シンポジウム◎食料関連産業と環境―アジアと日本

貿易と環境

木材とエビの事例を中心に

 

小林弘明 ・本学経済学部助教授
 


 今、お二人の先生からタイと中国の話を伺いました。タイと中国は発展途上国と呼ばれる国々であって、農業部門や森林の話も出ましたが、それらの部門が比較的大きなウエートをもつ国々です。

 私の話はどういう関係があるのかということですが、発展展途上国で起こっている問題が、あれはタイと中国の話で、我々日本人とは関係ないと思ってはほしくないというところにきっかけがあります。

 そこで「貿易と環境」というタイトルですが、日本はエビや木材のほかにもたくさんの一次産品を輸入しています。先進国ではこれらの産品をしばしば輸入しています。しかし、先進国がいろいろなものを買う、あるいは世界中で物が移動する、そういった状況に対して強く批判する声があります。

 その背景となる数字。過去二〇年、世界の経済成長率は六%程度でしたが、貿易はそれ以上に成長して、大体、年率八%、九年ほどで二倍になるペースです。

 その中で発展途上国と呼ばれる国の輸出も着実に増えて、世界全体の三分の一を占めるようになっています。そのうち七〇%、半分以上は、農産物等一次産品ではなく工業製品です。発展途上国といってもいろいろな国があり、その動きにはばらつきがあります。かつ、重要なポイントとして、労働集約的産品、繊維など、どちらかというとあまりもうからない工業製品に偏っています。

 もう一つのポイントは、一次産品、資源収奪型産品への依存度が高いことです。タイトルにあるエビ、木材などは一次産品で(資源収奪型という言葉は耳慣れないかもしれませんが)、エビの場合を例にとりますと、海にいるエビをどんどん捕獲するといなくなってしまいます。そういう種類の産品に発展途上国はわりと依存するという話です。

 世界中に物が流れる、貿易の拡大に対して批判する声を、ここでは紹介します。

 自由貿易を進めるWTO(世界貿易機関)という国際機関があります。そこに日本をはじめ百数十カ国が加盟しています。自由貿易の推進を使命として、貿易ルールを決めていますが、数年前にこの機関を強く批判する声が上がりました。貿易が急速に拡大して、自由貿易をルールにした結果、何が起こったかというと、発展途上国の環境が破壊されてしまったではないか。これはWTOが悪いからだ、という議論がありました。

 発展途上国の環境破壊では、森林破壊が一番大きいだろうと思います。森林の豊富な国から木材がどんどん輸出されて、それが森林破壊につながっているという話です。

 もう一つ、エビは一つの品物であって、小さい感じですが、シンボル的なものと見なせましょう。やはり資源に依存する部門の産品である。エビの場合は、後にふれますが、マングローブ林を随分と破壊してしまったと言われています。

 そして日本の場合、林産物は金額ベースで世界の輸入金額の一割程度、エビに至っては世界中のエビ輸入の約三割を占めています。これは相当な量です。水産物はそれ以外でもサケ・マスで三割、マグロとカニの六割は日本が買っています。貿易が発展途上国の環境を破壊するという文脈の中、「日本よちょっと待て」という話になるかもしれません。

 話を整理しますと、先の問題は単に発展途上国だけの問題ではなくて、地球環境問題と呼ばれる問題に直接つながるということです。熱帯雨林の破壊は、今最も心配されている温暖化問題につながるということでよくない。それから、これは皆さん、聞いたことがないかもしれませんが、生物多様性と言って、地球上にはいろいろな生物がいる、それが減るということはよくないということがあります。なぜよくないかというと、いろいろな生物がいることで実は非常に役に立っている。薬の多くは、微生物とか、いろいろな生物種の中から見つけてきたものであって、実験室や工場だけでつくったものではありません。生物多様性がないといろいろ有用なものも失われていくことになります。

 エビの場合、水産資源の収奪と先のマングローブ林破壊という、二つの問題があります。前者は海で起こる話で、水産資源の収奪というのは、要するに「乱獲」のことです。

 マングローブ林の破壊は、養殖によるものです。マングローブというのは、海と川の境目に汽水域と呼ばれるエリアがあり、そこに生えている木々です。海から芽が出てすごい木が生えているようなところで、養殖場に使われると破壊されてしまう。そういう問題です。

 マングローブ林が破壊されると、今度はもっと内陸、水田がエビの養殖場になってしまうことも起こっています。これもやはり環境上の問題を引き起こすということになります。

 以上は理屈としてはわかりやすいかもしれません。しかし、現状はどうなっているのか、よく見るべきであると思います。

 一つの結論を言います。貿易は発展途上国の環境によくないと言いましたが、では日本は輸入をやめよということになるのかというと、そんなに簡単ではありません。どうしてかということを、少し詳しく見ることによって考えてみたいと思います。


 1――世界の森林と木材貿易

 世界の森林の動きを見ると、毎年一〇〇〇万ヘクタール近く減っています。一〇〇〇万ヘクタールというのは、日本の本州ぐらいの面積だったと思います。先進国、温帯・冷帯地域ではそうでもなくて、ほとんどは発展途上国のある熱帯・亜熱帯で減っています。先進国は何とか植林をして、今は森林を減らさないでいます。ただ、心配なのはロシアで、今かなり商業伐採というか、違法なものも含めて森林伐採が相当進んでいるそうです。カナダは、森林の種類として、自然林が減ることが問題になっているようです。しかし先進国は総じて森林をあまり減らしていない。

 熱帯林が問題なわけです。実は商業伐採は、多くの議論の中ではあまり重要視されておらず、もっと重要なのは農地開発であると言われています。森林サイドから、破壊されている様子を見ると、第一の原因は農地開発である。二番目は、貿易のための木材の伐採ではなくて、そこに住んでいる人たちが燃料に使う薪ではないかという議論がなされているわけです。

 そうすると、日本が木材をたくさん買ってきて、発展途上国の環境に悪い影響を与えるのではないかという論理が、少し崩れてきます。発展途上国自身の事情であると。

 先ほどブンジット先生は、タイの東北地域で森林破壊があったけれども、それは農地をつくるためだとおっしゃいました。世界的に見てもそれが最も重要であると言われています。

図表 1
 最後に、森林サイドの話ですが、以上の話はしょせんこの何十年かのことである。歴史的に見るとどうか、知っておいてもいいとおもいます。一言で言うと、今問題になっている発展途上国での森林破壊は確かに問題だが、森林破壊が問題となっていないと言われる先進国は、今問題になっていないだけで、もうとうに森林破壊が終わって落ち着いたから、今減ってないだけであるということが、歴史としてはあるということです。

図表 2
 発展途上国の木材の生産量を見ると、薪炭材の生産量が非常に多く、産業用木材の生産量を上回っています(図表1)。図表2と図表3は中国とタイの数字ですが、このことがはっきりわかると思います。割りばしは大したことはないようですが、産業用材の八割は先進国でつくられています。二割が発展途上国ということです。木材は先進国で多くつくられていて、発展途上国では薪炭が多い。世界全体の産業用材と薪炭の生産量は、かなり前からあまり変わっておらず、平均では半々ぐらいです。世界の平均は半々だが、薪炭は発展途上国、産業用材の八割は先進国で生産されているということです。

図表 3
 次に、森林面積の変動要因について。森林減少の主な要因は農地開発であるということですが、統計的に見ても、森林の減少と木材の生産はあまり関係ないようです。しかし、薪炭の生産は少し関係があるようです。別の研究ではそんなことはないということで、そちらの研究のほうがはるかに立派そうなので、本当かもしれませんが、どうもはっきりしません。いずれにしても木材の輸入が森林を破壊する主な要因ではなくて、食糧生産に森林を切りかえるといったことが大きな要因になっていて、薪は地元の人たちが食物を煮炊きするために使うものです。産業用木材生産と薪炭材生産では、後者が重要であるということです。

 きょうはタイと中国の話があったので、数字を出します。中国については、言われたように砂漠化や森林破壊が問題になっていますが、木材生産は増えていて、燃料となる薪炭が生産量の半分をはるかに超える状況です。タイは、森林破壊が実はとまっていて、発展途上国と言ってもかなり所得水準が高くなっているわけです。しかし薪炭材の生産が非常に多いという数字が出ています。

図表 4
 日本は四〇年ぐらい前まで薪炭材をストーブ等にけっこう使っておりました。それがほとんどなくなって、木材の生産も減っています(図表4)。では日本は木材を使わなくなったのかというとそうではなくて、世界貿易量の一割を買ってきています。国内生産を減らして、外国から輸入する分がどんどん増えています。木材の自給率は二〇%ぐらいです。森林が成長する速度があって、成長した分だけ使っていれば、森林を減らさないで済みます。そうすると林業が長続きしますが、日本の場合は、増えた木材の量の三分の一しか使っていない。残りの三分の二は使っていなくて、
図表 5
外国から輸入しています。タイはもう森林破壊はかなりとまったといいましたが、林産物の生産と輸出入を見ると、一九九〇年頃から生産量は大きく減っています(図表5)。このころから、もう森林は減らさないと国民が強く考え、林産物はあまり生産されなくなった。それでどうなったかというと、結局輸入をふやしているわけです。自分の国の木は使わず、森を守るという方向に向かいましたが、外国から買ってきているということです。そういう意味では日本と同じです。

 統計は示していませんが、中国は木材の生産をふやしながら、輸入もたくさんしています。ものすごく輸入しています。日本より多いかもしれません。


 2――世界のエビ生産と国際貿易

 次はエビです。皆さんが何気なく食べているエビですが、主に発展途上国、熱帯・亜熱帯地域でつくられて、あるいは漁獲されて、消費するのは先進国というのが一般的な状況です。ぜいたく品で、金持ちが食べるということです。

 生産量は八四年から九七年にかけて年率一四%で成長しています。五年で倍のペースです。今は世界で一〇〇万トン近い生産量になっており、アジアで四分の三、南米で一割強がつくられています。そして、先にふれた養殖が三割を占めています。タイが最大の生産国で、もちろん漁獲もあるわけですが、マングローブ林を半分以上、エビだけではないでしょうが、水産養殖で破壊してしまった。そして、「内水面養殖」と言いますが、水田地域で今、農民ともめている事態が起こっています。

図表 6
 エビの消費国は、アメリカ、日本、EUという、金持ちの国ばかりです。かつてはアメリカより日本のほうが多かったのですが、日本は今景気が悪いので、わずかにアメリカに抜かれていると思います。エビはいろいろな形で輸入されていて、正確に何トンとは言えないのですが、日本は輸入と生産を合わせて三〇万トンぐらい消費しているようです。そうすると一人一日一〇グラム弱、小さいエビ一匹ぐらいの量ですか? 考えてみるとこれは大変な量です。

 日本のエビ輸入先は、インド、インドネシア、ベトナム、タイなど、環境的問題が心配になっている発展途上国が多いです(図表6)。中国からも輸入しています。インド、インドネシア、ベトナム、タイなどは世界の中でも主要なエビ生産国で、どの国も日本のマーケットにエビを売ってお金を稼ぐことを一生懸命やっています。


 3――国際貿易と発展途上国の環境破壊

 国際貿易が、途上国の環境破壊を助長する、その構図を描いてみましょう。

 第一に、WTOが自由貿易の枠組みが守られているかどうかを監視していて、ある意味では日本政府やアメリカ政府よりも偉い。それぐらい強い影響力をもって、変な関税をかけたりとか、市場を閉ざしたりとかしないように監視している。そういうシステムが現にあります。現状のシステムは一九九五年にできましたが、以前はGATTという協定の中で運営されていた。その中で既に林産物、エビの関税率は低かった。この二つについては自由な貿易の状態にほぼなっていたわけです。そういうことで冒頭述べた問題が起こる状況に既にあったわけです。

 第二に、これも貿易による環境破壊という構図の一つのポイントですが、貿易はともかくとして、なぜ途上国で環境破壊が起こるのか? それに関する説明ですが、不明確な所有権と不適切な政策ということがよく指摘されます。所有権とは、漁場で言えば、日本の近海ではどこかの漁協がある沿岸水域の漁業権を管理してくれるけれども、途上国ではそういったものがあまりない。あるいは充分に管理されない。そうするとだれが海に出て網を引いてもいいということであったり、森林にしても、だれが入っていって木を切って農地にしてもいいということになり、環境も破壊されるでしょうという話です。またそういった国では往々にして政府の政策がよくない。環境をよくする方向に向かっていない。逆だったりすると言われています。典型的なのは、インドネシアの丸太禁輸出措置です。これをやったことでどうなったかというのは、時間がないので省略します。

 一番のポイントは不明確な所有権だと思います。このため途上国は、環境負荷型の生産物に依存するようになるわけです。環境負荷型とは、海の水産資源を荒らすとか、木を切るとかです。そういった生産物にどうしても依存してしまう。原因は所有権がきちんとしていないからだというのが論点です。

 この観点からすると、何度もふれた「自由貿易が悪いから途上国の環境破壊が起こる」には疑問が生じます。環境破壊は途上国自身が起こしている。貿易は後からついてきているのではないかということになります。

 そうは言っても、実際に環境を破壊してできた物を多く買っているのは先進国で、当然多くの人たちがこのことについて反省しています。環境に悪影響を与える産品を買わないという運動が、ヨーロッパ、アメリカでわき起こっています。しかし、それでよいのかという話を、この後でまたしたいと思います。話が二転三転しているようですが、何となくでもついてきていただければと思います。

 先進国が輸入するのがよくないのであれば、それをコントロールすればいいということになりそうです。しかし、そういうことでいいのだろうか。貿易自由化が途上国の環境、地球環境を破壊しているのだから、先進国に輸入させないとか、悪いのはWTOだから、そんなものはつぶしてしまえという議論もあります。

 環境に悪い物を輸入制限する政策は、WTOのルールでは違反になります。WTOはこれを許しません。だからWTOをつぶさない限り、輸入制限はできないということです。実際にアメリカが環境に悪いものを輸入制限した政策は、WTOのもとで違反行為とされました。この場合、アメリカ政府よりもWTOのほうが偉いのか、ルール違反ということになってしまいました。

 輸入制限はよくないということで、もう少しマイルドな、資本主義的な考え方をする人が、市場メカニズムを使いましょうと提案しました。皆さん聞いたことがあると思いますが、エコマークとかグリーン購入などの認証制度が提案されていて、ヨーロッパ、アメリカでは随分大きな運動になっています。環境にやさしいと認められればロゴをつけて、特に強制はせず、消費者に任せる。ここがポイントです。これにより最終的な目的である途上国の環境をよくするのに役立てようという議論があります。勘違いしてほしくないのは、認証と言っても、

図表 7
消費者が食べたり使ったりして安全という意味ではありません。その品物は途上国の環境を破壊したものではないという意味です。自分の健康だけ考えているのではなくて、途上国の心配をしている、もう一つ言うと地球環境問題を心配しているということになります。

 ところが、非常に重要な点は、開発途上国からモノを買わないとどうなるのか。これは開発途上国の人が国際的な会議でしばしば言うことですが、「我々の最大の環境問題は貧困である」と言います。せっかくつくったエビや木材を、先進国がきれいなことを言って買わない。それでいいのだろうかという話に最後はなってくるわけです。

図表 8
 ブンジット先生のご報告で、東北タイの農民は貧しいから木を切って農地にしたという話がありましたが、そういう意味で言うと、まず貧しくなくなってもらわないことには始まらないわけだから、どうしていいかわからなくなるということです。

 これはよく言われるロジックで、環境を守るには、所得水準が上がらないとどうもだめみたいだ。環境を破壊した品物は買わないという対策には問題がありそうだということです。これをさらに敷衍すると話が混乱するので省略しますが、今の切り方でも何を考えていただきたいかということが伝わるかと思います。


 4――捕捉

図表 9
 タイの水産養殖とマングローブにふれます。

 タイは過去、マングローブ林を減らしましたが、最近は減っていません(図表7)。環境は上級財で、ある程度豊かになって社会が発展すれば何とかなるという話があります。

 それから、森林面積の増減と所得水準について(図表8)。横軸が国民所得=豊かさで、縦軸が森林の変化率です。豊かな国は森林を減らしていない。

図表 10
タイやインドネシアも豊かになれば、こちらの方(図表8右図の矢印方向)に入ってくるかもしれません。中国は特別で、大植林国です。

 次に、地域別森林面積割合をみましょう(図表9、10)。何を言いたいかというと、先進国は途上国の心配をしているわけですが、先進国自身とっくの昔に森林をつぶしてしまっているではないかということです。マレーシア、インドネシア、ブラジルなどは豊かな森林を持っているわけで、この国の人たちがそれを使って豊かになろう、所得を増やそうと思ったとき、それはだめだとだれが言えるだろうかということになると思います。

 以上で私の話を終わります。ありがとうございました。