シンポジウム◎民族紛争の現在 - 日本から考える

開会のあいさつ

水上健造

 和光大学総合文化研究所所長/経済学部教授

 

 本日、和光大学総合文化研究所の一九九八年度のシンポジウムを行ないます。学内外から多数お集まりいただき、感激いたしております。

 本研究所は、和光大学創立以来、さまざまな領域の研究者の交流による共同研究に取り組むという本学教育の夢が、一九九五年四月に実現しました。また、この年は和光大学創立三〇年を記念する年でもありました。

 現在、研究所には、共同研究グループが一五あり、これをA、B、Cの三つの系列に分けて、A系はアジア・地域研究系、B系は表象・文化研究系、C系は教育・生活研究系です。今日のシンポジウムはA系が中心となって開催します。

 ご案内のリーフレットにも書きましたが、今日世界各地で民族間の物理的な衝突が激発しています。現在、私たちが直面している最も複雑かつ困難な問題でもございます。今回のシンポジウムを通じまして、いろいろな意見が討論されることと存じますが、教育・研究の場としての大学の立場から、大勢の人びとに説得力を持つような結果が得られますことを、心から期待しております。

 本日は三人の先生から問題提起していただきます。

 最初に「民族紛争化するグループ対立│アフガニスタンの現状」というテーマでお話しいただく山根聡先生は遠路大阪からおいでいただきました。先生はパキスタンの国立オリエンタル・カレッジ大学院を修了され、パキスタン日本大使館の調査員でアフガニスタン問題を担当されています。現在、大阪外国語大学で教鞭をとっておられます。

 「多国間植民地問題としてのクルド紛争」についてお話ししていただく松枝到先生は本学人間関係学部の教員で、アジア文化、東西交渉史を専攻されています。

 最後は、「旧ユーゴにおける民族紛争の背景」と題して、江川ひかり先生にお願いいたします。江川先生は、トルコ近現代史を専攻とされ、東洋文庫研究員で、本学兼任講師をしておられます。

 広くイスラムを調査されるとともに、現代トルコの文化について深く研究しておられます。

 

 問題提起をしていただく三先生、そしてこのシンポジウムに関心をお持ちになりこの会場にお集まりいただきました方々、皆様に心からの歓迎のご挨拶を申し上げまして、私の開会のことばといたします。

 


 今世紀も幕を閉じようという現在、世界各地で民族間の暴力的な衝突が激発しています。マスメディアをとおして断片的な情報は毎日のように報道されていますが、日本では国内に集団規模での民族紛争が目に見えるかたちでは現れないこともあり、対岸の火のように受けとめてしまいがちです。しかし一歩踏み込んで考えてみると、あたかもはるか彼方の地域に限定された紛争とも思われる出来事が、日本も含めたさまざまな国家の間の多様な関係から生じていること、あるいは近現代の社会状況のもとに成立した「国家」概念の矛盾から問題のあらわれていることなどに気づかざるをえません。こうした状況のさししめす問題群は、現在の状況分析と歴史的な検証を要求する課題だと思う次第です。 今回の和光大学総合研究所主催のシンポジウムでは、複雑にからみあい、なかなか理解しがたい民族紛争という問題を正面から見据えながら、教育・研究の場としての大学という立場から、さまざまな情報を提供しながら、新たな世紀を迎えるうえで人類が解決すべき最大の課題となるであろう民族紛争をみなさんと一緒に見つめ、考え直し、自分たち一人ひとりの問題ととらえなおしながら、こうした困難をのりこえてゆく道をさぐってみたいと思います。 もちろん、問題は多岐にわたり、ひとつひとつ事例をとりあげていても、一日二日で語り終えることではありませんから、このシンポジウムでは具体的な事例と歴史的な事例、それをベースにした意見交換とさらに状況を知るための情報のありどころを紹介することで、単発的な報告ではなく、この根本的な問題を持続的に考えてゆくための発信源を産みだすきっかけにしたいと考えます。     ――リーフレットより