シンポジウム◎食料関連産業と環境―アジアと日本

タイにおける食料関連産業と環境
東北地域の土壌劣化問題を中心に

 

ブンジット・ティタピワタナクン ・カセサート大学農業資源経済学研究室

 同僚のみなさま、先生方、そして学生のみなさん、こんにちは。

 今回は、私の研究報告の際に、同時通訳ではなく、逐次の区切りながらの通訳をつけていただくということですが、初めてこういった形で講演させていただきます。

 既に各統計表はみなさまに配付されております。ゆっくりと図表を説明しながら、報告を進めていきたいと思います。必要に応じて要約もしていきます。

 報告は基本的に三部構成です。

 まず第一部は、タイの農業部門の概要です。その中で、GDP、そして、基幹施設、また農業関連の加工業、土地、塩類化に関してお話をします。

 第二部は、私の研究所で行ないました調査研究の結果でありますけれども、トゥンクラロンハイ地域に関しての研究です。その地域の特性について、所得状況について、調査研究の結果を発表いたします。

 そして第三部は、環境対策に関して、特に塩類化による問題に対する政府の政策について、また、国王の新しい理論に関しての報告です。

 それでは、報告の第一部に入ります。


 1――タイ農業の概要

 タイの国家社会経済開発計画と言われている計画の概要でありますが、第一次計画は一九六〇年代に始まりました。その中で、第五次、第六次、第七次計画の各年代についてGDP成長率の比較をしたいと思っています。

図表 1

 さて図表1について、第五次、第六次、第七次における農業の占める生産部門別GDP成長率を見ますと、農業に関しては低下しています。そして、下から二段目、非農業部門を見ますと、第五次から第六次にかけて上昇し、そして第七次、九二年にかけて低下しております。しかし、成長率の水準自体は、農業部門よりも高くなっています。

 この三期間の平均を見ますと、農業部門の成長率の平均は三・八%、非農業部門の平均は九・一%、そしてGDP全体の平均を見ましても、わずか八・三%にとどまっています。ご存じのとおり、アジアの金融危機が発生したのは九七年末ですので、第六次、第七次のあたり、経済の構造変革の影響が一部出ておりまして、

図表 2
いくつかの部門は成長率が低下しているわけです。

 図表2は、産業別の総GDPに占める構成比を示しています。農業部門を見ますと、一九・〇一%から、わずか一一・四二%にまで低下しています。その一方で、非農業部門は八〇・九九%から八八・五八%まで上昇しています。

 タイの農業部門がどれだけ重要かということをお示しするために、農業部門と農業関連製造業の数字を足し合わせてみましょう。タイ経済におけるGDPへの農業関連の貢献度を見ますと、約三三%から二四%まで低下していることがわかります。しかし、最低でもまだ二四%を占めてい

図表 3
ると言えるのです。

 図表3をごらんください。

 農業部門のGDPを一〇〇としますと、そのうち六三%は作物部門です。これに含まれるのは、米、ゴム、キャッサバ、その他の作物です。

 作物部門以外では、畜産部門に関しては、第五次から第六次にかけて微増していますが、第七次にかけて減少しています。水産部門は、九・七%から一五・二七%と、大きく躍進しています。

 最後の段をごらんください。農産一次加工ですが、八・二%から約一二%へと伸びています。農業部門内の各部門においても、構造変化が幾分か起きているわけです。

 そして、作物部門をとっても、一部、構造変化が見られます。換金作物と言われる野菜や果実への移行が図られています。それでもなお農業の大部分、約六〇%は作物部門です。

 次に、図表4で、タイにおける人口と労働力につい

図表 4
て見てみましょう。

 総人口の中に占める農業人口は、タイにおいて六四%から六一%へと減少しています。そして、総労働力に占める農業関連の労働力も、六一%から五八%へと減少しています。そうは言いましても、この表を見る限り、タイの総人口に占める農業人口の割合、そして労働力全体に占める農業の割合という意味でも、農業はかなり大きな規模を占めているわけです。

 しかし、図表5で一人当たりのGDPを見ますと、農業関連産業と非農業を比べますと、

図表 5
農業における一人当たりのGDPのほうが少なくなっています。その下の農業、非農業の比率を見てください。第五次(八二〜八六年)においては、非農業の一人当たりの所得は、農業所得の八倍近くもありました。そしてさらに第七次(九二〜九六年)には約一三倍近くにまで伸びています。この数値は経済開発におけるターゲットとなります。農業部門、すなわち地方というのは、都市部、そして非農業部門に比べると、より貧困であるということが言えます。ここで明らかにしたいことは、タイにおいては依然として貧困の軽減のため
図表 6
の主要な方向性は地方の開発にあるということです。

 以上が第五次から第七次までの各計画の概要です。

 各年の平均数値は、図表6〜8でごらんいただけます。

図表 7
第八次計画の平均値もありますが、時間に限りがありますので割愛いたします。

 図表9をごらんください。こちらは基本インフラ関連の指標です。

 道路の総延長ですが、九五年には五一一二万六〇〇〇キロ

図表 8
であったものが、九八年には五一七六万二〇〇〇キロまで伸びました。そして、電力ですが、表の単位は千ギガワットになっています。これも九五年には八〇〇六万ギガワットだったのが、九八年には九六三三万ギガワットまで伸びています。現状ではタイのほぼすべての村に
図表 9
電力が通っています。

 それに対して、灌漑地面積はあまりふえていません。単位は百万ヘクタールですが、五五八万ヘクタールから、五六七万ヘクタールまでしか増えていません。ご覧いただく限り、非農業関連のインフラ整備のほうが進んでいるという傾向が見受けられます。

図表 10

 図表10は九七年の種類別食品工場数です。

 食料関連の企業の大部分は小規模な企業で、大企業はごくわずかです。大規模な食品工場のほとんどは、砂糖工場、あるいは水産物の缶詰工場です。

 次に資料は省略しますが、九四年に調査をした精米能力別の精米所の数を挙げます。五一馬力未満のところ、五一〜五〇〇馬力、五〇〇馬力以上の能力を持つ精米所に区分しています。総数は六万七〇〇〇カ所ほどあるわけですが、七八%近くは小規模な精米所です。そして、わずか五%のみが五〇〇馬力以上の能力を持つ大規模な精米所です。

 小規模な精米所の多く、総数の四七%は東北部に位置しています。東北部においては、稲作が最も重要な作物の一つなのです。

 それでは、土地の話に進む前に、以上の内容をまとめてみましょう。社会経済開発計画の概要です。

 第五次から第七次までの計画を比較してきました。GDPの成長率は、農業部門では三・八%、それに対して非農業部門では六・二三%の伸びを示しています。GDPに占める構成比で見ますと、農業の構成比は一九%から一一・四%へと下落しています。そして、農業と農産加工業のシェアを合わせてみますと、三三%から二四%へと下落しています。しかし、マクロ的に見たGDPに対する農業の貢献度でみる限り、農業は依然として非常に重要だということがわかります。

 次に、農業部門の中では依然として米がとても重要な役割を演じていますが、二九%から一九%へと下落しています。換金作物については、キャッサバ、サトウキビ、トウモロコシ類は一〇・三%から八・三%へと減少し、その一方で、野菜、果実、畜産、水産関連の構成比は伸びています。

 人口および労働力の構成比について、第七次においては、人口に占める農業人口の割合は六一%、農業労働力の占める割合は五八%でした。非農業の一人当たり所得は、農業の一人当たり所得の約八倍でしたが、第五次から第七次にかけて一三倍に伸びています。

 インフラの開発状況について、道路の総延長が非常に伸びました。発電能力も大幅に増大しましたが、灌漑面積はわずかしかふえていません。

 九七年の食品工場の状況ですが、ほとんどが零細な企業でした。精米所に関しても、大部分は零細な精米所であります。わずか五%のみが大規模な精米所で、ほとんどは東北部に位置しています。タイにおいて、米は非常に重要な作物、商品になっており、特に東北部においてはそうであるということがわかります。

 それでは、次のトピックに話を進めます。農業における栽培に不適切な土地について、八〇年から九二年にかけての数字をごらんください(図表省略)。

 農業に不適切な土地の総面積は、八〇年の三〇〇〇万ライから、九二年には三五〇〇万ライへと一九%増大しました。同期間における東北部のみの状況を見ますと、八〇年の一二〇〇万ライから七七%増大して、九二年には二一〇〇万ライへと、不適切な土地がふえました。

 東北部における重大な問題は、塩類化の問題です。九六年の調査によりますと、一五〇万ライが塩類化が最高レベルに進んだ土地でした。そして、中程度が三七〇万ライ、塩類化の度合いが低い土地が一二六〇万ライでした。総計一七八〇万ライです。それに加えまして、一九四〇万ライが潜在的に塩類化が進み得る土地です。

 次に、塩類化の進んだ土地の外観を示します(写真省略)。奥のほうは見事に実っております。そして手前のほう、白い斑点が見えるのが塩類です。上の写真は刈り入れ後の土地ですが、非常に乾燥していて、白く塩類が見えます。

 東北部における塩類化の問題の主要原因は三つに大別できます。第一は地下の岩塩です。そして、東北部における塩の生産も一因になっています。そして、最も重大な原因は森林破壊です。以上の三点がタイ東北部における塩類化の主な原因です。

 

 2――土壌塩類化問題

    トゥンクラロンハイの調査結果から

 それでは第二部、トゥンクラロンハイ地区の調査に移りたいと思います。

図表 11

 トゥンクラロンハイの位置関係を示しましょう。これがタイ(図表11:タイ全土とトゥンクラロンハイ地域)ですが、四つの地域に分かれています。こちらの地区(右上)が東北部です。アヒルの頭のような形をしているところがトゥンクラロンハイ地域です。五つの県にまたがります。総面積は三三万ヘクタールです。

 この地域の特性をお話ししますと、まず非常に乾期が長いことで、干ばつの問題に見舞われています。そして、暑い時期にはとても高温になります。雨期になりますと、今度は洪水です。そして、ほとんどの土地は肥沃ではなく、塩類化の進んだ土地が多いです。こうした原因から、農業生産に制約が課されているわけです。一人当たりの所得もとても低くなっています。

 あまり時間がございませんので、図表12〜15を概観しながら、用意した総括をお話ししたいと思います。

 図表12は、トゥンクラロンハイ地域の概要です。

図表 12
 九七年の一人当たり所得は、最低の地区は米ドルにして五二〇ドル、最高の地区は五七七ドルでした。これを全国レベルで順位付けてみますと、最高でも六六位、最低の地域は七四位でした。

 図表13で、九八年から九九年の一世帯当たりの所得を見てみますと、

図表 13
農家の所得は二万六五三二バーツでした。それに対して非農業世帯の所得は四万三七九四バーツで、総所得のうち非農業世帯の所得が六二%以上を占めています(二〇〇二年一一月時点、一バーツは約二・九円)。

 農業世帯の所得の内訳を見ますと、六〇%は作物の生産によるものです。畜産の所得は二八%、残りはわずか一二%です。東北地域は土地の状況が非常に悪いということです。

 図表14は、トゥンクラロンハイ地域に関する全般的な情報です。

図表 14

 世帯主の平均年齢は四二歳から五五歳で、塩類化が進んだ地域では、傾向として世帯主が高齢化しています。教育水準に関しても、塩類化の進んでいる地域で低くなっています。一世帯当たりの人数は、四人から六人です。タイのほかの三つの地域と比べても、さほど違いはありません。家族内の労働力ですが、専従で働いている人は二人から三人です。臨時雇用は、〇・一三人から一人です。農耕に従事していない家族の人数は、〇・二五人から三・七五人です。塩類化の進んでいる地域においては、農耕に従事していない家族の割合が高くなっています。

 非農業所得の平均ですが、とても大きな金額になっています。四〇〇〇から九万一〇〇〇と幅があります。これだけ幅があるのは、各地域において雇用機会にばらつきがあるからです。

 次に図表15は、所有している土地の面積です。八ライから三七ライとばらつきがあります。所有の形式は、ほとんど農家自身の所有です。水利用は、ほとんどが天水、あるいは小さな河川の水です。

 図表16。作付面積の八九%から一〇〇%が依然として稲作です。

図表 15

 図表17は米の収量です。一ライ当たり何キロのイネが収穫できるのかということですが、一三三から三八五キロと幅があります。塩類化の進んだ土地においては相対的に収量が低くなっていて、一ライ当たり一三三から二七六キロです。

 肥料の使用量は、一ライ当たり二四・九キロから九六・四七キロまで幅があります。塩類化の進んでいる土地においては、肥料の使用量は一ライ当たり二四・九キロから四〇・四キロと、少ない傾向があります。

図表 16
 稲作における一ライ当たりの家族労働力の投入を見ますと、世帯労働力は最低でも二・〇六人/ライ、最高で八・三二人/ライ投入されています。塩類化の進んでいる土地においては、世帯の労働力をより多く投入しているようです。

 それでは、塩類化の事実に関してまとめてみましょう。

図表 17

 塩類化の進んでいる地域においては、世帯主はほとんど高齢化しています。教育水準は低いです。農耕における世帯労働力の不参加傾向が高くなっています。すなわち農業以外の労働に従事しているということです。ほかの地域と比べますと、一ライ当たりの稲の収量は低くなっています。それから、一ライ当たりの肥料の使用量も少なくなっています。世帯労働力に対する依存度が高くなっています。

 以上が塩類化の進んでいる地域のまとめであります。

 そろそろ持ち時間が終わってしまうと思います。申しわけありませんが、最後の部分に話を進めます。

 

 3――政府による塩類化対策と国王の新理論

 政府は以上のような状況を認識しまして、植林政策を推進するよう努めています。アフリカ原産の種で、非常に頑丈な植物でありまして、塩類化の進んだ土地でも成育できます。そして、土地をより肥沃なものにしてくれます。政府の政策は基本的に土地に適した作物を栽培することを推進し、また、栄養分を増大させるということです。

 先ほどもお話ししましたが、塩類化の一つの原因は森林破壊です。貧困な農家が森に出かけて、森林を伐採し、そこで換金作物を栽培しようというのが、森林破壊の主因になっています。こうした森林破壊を防止するためには、貧困な農家が自給化を図れるような、そして所得を得られるような方策を講じる必要があります。

 九七年に金融危機が発生して、その後タイ国王が新しい理論を提案しました。基本的に零細な農家の活動を二つから四つの活動に分割しようという考えです。

 零細な農家が持っている土地を四分割しようという場合、三割程度を稲作に、別の三割は貯水池に当てます。そこにはアヒルなどが飼育されています。この池の水は灌漑に使うこともできますし、魚の養殖をすることもできます。別の三割は園芸・果物・果樹の栽培に当てます。バナナ、マンゴーなどです。基本的に木を栽培するということです。そして、残りの一割は住居に当てます。この住居面積を活用して、畜産をすることもできます。鶏、豚、牛の飼育もできます。

 稲作をした後で魚の養殖をして、畜産をして、それから果樹園の手入れもしなければいけないということで、毎日忙しく仕事ができるわけです。こうすることによって、各農家が自給用の米を収穫することができますし、魚も養殖することができる、鴨も食べられる。畜産した家畜は売却できますし、果物もあるということで、よそから買ってくる必要がなくなります。こうすることによって農家が完全雇用され、所得を創出できます。森林を破壊することなく、木々も育っていくわけです。こちらはモデル農家の絵です(省略)。

 以上をもちまして、私の発表を終わらせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。