、職務に応じた給与体系とした。これはいわば日本型役割給に近いものとなっている。同社の給与水準はマレーシアの日系企業の中では高い方であるが、欧米系企業の給与水準よりは低くなっている。こうした給与改善や高い賃金水準が同社の定着率を高めることに寄与しているものと思われる。

 

 8―コア人材に対する考え方

 これまで述べてきたように、現状では同社のコア人材は充足されているが、将来を担える次世代のエンジニアやエグゼクティブが育っていない。こうした点から、同社では今後もコア人材に対する積極的な取り組みは必要であるとしている。


 

 

事例8 機械関連製造業H社

 

 1―企業概要

 業  種:機械関連製造業
 設立年月:一九八五年五月
 進出目的:日本の大手自動車会社の要請
      (現地マーケット向け製品の製造・販売)
 企業形態:多数合弁
      (日本の親会社の出資比率は五五・〇%)
 従業員数:現地従業員数六五人
      (内、ホワイトカラー二〇人)
      日本人派遣者数二人

 

 2―コア人材の定義

 同社の社員は、次のようなジョブ・グレードに基づき、三段階に区分されている。

 〈ランク:給与〉

 ①MANAGERIAL

  A:10,000 リンギッド
  B:5,000~10,000 リンギッド
  C:2,500~5,000 リンギッド
  D:2,000~4,000 リンギッド

 ②SUPERVISORY

  A:2,250~5,000 リンギッド
  B:1,500~3,000 リンギッド
  C:1,200~2,500 リンギッド
  D:1,000~2,000 リンギッド

 ③GENERAL

  A:1,500~3,000リンギッド
  B:1,000~2,000リンギッド
  C:700~1,400 リンギッド
  D:450~900 リンギッド

 同社では、右記ジョブ・グレードのMANAGERIAL以上をコア人材と位置づけている。現在は、ファイナンス、総務、営業(セールス)、製造、在庫管理の五部門におけるマネジャーはローカルスタッフが就いている。日本人派遣者は社長(MD)を含めて二名しかおらず、同社は実質的にローカルマネジャーによる経営が展開されている。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社では、経営の現地化をさらに促進する観点から、日本人派遣者の数を急速に減らし、前述したように、現在では二名しかいない。こうした自立的な経営を展開するにあたっては、コア人材の数は充足されているものの、マネジメント能力に欠けているマネジャーが多く、質的側面においてコア人材は不十分な状況となっている。特に、営業部門におけるコア人材の不足は深刻な状況にある。さらに、次期マネジャー予備軍においてもコア人材は質、量の両面において不足気味となっている。

 

 4―コア人材の採用

 同社のコア人材の採用は、学歴に拘泥することなく、即戦力の観点から、中途採用が中心となっている。採用経路としては、現地の職業紹介機構から定期的に送付されてくるリストに基づく採用が最も多くなっている。
 コア人材の採用は面接による選考が中心となっているが、面接はすべてローカルマネジャーに一任されている。ただし、社長(MD)に対する報告義務は課せられている。面接では、社外での実績、年齢、人柄、態度などが選考の際に重視されている。同社ではコア人材の採用では学歴はそれ程重視されていない。実際、五人のマネジャーの中で大卒は二名で、あとの三名は高卒となっている。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 前述したように、同社のコア人材の採用は社外での実績を重視した中途採用がメインとなっている。したがって、コア人材のキャリア形成のあり方も採用された職務における専門性を深めるようなキャリア形成が志向されている。また、マレーシアでは職務に対するこだわりや契約観念が強く、他の職務を担当したり、経験することを忌み嫌う傾向が強い。こうした点も同社のコア人材に対するキャリア形成をスペシャリスト育成型にしているものと思われる。しかし、今後はさらなる経営の現地化を推進していくために、営業のコア人材には製造や管理部門を、管理系のコア人材には営業を経験させるようなキャリア形成をはかっていきたいとしている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 コア人材に対する評価は、部下指導、意識改革(マインドチェンジ)、仕事上の責任などをベースに実施されている。GENERAL、SUPERVISORYに対する一次評価はローカルマネジャーが実施している。
 コア人材の昇進の可能性としては、同社を将来的には現地資本一〇〇%の会社としていく構想があるため、いずれはローカルスタッフも社長(MD)に就任する可能性は極めて高いと言えよう。

 

 7―コア人材の定着策

 同社では、コア人材の定着策としては給与、昇進などの経済的インセンティブが最も有効であると考えている。同社のマネジャークラスの給与は5,200~6,100リンギッドとなっており、マレーシアでは比較的高い水準にある。こうした高い賃金水準がコア人材の定着を高めているとしている。
 さらに、同社ではコア人材の定着促進とモティベーション向上の対策として、マネジャー以上に車の貸与を行なっている。これはマネジャークラスのステータスとなっており、定着促進策としてはかなり有効であるとしている。その他の定着促進策としては、休暇や厚生年金などの福利厚生があげられる。

 

 8―コア人材に対する考え方

 前述したように、同社は将来的には一〇〇%現地資本の会社になることや社員の給与負担をすべて同社の負担に切り換えることが模索されており、これまで以上にコア人材に対する積極的な取り組みが必要不可欠であるとしている。こうしたコア人材の育成如何が同社の将来の成長を規定するとしている。ただし、当面はマレー系と中国系とのバランスを取るために、日本人が社長(MD)を務めざるをえない状況にある。


 

◎タイ2社の事例

事例9 消費関連製造業I社

 

 1―企業概要

 業  種:食品関連製造業
 設立年月:一九七〇年一二月
 進出目的:現地市場の開拓および輸出のための生産基地として設立
 企業形態:多数合弁(日本の親会社の出資比率五〇・五%)
 従業員数:現地従業員数四五〇〇人
     (内、ホワイトカラー四〇〇〇人)
      日本派遣者数三人(MD、副社長、総務部長)

 

 2―コア人材の定義

 同社では、マネジャー以上をコア人材と定義しており、社長(MD)、副社長、管理部門(ファイナンス、人事、R&D)の日本人を除けば、すべてマネジャーはローカルスタッフとなっている。そうしたローカルマネジャーの数は五七~五八名にもおよんでいる。日本人の社長によれば、日本人、ローカルマネジャーには意識の差はほとんどなく、ローカルマネジャーの意欲も高いとしている。従って、両者を分け隔てなく同様に扱っているとしている。

 

 3―コア人材の過不足感

 同社には、ローカルマネジャーが五七~五八人も存在しており、工場もローカルスタッフ中心で運営されている点から、コア人材の量的側面における過不足感はないとしている。
 しかし、全体的にはマネジメント能力に不十分な面も見られ、質的側面においてはやや不満があるとしている。
 また、マインド面においてもやる気は評価できるもチャレンジ精神や積極性に欠ける点が見られるとしている。なお、職種的にはR&Dにおけるコア人材が不足気味となっている。

 

 4―コア人材の採用

 コア人材の採用は、新規学卒者の定期採用と職業紹介機構や新聞募集を中心とした中途採用が併用されているが、新規学卒者の定期採用は毎年採用するといったようなシステム化はされていない。コア人材の採用に関しては、大卒を重視したいが、それほど学歴に対する強いこだわりはないとしている。
 コア人材の採用面接はローカルマネジャー中心に展開されるが、最終面接のみ日本人の社長が参加し、採用の是非を決定している。コア人材以外の採用はローカルマネジャーと人事部門の責任者のみで採用の合否判定がなされている。コア人材の採用にあたっては、責任感の強さ、語学力、帰納法的発想のみではなく演繹法的発想ができるかどうかなどが重視されている。同社ではドメスティックな思考から抜け出すため、社内言語を英語で統一しており、採用面でも語学力(英語)は必要とされている。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 コア人材のキャリア形成は、実態としては特定の職務でその専門性を深めていくといったようなキャリア形成が展開されている。しかし、生産部門のキャリア形成はまだ完全にシステム化はされていないが、冷凍、缶詰など複数の職場・職務を経験させるようなキャリア形成が実施されている。
 さらに、同社ではコア人材のマネジメント能力向上のためにさまざまな研修が実施されている。タイの大学より講師を招聘したケースメソッド方式(MBA方式)の研修や会社の方針や戦略を策定するストラテジー研修などが実施されている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 コア人材の評価としては、performance appraisal(業績評価)が導入されている。コア人材の昇進の可能性としては、現状でも管理系のゼネラルマネジャー以外は主要ポストはローカルスタッフで占められており、昇進の可能性はかなり高いものとなっている。ただし、現状ではローカルスタッフが同社の社長(MD)になる可能性は極めて低いといわざるを得ない。ローカルスタッフが同社の社長になるためには、日本本社の内なる国際化、なかでも人事部門の国際化が必要不可欠であるとしている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社ではコア人材の定着策としては二つのことが有効であると考えられている。一つは給与・賞与などの経済的インセンティブである。同社のマネジャークラスの給与は30,000バーツ~40,000バーツとなっており、ワーカーレベルの10,000バーツ前後の給与の三~四倍になっており、かなり強いインセンティブとなっている。賞与は年間五~六カ月程度支給されており、これも相当のインセンティブになっている。
 もう一つは能力開発の機会である。同社では、給与・賞与などの経済的インセンティブのみでコア人材を引き止めるのには限界があるとしている。コア人材の定着促進には、仕事面の面白みや能力開発の機会がかなり重要であるとしている。同社が前述したように、ケースメソッド方式のMBA型研修やストラテジー研修、さらには英語教育などの能力開発に力を入れているのは、ただ単にコア人材のキャリア形成の視点のみではなく、コア人材の定着策の視点も考慮に入れているからである。

 

 8―コア人材に対する考え方

 同社では、ローカルスタッフの意欲も能力も一部では不満はあるものの、かなり高い水準にある点から、今後とも経営の現地化に向け、コア人材に対しては積極的には取り組んでいきたいとしている。しかし、反面タイは会社への忠誠心よりも自己の利益を優先する点があり、能力・スキルを身につけて他社に転職する危険性があるため、コア人材の育成には慎重さをもって望みたいとしている。
 また、これも前述したように、コア人材への積極的な取り組みには、日本本社の内なる国際化が必要不可欠であることが強調されている。


 

 

事例10 ロジスティックス関連企業J社

 

 1―企業概要

 業  種:ロジスティックス(物流・倉庫)業
 設立年数:一九八九年九月
 進出目的:タイ進出日系企業の輸出入業務のサポート
 企業形態:少数合弁(日本の親会社の出資比率三三・〇%)
 従業員数:現地従業員数九〇人(全員ホワイトカラー)
      日本人派遣者数三人(MD、GM、支店のマネジャー)

 

 2―コア人材の定義

 同社はマレーシア、シンガポールにおける歴史のある現地法人とは異なり、会社としての歴史は浅く、コア人材に対するニーズはかなり高いものとなっている。同社では、コア人材をマネジャー以上と位置づけており、管理、営業、支店などに四人のローカルマネジャーが存在している。なお、三人の日本人は、社長、ゼネラルマネジャー、支店のマネジャーに就いている。

 

 3―コア人材の過不足感

 前述したように、同社の会社としての歴史は浅いため、コア人材をかなり必要としている。そうした同社の状況を鑑みると、現状ではコア人材は質、量の両面において、さらにすべての部門においてかなり不足している。同社ではコア人材の質が会社の質を決めると考えており、コア人材不足は重要な経営課題となっている。

 

 4―コア人材の採用

 コア人材の採用は、日本版リクルートのような職業紹介企業を通した中途採用がメインとなっている。新聞による募集はエントリー者が多く、面接に多くの時間を要するため、職業紹介会社を通しての中途採用が主になっている。
 また、タイは地縁、血縁を中心とするネットワーク社会であるため、営業のコア人材に関しては社員の紹介による採用も多用されている。
 コア人材の採用にあたっては、三回の面接が実施されており、一次面接はローカルマネジャーが行ない、二次面接はアドミニストレーション(管理部門)のマネジャーが行ない、最終面接は日本人社長が行ない、採用の是非を決定している。
 採用面接に際しては、語学力、人柄・態度、チームに溶け込めるかどうかなどが重視されている。タイは学歴社会であるが、同社の採用においては学歴はそれほど重視はされていない。実際、現在の四人の、マネジャーのうち大卒は一人のみで、残り三人は会社に勤務しながら大卒の資格を取得している。

 

 5―コア人材のキャリア形成

 同社におけるコア人材のキャリア形成は、望ましくは幅広い業務を経験させながらゼネラリストとして育成していきたいが、現状では担当職務での専門性が深まるようなキャリア形成が中心とならざるを得ないとしている。ただし、営業系は職務の特性上、物の流通に関する幅広い知識が必要なため、現場経験が重視されている。また、コア人材に対してはタイ日経済振興協会が主催する経理担当者セミナー、日本人の思考法などのセミナーに二~三カ月に一度派遣している。
 さらに、同社の歴史が浅く、組織としては不完全であるため、コア人材に対して日本人派遣者によるマネジメント教育がOJTを通して実施されている。

 

 6―コア人材の評価と活用

 コア人材に対しては明確な評価制度は存在していない。コア人材の昇進の可能性としては、会社としての成熟度が低いため、ゼネラルマネジャークラスとなっている。現在はゼネラルマネジャーは日本人が一人存在しているのみであるが、今後はローカルマネジャーの中からゼネラルマネジャーを輩出する可能性は高いとしている。

 

 7―コア人材の定着策

 同社では、会社、従業員双方に日本のような終身雇用の概念はないものの、同社のコア人材の定着率は高くなっている。その理由としては賃金水準の高さがあげられる。同社のマネジャークラスの給与は35,000~50,000バーツ、スーパーバイザークラスで9,000~10,000バーツとなっており、パソナ社の調査によれば日系企業の中では高いレベルにある。こうした高い給与水準が同社のコア人材の定着率を高めているものと思われる。
 その他の定着策としては、裁量権の拡大や昇進の可能性などが有効であると考えられている。

 

 8―コア人材に対する考え方

 同社の出資比率は現地資本が高い点、さらにはコア人材が会社の質を決めるという観点から、同社では今後ともコア人材に対してはこれまで以上に積極的に取り組んでいきたいとしている。
 ただし、タイの場合、歴史的に形成されてきた階層社会とコア人材の育成問題が混同される危険性があるので、社員に誤解のないような形で運用していきたいとしている。

 *

 やち あつひろ
 専門は人的資源管理・組織行動論。現在は、わが国の雇用システムの今後の展望やグループ経営と人材マネジメントに関する研究を展開。