[第一章]

アジア日系企業の人材育成に関する調査

コア人材を中心に

 1――はじめに:研究の目的

鈴木岩行* 和光大学教員
 日系企業の現地子会社数はアジア諸国が過半を占め、日系企業の海外進出はアジアへの進出が中心となりつつある。しかし、日系企業の現地での経営に関しては、業務の高度化により知識人材の必要性は深まっているが、ホワイトカラーの有能な人材が定着せず、経営の現地化も進んでいないなどホワイトカラーに関する問題点が指摘されている(参考文献参照)。特に、中国の日系企業では年功序列型昇進・昇給制度が行なわれ、中国人ホワイトカラーが望む能力主義的評価や処遇が実施されていないため、中国人ホワイトカラーの日系企業に対する評価は欧米系企業より低いとされている。

 また、前回のアジア一〇カ国の日系企業の経営システムに関する調査(一九九七年~二〇〇〇年)で、以下のような結果を得た。ホワイトカラーに対して(一)能力・業績をかなり重視した処遇管理を行なっていると回答した企業が大多数であった。(二)しかし、能力開発の目標としては、現在の仕事に直結する専門的知識の高度化と職務遂行能力の向上のみを重視し、直結しない資格の取得や昇進・昇格への対応は重視していない。したがって、ホワイトカラー従業員の職務能力をもう一段向上させるような人材育成方針は取られていない。

 一方、日本国内では近年経営環境の大きな変化により、ホワイトカラーの評価・報酬システムは長期雇用にもとづいたものから業績・成果を反映させるシステムへ変わりつつある。そこで、将来中核を担うと目され、早期に選抜、登用される人材(コア人材と呼ぶ)の導入が検討されている。

 日本国内で導入が検討されているこのコア人材育成策は、能力主義的評価や処遇を望むアジア地域のホワイトカラーに適合すると考えられる。したがって、コア人材育成への対処が、日系企業の行なっている能力・業績を重視した処遇管理がどの程度のものかを判断する指標の一つになると思われる。さらに、コア人材育成策の導入はホワイトカラーの定着率、現地化度にも影響を与えるであろう。

 このような考えに基づいて、本調査はコア人材の導入について、近年日系企業の進出が急増している中国および中国と比較する意味を含めて東南アジア三カ国の日系企業に対して行なわれた。

 2――アンケート調査結果の概要

 調査は中国と東南アジア三カ国の製造業を中心とした日系企業にアンケート用紙を送付する形で行なった。まず二〇〇二年二月、シンガポール、マレーシア、タイの東南アジア三カ国の日系企業三〇〇社(各国一〇〇社)にアンケート用紙を送付し、七〇社から回答を得た。次に二〇〇二年六月、同様に中国沿海部(大連・北京・天津・青島の環渤海地域、上海・江蘇省の長江下流地域、広東省・福建省の華南地域)の日系企業三〇〇社(各地域一〇〇社)にアンケート用紙を送付し、四〇社から回答を得た。四カ国合計では一一〇社から回答を得た[図表1]。

 【進出企業の現状について】
 まず、アンケートに回答してくれた企業の現状を述べる。

 Q1 進出企業本社の業種[図表2]
 四カ国全体では機械関連製造業が五二・八%を占め最も多く、以下素材関連製造業一七・九%、消費関連製造業一四・二%、卸売・小売業三・八%、その他となっている。国別の差異を見ると、機械関連製造業が圧倒的に多いのはマレーシア(七五・〇%)と中国(六〇・〇%)であり、シンガポールは一位であるが半数以下(四〇・七%)で、タイは消費関連製造業が一位(四二・一%)で、機械関連製造業は二位(三一・六%)である。

 Q2 本社の企業規模(従業員数)[図表3]
 進出企業本社の規模を従業員数で見ると、四カ国全体では三〇〇人以上の企業が七六・四%と四社に三社が大企業である。国別に見てもマレーシア(八五・七%)、中国(八〇・〇%)、シンガポール(七四・一%)で七〇%を超えており、最も比率の低いタイでも三分の二近い(六三・六%)。このように進出企業の本社の多くは大企業である。

 Q3 本社が現地子会社を最初に設立した時期[図表4]
 四カ国全体では一九七〇年代が最も多く三一・九%、次が六〇年代で二三・一%、以下八〇年代一八・七%、九〇年代一六・五%と続き、七〇年代と六〇年代を合計すると五五%を占める。国別では在中国の企業は九〇年代が最も多く三二・三%を占め、現地子会社を最初に設立してからの年数が短い企業が多い。

 Q4 本社が設立している現地子会社数[図表5]
 本社が設立している現地子会社数は回答一〇三社のうち四八社が一〇社未満であり、本社が設立している現地子会社はあまり多くない。

 Q5 現地子会社設立年[図表6]
 現地子会社が設立された年は四カ国全体では一九九一年以前が五七・三%で、九二年以後が四二・七%とその差は一五%ほどに過ぎないが、国によって大きく異なっている。東南アジア三カ国は一九九一年以前に設立されたものが大部分(シンガポール九六・三%、マレーシア八一・〇%、タイ七七・三%)で、反対に中国は九二年以後に設立されたものが圧倒的に多い(九二・五%)。したがって、東南アジア三カ国の現地子会社は設立されて一〇年以上たったものが多く、中国の子会社は一〇年以下の年数が短いものが多い。

 Q6 現地子会社の企業形態[図表7]
 四カ国全体の企業形態は、単独出資が四六・四%を占め最も多く、以下多数合弁三二・七%、少数合弁一三・六%となっている。単独出資と多数合弁を合計すると約八〇%の企業で日本側がマジョリティを握っている。マジョリティの比率が最も高い国はシンガポール(九二・六%)で、最も低いタイでも三分の二近くの企業で日本側がマジョリティを握っている。中国は単独出資の比率がシンガポールに次いで高い(四五・〇%)。

 Q7 現地子会社の企業規模(従業員数)[図表8]
 現地子会社の企業規模を従業員数で見ると、四カ国全体では一〇〇人以上三〇〇人未満の企業と三〇〇人以上一〇〇〇人未満がともに二八・二%で最も多く、次いで一〇〇人未満が二五・五%、一〇〇〇人以上が一八・二%となっている。三〇〇人以上一〇〇〇人未満の比率が高い国はマレーシア(三八・一%)と中国(三二・五%)で、中国は一〇〇〇人以上の比率も四カ国の中で最も高く、比較的規模の大きな企業が多い。タイは一〇〇人以上三〇〇人未満の比率が高く(四〇・九%)、シンガポールは一〇〇人未満の比率が半数に近く、小規模な企業が多い。

 【コア人材の育成について】
 ここからは回答企業がコア人材の育成にどのように取り組んでいるかを見る。

 Q8 コア人材の過不足感について(「かなり不足」をマイナス二点、「やや不足」をマイナス一点、 「十分である」を〇点、「やや余剰」を一点、「かなり余剰」を二点とし、回答企業の平均をとった)[図表9、10、11]

 四カ国全体ではマイナス一・一でやや不足と感じている。国別に見ると、中国=マイナス一・三、タイ=マイナス一・二、マレーシア=マイナス〇・九、シンガポール=マイナス〇・八となり、中国とタイで相対的に不足感が強い。

 本社の企業規模別に見ると、本社が三〇〇人未満の中小企業(以下、中小企業と略す)はマイナス一・〇、三〇〇人以上の大企業(以下、大企業と略す)はマイナス一・一でほとんど差は見られない。設立時期別に見ると、一九九一年以前に設立された企業(以下、九一年以前企業と略す)はマイナス一・二、一九九二年以降に設立された企業(以下、九二年以降企業と略す)はマイナス一・〇と九一年以前企業にやや不足感が強い。

 一、採用・選抜に関して
 Q9 採用方法について(「全くない」を〇点、「あまりない」を一点、「どちらかというと多い」を二点、「非常に多い」を三点とし、回答企業の平均をとった)[図表12、13、14]

 コア人材の採用方法は、四カ国全体では一位職業紹介機構を通じての採用が一・六、二位新聞・求人雑誌等による採用が一・四、新規学卒者の定期採用が一・一、社員による紹介が一・〇で、八つの選択肢のうち一点を超えるものはこの四つだけである。後のヒアリングに見るように、コア人材は新規学卒者の定期採用よりも職業紹介機構を通じてや新聞・求人雑誌等による中途採用の方が多くなっている。国別の特徴を見ると、中国は新聞・求人雑誌等による採用が少なく(一・〇)、新規学卒者の定期採用が二番目に多い(一・六)。マレーシアは新聞・求人雑誌等による採用が最も多い(一・九)。シンガポールは職業紹介機構を通じて(一・二)と新規学卒者の定期採用(〇・六)がともに少ない。タイは全体的な傾向との差はあまりない。

 本社規模別では、大企業は全体的な傾向との差はあまりないが、中小企業は職業紹介機構を通じて(一・八)や社員による紹介(一・三)を積極的に活用している。設立時期別では、九一年以前企業は、職業紹介機構を通じて(一・七)と新規学卒者の定期採用(一・四)が九二年以後企業と比べ相対的に多く、九二年以後企業は新聞・求人雑誌等による採用(一・六)が多い。

 Q10 コア人材の選抜要件(選択肢一一、時期毎に三つ回答)[図表15、16、17]
 四カ国全体で時期毎の上位三つは以下のとおりである。

  入社時は学歴(六〇・〇%)、人柄(四七・三%)、語学力(三八・二%)。
  入社後一年以内は実行力(五三・六%)、社内での実績(四〇・九%)、将来性(三六・四%)。
  入社後一~三年は実行力(四九・一%)、社内での実績(四六・四%)、リーダーシップ(三五・五%)。
  入社後三~五年はリーダーシップ(五〇・九%)、社内での実績(四四・五%)、実行力(三九・一%)。
  入社後五年以上はリーダーシップ(六〇・九%)、問題解決力(四二・七%)、実行力(四〇・〇%)。
 時期毎に大きく変化しているのが分かる。入社時と入社後五年以上の上位三つの時期毎の推移を表したものが図表18である。

 入社時と入社後五年以上の上位要件を国別に見ると、入社時では全体で三位に入る語学力が、中国とタイは二位であるが、シンガポールで七位と低くなっている。これは中国・タイとシンガポールの英語によるコミュニケーション能力の違いが原因と考えられる。この項目以外に他の国を含めて大きな差はない。入社後五年以上の上位要件は国により順位に変動はあるが、大きな違いはない。

 Q11 コア人材選抜の最終決定者(選択肢五、時期毎に回答)[図表19、20、21、22]
 四カ国全体で時期毎の上位三つは以下のとおりである。 

 入社時は子会社の社長・役員(三九・一%)、子会社の人事部門(三〇・九%)、子会社の直属上司(一九・一%)の順である。入社後一年以内より後は比率は変わるが順番は、子会社の社長・役員、子会社の直属上司、子会社の人事部門で変わらない。子会社の社長・役員の比率がしだいに上昇し(入社後一年以内四三・六%から入社後五年以上七一・八%)、他の部門の比率が低下している。入社時と入社後五年以上の最終決定者を国別に見ると、入社時は中国(三七・五%)とマレーシア(四七・六%)で子会社の人事部門が一位であるが、入社後五年以上になるとその比率は急減する(中国七・五%、マレーシア四・八%)。

 二、育成の施策・職種・職位に関して
 Q12 コア人材育成の施策(選択肢四、「全く実施していない」を〇点、「あまり実施していない」を一点、「どちらかというと実施している」を二点、「大いに実施している」を三点とし、回答企業の平均をとった)[図表23、24]

 四カ国全体では、一位コア人材を意識したキャリア形成(一・四)、二位社外の研修機関(大学を含む)への派遣(一・三)、三位コア人材を意識した能力開発プログラム(一・一)、四位日本本社へ出向させ上位の職務を経験させる(一・〇)となり、実施率の最も高いものでも中位数に届いておらず、コア人材育成策の実施率は高いとは言えない。国別に見ると、コア人材を意識したキャリア形成はタイでもっとも高く(一・八)、マレーシアと中国は社外の研修機関(大学を含む)への派遣が一位である。また中国は日本本社へ出向させ上位の職務を経験させる比率も四カ国中最高である(一・三)。一方、シンガポールはその比率が最低である(〇・六)。

 Q13 コア人材を必要とする職種(選択肢六、「全く必要としない」を〇点、「あまり必要としない」を一点、「どちらかというと必要とする」を二点、「非常に必要とする」を三点とし、回答企業の平均をとった)[図表25、26]

 四カ国全体では、一位生産・技術(二・二)、二位営業と財務・経理(各一・八)、四位総務・人事(一・六)、五位開発・設計(一・五)、六位法務・特許(〇・七)となり、法務・特許を除き必要度は比較的高いと言えよう。国別に見ると、中国ですべての職種で平均よりも必要度が高くなっている。これはQ8で見たコア人材の不足感が中国で最も高いことと符合すると考えられる。

 Q14 コア人材を昇進させる職位(選択肢四、「全くない」を〇点、「あまりない」を一点、「どちらかというと多い」を二点、「非常に多い」を三点とし、回答企業の平均をとった)[図表27、28]
 四カ国全体では、一位子会社部長クラス(二・二)、二位子会社役員クラス(〇・九)、三位子会社社長(〇・三)、四位日本本社役員クラス(〇・〇)となり、子会社部長クラスがほとんどで、子会社役員クラスもあまりなく、子会社社長は非常に少なく、日本本社役員クラスは皆無という結果となった。国別に見ると、中国で子会社部長クラスまでが最も多く(二・四)、子会社役員クラス以上への昇進の比率が最も低い(〇・八)。これは設立一〇年以上の企業の比率が低いことと関連があると思われる。

 三、キャリア形成、定着に関して
 Q15 コア人材の今後のキャリア形成パターン(選択肢三、一つ回答)[図表29、30、31、32、33、34] 四カ国全体では、これまではパターンⅠ(一定年齢までに幅広い職務を経験し、将来の中核となる人材を育成するキャリア)は最も少なかったが(一九・三%)、今後は一四・六%増え二位となる。パターンⅡ(一定年齢までに一つの職務で専門性を身につけ、その分野のプロフェッショナルを育成するキャリア)は、これまでは最も多かったが(五〇・五%)、二九・四%減り今後は最も少なくなる。パターンⅢ(一定年齢まで狭い範囲の職務を経験し、企業内スペシャリストを育成するキャリア)は一四・七%増え、今後は最も多くなる。

 国別に見ると、異なる三つのパターンに分かれる。中国とシンガポールが同様のパターンで、最も多かったパターンⅡが減り、パターンⅢが増え最多となる。マレーシアは最多のパターンⅡが大きく減り、パターンⅠが大きく増え最多となる。タイは最多のパターンⅢは微減で、2位のパターンⅡの方が大きく減り、その分パターンⅠが増え最多となる。

 Q16 コア人材定着のための施策(選択肢九、「全く有効でない」を〇点、「あまり有効でない」を一点、「どちらかというと有効である」を二点、「非常に有効である」を三点とし、回答企業の平均をとった)[図表35、36]
 四カ国全体では、一位給与・賞与の反映幅の拡大(二・四)、二位昇進・昇格のスピード(二・三)、三位能力開発の機会の拡充と裁量権の拡大(一・九)、五位報奨金・奨励金制度(一・五)までが中位数を超えている。自社株購入権制度(〇・四)や社内公募制(〇・五)は少ない。国別に見ると、中国では全ての施策で平均よりも〇・二~〇・七点も有効性が高いと評価されている。給与・賞与の反映幅の拡大は二・七に達し、報奨金・奨励金制度は平均よりも〇・七点も高くなっており、金銭的インセンティブが有効と考えられている。

 四、コア人材制度についてどのように評価しているか
 Q17 コア人材制度の評価(選択肢一一、「違う」を〇点、「やや違う」を一点、「まあそうだ」を二点、「そのとおり」を三点とし、回答企業の平均をとった)[図表37、38、39、40]

 選択肢の①番~⑤番まではプラス評価に関するもので、⑥番~⑪番まではマイナス評価のものなので両者を分けて述べる。

 プラス評価に関して、四カ国全体では、一位能力のあるものを魅きつけるシステムである(二・三)、二位人材が流動化する中で有効な人材育成のシステムである(二・二)、三位限られた資源を有効に活用するシステムである(二・一)、四位世の中の変化に対応できるシステムである(二・〇)、五位ホワイトカラーの選抜に有効なシステムである(一・八)となっている。一位~四位までが二点を超えており、コア人材制度について有効であると評価していると考えられる。

 マイナス評価に関して、四カ国全体では、一位が選抜のための基準作りや評価が難しいとコア人材の要件を満たす人材が少ない(各二・三)、三位コア人材の育成に費用や時間がかかる(二・一)、ここまでが二点以上である。四位コア人材として選抜されたものへの負担が大きいとコア人材以外の社員のモティベーションが失われる(各一・二)、六位人間関係がギクシャクする(〇・九)は比較的少ない。

 したがって、コア人材制度については有効であると評価しているが、その一方で、選抜のための基準作りや評価が難しく、またコア人材の要件を満たす人材も少ないと考えているのである。

 国別では大きな差はないが、中国はプラス評価のうち「世の中の変化に対応できるシステムである」と「限られた資源を有効に活用するシステムである」が四カ国のなかで最低で、マイナス評価のうち「選抜のための基準作りや評価が難しい」が最も高くなっている。

 Q18 コア人材の受け入れについて(「全く受け入れられない」を〇点、「あまり受け入れられない」を一点、「どちらかというと受け入れられる」を二点、「大いに受け入れられる」を三点とし、回答企業の平均をとった)[図表41、42]

 コア人材という考え方について、四カ国全体では二・一でどちらかというと受け入れられるととらえられている。国別ではシンガポールとタイで二・二、マレーシア二・一、中国一・九で東南アジア三カ国のほうが中国よりも受け入れられていると考えられている。

 3――小括

 一、回答企業の現状
 アンケートの結果を中国を中心にまとめると、以下のとおりである。

 1―進出企業の業種は四カ国全体では機械関連製造業が五割以上を占め、中国は六〇%を超えている。

 2―進出企業本社の規模を従業員数で見ると、四カ国全体では三〇〇人以上の大企業が四社に三社である。中国はその比率が八〇%を超えている。

 3―本社が現地子会社を最初に設立した時期は四カ国全体では七〇年代と六〇年代が多いが、在中国の企業は九〇年代が最も多く、現地子会社を最初に設立してからの年数が短い企業が多い。

 4―本社が設立している現地子会社数は回答一〇三社のうち四八社が一〇社未満であり、本社が設立している現地子会社はあまり多くない。

 5―現地子会社が設立された年は、東南アジアで一九九一年以前のものが多く、中国は九二年以後に設立されたものが圧倒的に多い。したがって、中国の子会社は一〇年以下の年数が短いものが多い。

 6―四カ国全体の企業形態は、中国を含め単独出資と多数合弁を合計すると約八〇%の企業で日本側がマジョリティを握っている。

 7―現地子会社の企業規模を従業員数で見ると、四カ国全体では一〇〇人以上三〇〇人未満の企業と三〇〇人以上一〇〇〇人未満がともに二八・二%で最も多いが、中国は比較的規模の大きな企業が多い。

 二、コア人材の育成について
 (一)過不足感・採用・選抜に関して
 8―コア人材の過不足感について、四カ国全体ではやや不足と感じている。中国とタイで相対的に不足感が強い。

 9―コア人材の採用方法は、四カ国全体では職業紹介機構を通じての採用が最も多い。中国は新聞・求人雑誌等による採用が少なく、新規学卒者の定期採用が二番目に多い。

 10―コア人材の選抜要件は、四カ国全体で一位は入社時は学歴で、入社後五年以上はリーダーシップであり、時期毎に大きく変化している。上位要件は国により順位に変動はあるが、大きな違いはない。

 11―コア人材選抜の最終決定者は、四カ国全体で最多のものは、入社時から入社後五年以上まで一貫して子会社の社長・役員である。入社時は中国で子会社の人事部門が一位であるが、入社後五年以上になるとその比率は急減する。

 (二)育成の施策・職種・職位に関して
 12―コア人材育成の施策は四カ国全体では、一位がコア人材を意識したキャリア形成だが、コア人材育成策の実施率は高いとは言えない。中国は社外の研修機関(大学を含む)への派遣が一位であり、日本本社へ出向させ上位の職務を経験させる比率も四カ国中最高である。

 13―コア人材を必要とする職種は四カ国全体では、一位が生産・技術(二・二)で、五位の開発・設計でも一・五であり、法務・特許を除き必要度は比較的高い。中国ですべての職種で平均よりも必要度が高くなっている。これは8で見たコア人材の不足感が中国で最も高いことと符合すると考えられる。

 14―コア人材を昇進させる職位は四カ国全体では、一位が子会社部長クラス(二・二)で、二位の子会社役員クラスでは一未満である。中国で子会社部長クラスまでが最も多く、子会社役員クラス以上への昇進の比率が最も低い。これは設立一〇年以上の企業の比率が低いことと関連があると思われる。

 (三)キャリア形成、定着に関して
 15―コア人材の今後のキャリア形成パターンは四カ国全体では、これまではパターンⅠ(ジョブローテーション・タイプ)は最も少なかったが、今後は二位となる。パターンⅡ(プロフェッショナル・タイプ)は、これまでは最も多かったが今後は最も少なくなる。パターンⅢ (企業内スペシャリスト・タイプ)は今後は最も多くなる。中国とシンガポールは最も多かったパターンⅡが減り、パターンⅢが増え最多となる四カ国全体と同様のパターンである。

 16―コア人材定着のための施策は四カ国全体では、給与・賞与の反映幅の拡大と昇進・昇格のスピードが有効との回答が多い。中国では全ての施策で平均よりも〇・二~〇・七点も有効性が高いと評価されて、特に金銭的インセンティブが有効と考えられている。

 17―コア人材制度は有効であると評価しているが、その一方で、選抜のための基準作りや評価が難しく、またコア人材の要件を満たす人材も少ないと考えている。国別で大きな差異はない。

 18―コア人材という考え方について、四カ国全体ではでどちらかというと受け入れられるととらえられている。東南アジア三カ国のほうが中国よりも受け入れられると考える企業が多い。

 コア人材について、中国では四カ国のなかで不足感が強く、職種での必要度も高い。しかし、昇進させる職位は子会社役員クラス以上への昇進の比率が最も低く、コア人材という考え方を受け入れられるとする企業が少ない。中国ではコア人材育成への対処が東南アジア三カ国よりも遅れているといわざるをえない。この原因としては、中国の方が東南アジア三カ国よりも経済発展がダイナミックで、人材の流動化が激しいことが指摘できる。さらに、海外進出企業において適切な経営管理・人材育成を短期間でマスターすることが難しいことを考えれば、中国の日系企業は東南アジアの日系企業に比べて設立年数が短いことも理由の一つであろう。

《付記》
 本アンケート調査のデータの集計・処理は、半谷俊彦が行なった。手間のかかる作業を担当してくれたことに感謝すると共に半谷が行なった検定結果をここに付記する。

 『コア人材に関するアンケートの検定について』
 調査結果は、現地子会社の所在国別(中国・マレーシア・シンガポール・タイ)、本社従業員規模別(三〇〇人未満・三〇〇人以上)、現地子会社設立時期別(一九九一年以前・一九九二年以降)に集計を行なった。そこで、こうしたグループ毎に算出した平均値の差が有意であるか否かをt検定によって検定した(Levene 検定によって比較するグループの分散が等しいか否かを検定し、その結果に応じ、有意水準五%でt検定を行なった)。その結果、検定を実施したすべての設問について、有意な差が認められなかった。(和光大学教員・財政学専攻 半谷俊彦)

*

 すずき いわゆき
企業論専攻。アジア地域における日系企業の経営の有効性と課題について、実地調査に基づいて研究している。

《主要参考文献》
1、市村真一編『アジアに根づく日本的経営』東洋経済新報社、一九八六年。
2、吉原英樹『未熟な国際経営』白桃書房、一九九六年。
3、加藤秀樹『アジア各国の経済・社会システム』東洋経済新報社、一九九六年
4、麻生幸編著「日本的人事労務管理の国際性特集号」(『国府台経済研究』8│3)、一九九七年。
5、片岡信之、三島倫八編著『アジア日系企業における異文化コミュニケーション』文眞堂、一九九七年。
6、岡本康雄編『日系企業 in 東アジア』有斐閣、一九九八年。
7、飫冨順久・鈴木岩行・谷内篤博他『中国進出日本企業に関する調査研究』和光大学、一九九八年。
8、白木三秀『アジアの国際人的資源管理』社会経済生産性本部、一九九九年。
9、松本芳男「異文化経営と経営教育」(森本三男編著『多次元的経営環境と経営教育』)学文社、一九九九年。
10、石田英夫『国際経営とホワイトカラー』中央経済社、一九九九年。
11、鈴木滋『アジアにおける日系企業の経営』税務経理協会、二〇〇〇年。
12、馬成三『中国進出企業の労働問題││日米欧企業の比較による検証』日本貿易振興会、二〇〇〇年。
13、高橋由明他『経営管理方式の国際移転』中央大学出版部、二〇〇〇年。
14、飫冨順久・鈴木岩行他『東南アジアにおける日系企業の経営に関する調査研究』和光大学、二〇〇〇年。
15、藤井光男編『東アジアにおける国際分業と技術移転』ミネルヴァ書房、二〇〇一年。
16、鈴木岩行「アジアにおける日系企業の人事管理とその課題」(日本経営教育学会編『経営教育4│経営の新課題と人材育成』)学文社、二〇〇一年。
17、鈴木岩行「台湾・香港・韓国における日系企業の経営管理」(『和光経済』三四│一)和光大学、二〇〇二年。
18、趙暁霞『中国における日系企業の人的資源管理についての分析』白桃書房、二〇〇二年。
19、野村総合研究所『知識経済化するアジアと中国の躍進』野村総合研究所、二〇〇二年
20、植木真理子『経営技術の国際移転と人材育成』文眞堂、二〇〇二年。