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特集1 調査報告 タイの環境問題 ◎地域環境研究グループ・編


A社玄関のレリーフ
フタバガキ科の若樹
 われわれが本年度に対象地域として選定したタイにおいては、熱帯地域に共通する問題である森林・マングローブ林の破壊という地球的規模でとらえるべき問題に加え、近年の経済成長および都市化に伴うあらゆる種類の公害・環境汚染も顕在化している。
 また、近年めざましい経済成長を遂げてきたタイは、同時にアジアでも屈指の農業国であり、輸出指向性の高い農業とアグリビジネスの活動も活発である。タイ農業と環境との注目すべき接点としては、化学肥料や農薬の使用による環境汚染と森林破壊、さらに地下水の摂取による土壌の塩類化があげられる。本特集ではアグリビジネスによる環境保全への取り組み、森林破壊の状況およびNPOによる持続的農業と森林再生への試みについて、関連する資料等の整理も交えながら報告する。

特集1◎地域環境研究グループ

調査報告 タイの環境問題 アグロインダストリーをめぐって

小林弘明・本学経済学部助教授  高木 要・本学共通教養非常勤講師
内田正夫・本学総合文化研究所助手  三浦郷子・本学経済学部教授

はじめに

 本研究グループでは、比較的限定された地域での環境問題、自然、企業活動、消費生活、生活スタイル、農業、環境政策、環境教育などに焦点をあて、さまざまな地域における持続可能性を追求する取り組みの実態を捉え、今後の方向を示唆すべく調査・研究を行なってきたところである[*1]
 地球規模での環境問題がクローズアップされる一方、局地的な大気汚染や土壌・水質の汚染など地域に根ざした公害問題が決して解決されたわけではなく、わが国以外のアジア諸国においては、問題がより深刻である。われわれが本年度に対象地域として選定したタイにおいては、熱帯地域に共通する問題である森林・マングローブ林の破壊という地球的規模で捉えるべき問題に加え、近年の経済成長および都市化に伴うあらゆる種類の公害・環境汚染も顕在化している。

図表0-1 タイ国概況
 また、近年めざましい経済成長を遂げてきたタイは、同時にアジアでも屈指の農業国であり、輸出指向性の高い農業とアグリビジネスの活動も活発である。このため、農業および食品加工・農産加工部門が環境問題と直面する度合は、わが国などに比較して格段に高い。タピオカ澱粉生産者と乳業会社を対象として実施した本年度の調査は、このようなタイの特徴に着目したものである(「2・事例一・タイのキャッサバとタピオカ澱粉工場における環境保全への取り組み」および「3・事例二・タイの牛乳・乳製品市場と酪農業」)。
 タイ農業と環境との注目すべき接点としては、化学肥料や農薬の使用による環境汚染と森林破壊、さらに地下水の摂取による土壌の塩類化(農業自身がダメージを受ける)があげられる。第三の調査対象は、持続可能性の高い農業と森林の再生に独自の取り組みを行なっているNPOである(「4・事例三・NPOによる持続的農業と森林再生への試み」)。
 森林の再生は、タイ国自身にとっても重要な政策課題とされている。今回のわれわれの調査では、右のNPOによるもの以外、現地の取り組みについて調査することはできなかったが、カセサート大学において専門の研究者から情報の提供を受けた。森林破壊の実態を、統計資料を整理することでサーベーするとともに、そこで得られた若干の知見を示すこととする(「5・タイの森林破壊と再植林事業の展開について」)。
 本特集では以上三つの事例と森林破壊の状況について、関連する資料等の整理も交えながら報告するが、事例の紹介に先立ち、まず「1・タイの環境問題」において、既存の研究成果、調査報告および新聞記事などを参照することで、主に右の点に関する現下の問題点を概観することとする。
 なお本年度の調査においては、タイにおいて多くの方々のご協力を得ている。訪問地の選定・連絡調整をはじめ、一般的な状況について懇切なご教示をいただき、さらに通訳までしていただいたカセサート大学ブーンジット=ティタピワタナクン博士のご協力は絶大であった。ヒアリングに応じていただき貴重な資料・情報を提供してくださった左記の方々に執筆者一同深甚なる謝意を表するものである(カタカナ表記のため原語を十分に反映していないことをお断りしておく)。


執筆担当
小林 弘明(こばやし・ひろあき) 1、2-一、3および編集を担当。
高木 要(たかぎ・かなめ) 2-二を担当。
内田 正夫(うちだ・まさお) 4を担当。
三浦 郷子(みうら・きょうこ) 5を担当。

[*1] 本研究グループ(持田恵三、小林弘明、三浦郷子)「特集1:環境と農業・都市」(『東西南北2001』和光大学総合文化研究所年報、41~80頁)、内田正夫「ネパールの環境問題」(和光大学総合文化研究所『ネパールの生活・教育と未来』1999年)、岡本喜裕「環境保全とエコビジネス」(和光大学経済学部『和光経済』32巻2・3合併号、2000年)、岡本喜裕「環境志向のマーケティング――環境にやさしい(環境負荷の少ない)製品開発を中心に」(『明大商学論叢』第82巻第1号、2000年、1~25頁)など。


1 タイの環境問題 アグロインダストリーによる環境汚染と森林破壊

 近年の経済成長と都市化に伴って、タイではあらゆる種類の公害・環境汚染の問題が顕在化している[*1]。その現状に関して、包括的かつ明快な解説は、『アジア環境白書』のマニカマル・磯野[7]で与えられている。また、オコンナー[1]は、タイ、インドネシアなどを含む東アジア地域が近年の経済成長の中で経験した環境問題とその対策に関して鳥瞰した著名な書であり、同様に環境経済・政策学会の一九九八年度の年報[2]でも「アジアの環境問題」が特集されている[*2]

図表1-1 『アジア環境白書』
各国編「タイ」の目次より
 図表1-1では、タイで顕在化している問題をノミネートする意味で、マニカマル・磯野[7]の標題だけを一覧表にした。紹介されている問題のほとんどは、わが国など先進諸国と共通しているが、アグロインダストリー(農水産業および食品工業などの農水産物加工)による環境汚染問題がやや突出した位置を占めていそうなこと、地球的問題である森林破壊が取り上げられていること、「貧困」の二文字、政府の役割に問題がありそうなこと、などが特徴として指摘できよう。これらは近年経済成長を遂げつつある多くの熱帯・亜熱帯諸国でも共通した特徴であると考えられる。なお、マニカマル・磯野[7]は、石炭火力発電所建設に関わる問題、エビの内水面養殖の問題および国家環境保護法の改正を巡る動向の三点を中心に、森[11]でアップデートされている。
 タイでは、毎年多くの地域が深刻な洪水の被害に見舞われている。アグロインダストリーがもたらした環境破壊として最も重要で、かつ最も古いのは、森林破壊である。北部のチーク材を目的とした大規模な商業伐採は一九世紀にさかのぼり、その後も主として農地開発やダム建設などにより、タイは多くの森林を失ってきた。日本語ないし英語の文献としても、タイの植林・森林再生計画を含め、この分野には多数の蓄積がある(末尾の文献[3][14][16][17][19][20][21]など)。多くの研究が、森林破壊の歴史や現状、さらには森林破壊をもたらす経済的な要因を分析している。
 タイに固有の土地制度ないしは慣習も、無秩序な農地開発をもたらす一つの背景になってきたものと考えられる。すなわち形式上は国有地である無主地を開墾し、占有・利用することが万人に認められていたという歴史的な背景である(末廣[5]およびランガ[13]参照)。いまひとつ指摘しておきたいことは、増加する人口と経済活動水準の拡大に伴って高まってきた土地利用圧力を、ただ政治的に押さえつけることが、国家としての選択肢としてそもそも妥当ではなかったであろうということがある。現在に至るまで多数を占める農民は、相対的に低所得の状況にあり、タイの農業は近年に至るまで主要な外貨の稼ぎ手である。貧困に甘んじて自然を守るという選択をすることは容易ではない。これらは、一方で再三にわたり実施されてきた森林保全政策が、なかなか実効性を持ち得なかった背景であると考えられる。
 とはいえ、開発可能な森林自体が減少したこともあり、森林消失のテンポは近年になり落ち着きを見せ、政府やNGOの主導による森林再生への動きも活発になってきている。
 タイの森林をめぐる右のような状況については、5 においてあらためて論ずることにする。
図表1-2 養殖漁業
生産量の推移
 なお、日本人とも縁の深い問題としては、エビ養殖事業によるマングローブ林破壊の話が有名である[*3]。しかし、森[11]でも取り扱われているように、タイのエビ養殖に伴う環境汚染は既に第二の段階を迎えている。つまり、図表1-2に見るように、マングローブ林を破壊することで拡大した海岸養殖業は、近年むしろ減少する傾向にあり、替わって増加しているのが、おもに既存の水田地域に立地する内水面養殖である。塩類、汚水、抗生物質などが漏出して周囲の土壌を汚染し、水稲作等にも悪影響を及ぼすおそれが指摘されている[*4]。限りなく淡水に近い水で養殖するなど、適切な管理を行なうことで周囲の農業生産への悪影響は回避できるという調査結果がある一方で、その調査結果自体を疑う声もある[*5]
図表1-3 主要河川の
BOD値
これらの状況については、バンコクポスト紙[15]にも多数の記事が掲載されてきた。行政面での状況としては、水産サイドは、エビの内水面養殖を推進しつつその調査結果を支持しているようであるが、農業サイドは、養殖業の拡大を明らかに危惧しているようであり、本当のところは、成り行きを見守るしかないようである。
 図表1-3は、近年における主要河川の汚染状況を、BOD値により見たものである[*6]。北部からバンコク首都圏を通って海に注ぐチャオプラヤ川をはじめ、中部地域の河川のBOD値が比較的高く、また、北部など一部の地方河川でも、一九九九年において若干高いBOD値が記録されていることも指摘できよう[*7]。海洋の汚染も多数報道されている。主要河川の汚染状況に関する図表1-3の全般的な傾向を見ると、生活系による汚染が類推されるが、アグロインダストリーによる汚染も重要視されている。
 マニカマル・磯野[7]は、主要な問題点を(1)未処理の生活排水、(2)工場排水、(3)農畜産業およびエビ養殖業、の三点に整理して論じている。(2)については、精糖、魚醤油生産をはじめアグロインダストリーによる環境負荷の高さが指摘されている[*8]。いずれも大量の水を利用し、かつ排出するという特徴を持つ。
 農畜産業による水質汚染で重要なのは、化学肥料、特に有機塩素系の農薬、および家畜排泄物である。(2)の工場排水によるものは、「点源」と呼ばれ、汚染源の特定できる性質を持つのに対して、農畜産業による汚染は、(1)の生活排水やエビの養殖などと同様、一般に汚染源の特定しにくい性質を持ち(非点源と呼ばれる)、規制を困難にする。
図表1-4 化学肥料
使用量の推移
図表1-5 農薬
輸入量の推移
 図表1-4~図表1-6は、これら潜在的な汚染源に関する動向を示したものである。
 まず化学肥料の使用量を見ると、タイがめざましい経済発展を遂げた最近一〇年程度の間に、三倍近くに増加していることがわかる。農地面積はこの間ほとんど増加していないので、面積あたりで見た投入量もほぼ同様に増加していることになる。FAOの統計により国際比較を行なっても、一九八〇年当時には一ヘクタール当たり約一五キログラムと、世界の平均水準を下回っていたのが、近年では八〇キログラムを超え、世界平均の三倍、西ヨーロッパ平均の七〇%程度の水準に達している[*9]。農薬使用量も近年大幅に増加したことが示唆されている。農薬による環境被害の可能性を評価する上では、単に量的な面だけではなく、有機塩素系のものがどれほど使われているかなど、質的な面が重要である。農民の血液検査を行ない、健康被害の可能性を指摘する調査もあり[*10]、今後検討すべき問題は多そうである。
 次に家畜頭羽数の推移を見ると、最も増加が著しいのはブロイラーおよび乳用牛で、最近一〇年間だけでもそれぞれ二倍以上に増加し、養豚の飼養頭数も五割近く増加している。ただし生産規模でいえば、酪農部門が最も小さい。それぞれ経済成長に伴う需要増加に支えられたものだが、ブロイラーについては、タイは、年間二〇万トン以上をわが国などに輸出するほどの基幹産業となっている。在来牛の飼養頭数も増加しているが、その分水牛の飼養頭数は減少しており、「肉用」部門としてみれば、ほとんど成長していないものと思われる。
 成長を続ける畜産部門からは、大量の家畜排泄物がでてくるわけだから、それが適切に処理されない場合には、悪臭問題とともに、水質に対する汚染負荷を高めることが懸念される。例として、最近の新聞記事をみても、大規模な養豚業の立地が河川を汚染する主要な原因とされている事例が幾度か報道されている。これは、中部平原を流れるバンパコンという河川が、ダムの建設に伴い著しく汚染された問題である。直接の原因はダムが水流を止めたことにあるが、汚染物質の排出源として、養豚業が最も主要なものであるという[*11]
図表1-6 家畜飼養
頭羽数の推移
 一方、家畜排泄物による環境負荷を和らげるバイオガスシステムの導入が積極的に進められている[*12]。これは、農家単位に設置し、煮炊きのための燃料、熱源、電源などとして活用しようとするもので、規模が小さく、かつ導入しやすいような廉価なものである[*13]。これは一九七〇~八〇年頃の石油危機の際に代替エネルギー開発の一手段として進められた面がある。しかしより現代的な位置づけとして、代替エネルギー開発と環境負荷の低減の一石二鳥を図る有望な分野としての重要性が高まっているものと思われる。また熱帯に位置するタイは、地球温暖化による影響を最も受けやすいと見られており、この問題に対するタイ国政府の意識は高く、国連気候変動枠組み条約にも一九九三年に加盟している。畜産廃棄物や農産物の残渣を利用したバイオガスシステムの将来性が期待されるところである。
 タイは熱帯モンスーン地域に位置し、雨季と乾季が明確である。このため経済活動のための水の供給は、一年を通じて常に潤沢というわけではない。内陸部は広大であり、河川を利用した灌漑水が利用できる地域も限られている。特に灌漑水に関する、アグロインダストリーを含む産業間の調整は、タイ国政府にとって大きな課題となっている。そのような中、内陸の低い高原に位置し、特に降水量の少ない東北部では、農業などのための地下水の汲み上げによる土壌劣化=塩類化が多数の地域で発生している。長期的なビジョンに立つ持続可能な農業生産の確立が望まれる、と言いたいところではあるが、この「持続可能性」がおうおうにして生産水準の低下を意味することも認識しなければならない。東北タイは、経済発展から取り残されたタイの中では最も貧困な地域であることも考慮すれば、問題を解決するためには一層の困難が予想される。
 以上で、タイにおける環境問題を、アグロインダストリーとの関連から概観した。次節以降で示される事例は、ここで概観した諸問題のうちいくつかの側面を捉えたものである。しかし本研究プロジェクトはいまだ緒についたばかりである。より広い視野から見た同国の環境問題の現状を理解し、問題解決のために何が求められるのか、またわが国など「公害」先進諸国の経験が生かされる道があるのか、そのような可能性を探るための端緒となることを願っている。



[*1] わが国などでは重大な環境問題であって、タイにおいてそれが顕在化していない主要なものは、おそらく核廃棄物問題くらいであろう。しかし、タイは2006年頃以降における原発導入の意向で、アメリカの技術による実験炉の運転が現在計画中であるという。また廃棄された医療機器の不適切な取り扱いによる不幸な放射能汚染事故も報道されている。
[*2] これらを含む本節で取り上げる文献等は、「文献等リスト」として一括して末尾に掲げる。
[*3] 村井吉敬『エビと日本人』(岩波新書、1988年)、末廣[6]など参照。
[*4] 農業経済局の関係者によると、一度汚染された水田では、長期間にわたって水稲作が不可能になるということである。
[*5] タイでは、1992年の環境法により、さまざまな事業に関する環境影響の評価が義務づけられている。わが国が環境影響評価を正式に立法化したのは1997年である。
[*6] BODとは水質汚染の程度を測る尺度で、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand)のこと。
[*7] 比較の対象として、平成10年度におけるわが国における河川のBOD値を見ると、多くの地方河川で1.0前後、隅田川、淀川、鶴見川(神奈川)で、それぞれ2.5、1.7、7.6である(単位は図表1-3と同様、1リットル当たりミリグラム、平成12年版環境白書参照)。
[*8] その他にも環境負荷が高いと思われる業種は多数ある。例えば、ナコンラチャシーマ県のラムタコンというため池の水質汚染を調査した例では、主要な汚染源として、養豚業とならび、サバ加工場、製麺工場があげられ、食品加工ではないが、青果物市場も指摘されている。バンコクポスト紙、1998年11月24日付け。
[*9] FAO,FAOSTAT, www.fao. org, 2002年1月ダウンロード。
[*10] バンコクポスト紙1997年6月27日付で、全国四六万人の農民を対象とした調査が紹介されている(96年に実施。調査報告書は入手していない)。また、別の水質調査では全国の60余カ所でDDTが検出されたという。
[*11] バンコクポスト紙、2001年10月21日付け、1月25日付け、2000年4月11日付け、1999年4月4日付けなど。1999年の数値を示す図表1-3では、バンパコン川のBOD値はそれほど高くない。ここで述べている問題が発生したのは、2000年になってからである。
[*12] バイオガスシステムとは、有機物を嫌気性発酵させメタンなど有用な燃料ガスを発生させ、それを利用するもの。
[*13] 参考文献[16]およびバンコクポスト紙2001年8月20日付けなど参照。同2000年1月23日付けによると、養豚農家用のバイオガスプラントの価格は、年間5トンの薪に相当する8立方メートルで約300米ドル、16立方メートルで約500米ドル、また、農家が導入した場合の建設費用は政府により半額近くが補助されるという。


《文献等リスト》
[1]デビッド・オコンナー『東アジアの環境問題 「奇跡」の裏側』(寺西俊一、吉田文和、大島堅一訳、東洋経済新報社、1996年、原著は O'Connor, David, Managing the Environment with Rapid Industrialisation: Lessons from the East Asian Experiences, OECD, 1994)。
[2]環境経済・政策学会編『アジアの環境問題』(東洋経済新報社、1998年9月)。
[3]小池未恵・川島博之・大賀圭治「タイの土地利用変化――1960年から1995年までの変遷の要因」(2001年度日本農業経済学会個別報告)。
[4]滋賀大学・森晶寿先生研究室ホームページ、 www.biwako. shiga-u.ac.jp。教材である「タイのエビ養殖の環境への影響と課題」、「工業化と環境問題」、「一般廃棄物(都市ゴミ問題)」、「環境管理システムとその課題」の諸論文が公開されている。
[5]末廣昭「タイの農地改革――1975年農地改革法の背景と概要」(滝川勉編『東南アジア農村社会構造の変動』アジア経済研究所、研究参考資料289号、1980年)129~161頁。
[6]末廣昭『タイ 開発と民主主義』(岩波新書298、1993年)。タイの現代史をコンパクトにまとめた書。
[7]スンニ・マニカマル、磯野弥生「タイ」(日本環境会議「アジア環境白書」編集委員会『アジア環境白書 1997/98』、第Ⅱ部各国編第三章、東洋経済新報社、1997年12月、139~163頁)。
[8]西平重喜・小島麗逸・岡本英雄・藤崎成昭編『発展途上国の環境意識:中国、タイの事例』アジア経済研究所、1997年。両国民の環境意識に関するアンケート調査。
[9]林幸博「タイ国北部の、焼畑から常畑への移行過程における、農業生態と村落社会の変容」(廣瀬昌平編『アジアの食料と環境を考える』第一章、龍渓書舎、1997年)。焼畑の伝統をもつ山岳民族・モン族と移住民との利害関係を現地調査した論文。
[10]船津鶴代「環境政策――環境の政治と住民参加」(末廣昭・東茂樹編『タイの経済政策――制度・組織・アクター』アジア経済研究所研究双書502、第七章、2000年1月)307~341頁。環境政策が進められた政治的な過程について詳細に分析した論文。
[11]森晶寿「タイ」(日本環境会議「アジア環境白書」編集委員会『アジア環境白書 2000/01』東洋経済新報社、2000年11月。第四章「七ヵ国・地域、その後」)229~235頁。
[12]山本博史『アジアの工業化と農業・食糧・環境』筑波書房、1999年。耕地面積・森林面積の動態、アグリビジネスの動向など、主として農業・農協がテーマ。
[13]R・ランガ「タイ国土地制度史」(野中耕一・末廣昭編訳『タイ村落経済史』井村文化事業社発行・勁草書房発売、1987年)167~248頁。
[14]Apichai Puntasen, Somboon Siriprachai, and Chaiyuth Punyasawatsut, "The Political Economy of Eucalyptus: Business, Bureaucracy, and the Thai Government", Asia's Environmental Crisis, Michael C. Howard, ed., Westview Press, 1993, pp. 155-167. 森林再生の一環であるユーカリ樹植林事業の導入過程および問題点を分析。
[15]Bangkok Post : www.bangkokpost.com/(バンコクポスト紙ホームページ)。
[16]Country Report and Thailand: Environmental Issues by the Energy Information Administration, USA, last modified March 11, 2001, www.eia.doe.gov/
[17]Chudchawan Sutthisrisinn and Adisorn Noochdumrong from Royal Forest Department, Country Report-Thailand, Asia-Pacific Forestry Sector Outlook Study, FAO, Working Paper No: APFSOS/WP/46, December 1998.
[18]Maurine Cropper, et al., Roads, Population Pressures and Deforestation in Thailand, 1976-1989, World Bank Oct. 16, 1996.
[19]Office of Environmental Policy and Planning (OEPP), Ministry of Science, Technology and Environment, Thailand, Thailand State of the Environment Report, various issues, www.oepp.go.th。タイの「環境白書」である。
[20]Olavi Luukkanen, "The Vanishing and Reappearing Tropical Forest: Forest Management and Land Use in Thailand", Encountering the Past in Nature: Essays in Environmental History, Revised Edition, Timo Myllyntaus and Mikko Saikku, eds., Foreward by Alfred W. Crosby, Ohio University Press, Athens, 2001, pp. 74-93.
[21]Royal Forest Department, History of Royal Forest Department and Thailand National Forestry Policy, www.forest.go.th
[22]Suntaree Komin, "A Social Analysis of the Environmental Problems in Thailand", Asia's Environmental Crisis, Michael C. Howard, ed., 1993, Westview Press, pp. 257-274. タイの環境問題に関する概説。



2 事例 一 タイのキャッサバとタピオカ澱粉工場における環境保全への取り組み

一 キャッサバとその加工を巡る概況

図表2-1 世界とタイの
キャッサバ生産動向
 近年における世界のキャッサバ生産量1億6000万トンに対して、タイはその約一割、1,600~1,800万トンを占める一大生産国である(図表2-1)。キャッサバとは、中南米原産の熱帯低木で、澱粉質の根は巨大なイモとなり、食用および飼料用として生産される。やせた土地、乾燥した土地でもよく育つことから、将来的にも途上国の貴重なカロリー源として位置づけられている。タイで生産されているのは、苦味種と呼ばれる飼料用の品種で、食用になる甘味種はほとんど生産されていない。これは、タイのキャッサバが、輸出飼料用の典型的な換金作物として成長してきたことを示している。親指大に破砕して乾燥させた「チップ」や直径約二センチで短い乾電池状の練り物風にした「ペレット」として国内で加工され、飼料として輸出される。主な輸出形態はペレット、主な輸出先はEUである[*1]
 タイのキャッサバ生産が急拡大したのは一九七〇年代から八〇年代にかけてである。全国の約六割の生産を担っているのが東北タイである。同地域は、農業生産にとっての気象的条件に恵まれず、タイの中では最も所得水準が低く、かつ森林破壊が最も進んだ地域として知られている。
 同期間にタイで消失した森林面積は1,000万ヘクタール弱と見られるのに対して、キャッサバの収穫面積はこの間150万ヘクタールほど増加した。森林喪失の最大の要因が農水産業によるものとされる中、キャッサバが主要な作物の一つであることは明らかである[*2]
 飼料用キャッサバ生産を巡る経済環境は、一九九〇年代に入り大きく変わった。先進各国での農政改革が進む中、一九九二年に始まるEUのCAP改革は、同地域内の穀物支持価格を引き下げ、キャッサバの市場競争力を著しく失わせる結果となった[*3]。タイのキャッサバにとっては大きな打撃である。このため、かつては500~700万トンを誇ったEU向け輸出量は、近年では300万トン台に減少し、八九年には2,400万トンに達した生産量も、近年の1,800万トン前後にまで減少した。
 以上のような状況の中、将来性のある部門として注目されているのが、キャッサバによる澱粉―タピオカ澱粉である(マニオカなどとも呼ばれる)。澱粉は、異性化糖原料を含め食料用として利用されるだけではなく、製紙用、薬品原料などとして、非食料用でも多様な用途を持つ。より多くの所得・付加価値を国内にもたらすことはいうまでもない[*4]。また国内澱粉市場を高い国境障壁により保護してきた日本など先進諸国の貿易政策は、一九九四年のWTO協定を機に徐々に自由化へと方向を変えつつある。さらに今後の経済成長を見込めば、製紙用等工業用途での国内需要も堅調に推移することが展望されている。
図表2-2 タイによる
キャッサバ澱粉の輸出動向
 タイは最大のキャッサバ澱粉生産国である。年間生産量は200万トンを超え、生産量の半数近くを占めるといわれる輸出も、一九八〇年代から近年にかけて急成長を遂げた[*5](図表2-2)。産業としての近代化も進展していると見られ、一九七四年に一〇〇近くあった工場は、九〇年代おわり頃までに五〇工場程度に減少している[*6]。飼料用需要の不調も加わり、澱粉への加工仕向は年々拡大しており、次に紹介するA社でのヒアリングによると、二〇〇〇年におけるタイのキャッサバの仕向別シェアは、飼料用約800万トン、澱粉加工用約1,000万トン(澱粉換算では約240万トン)と、ついにその地位を逆転させたという。ちなみにわが国の澱粉生産量は約300万トンで、原料の過半は輸入トウモロコシである。
 澱粉のように比較的高次の加工部門が拡大することによって、タイの「キャッサバ産業」は、その川上から川下までの総体としてみて、環境問題との接点をより一層配慮しなければならなくなっている。
 川上にあたる原料生産部門=農業については、それが過去において大規模な森林破壊をもたらしたことは先に述べたところである。しかし近年の傾向としては、キャッサバの収穫面積はむしろ減少している(図表2-1)。これは主に農業内部での作物の転換によるもので、キャッサバを生産していた農地が森林に復したというわけではない。今後の方向性を考える上では、単に一種類の作物としてではなく、全体としての農業ないしは土地利用のあり方として考えるべき問題であろう。また、有機塩素系農薬や化学肥料による環境汚染という観点でいえば、キャッサバは最も粗放的な作物として知られているので、他のより収益性の高い作物に比較して、それがもたらす汚染の程度は相対的に低いと思われる[*7]。さらにキャッサバは乾燥に強い作物として栽培されており、灌漑水を利用する生産はほとんど行なわれていない。
 「キャッサバ産業」と環境問題との関連を考える上で、今後において重要なのは最も川下に位置する澱粉生産部門であろう。1 で述べたように、特に水質汚染問題において、農産物加工などいわゆる「アグロインダストリー」が、タイにおいて主要な汚染源の一つになっているのが現状である。次項で説明するようなキャッサバ澱粉の加工工程から明らかなように、澱粉生産部門が成長し、ますますそのウエートを高めているという現在の傾向が続くならば、当該部門も環境汚染という点で、精糖業、精米業、魚醤油生産業など先行する部門の仲間入りをするおそれは十分にある。なお、キャッサバの飼料用への加工とは、基本的に破砕して乾燥(ほとんど天日)するという比較的単純な工程で、広大な土地を要するだけで、水質汚濁などの深刻な汚染をもたらしたり、大量の水を使用するものでもなさそうである。
 以上のような背景から、キャッサバによる澱粉生産部門は、タイのアグロインダストリーによる環境汚染の問題を考える上で最も注視すべき部門の一つであるということができる。今回われわれが調査対象としたのは、業界でもトップに位置するキャッサバ澱粉業者・A社である。A社は既に相当程度環境に配慮した事業を展開しており、項をあらためて紹介するその事業内容は、今後の方向を考える上で貴重な示唆を与えてくれる。

二 キャッサバ澱粉生産業者の環境配慮・A社の例

 A社の環境配慮1

図表2-3 澱粉製造の
基本工程
 今回訪問したA社の工場は、バンコクの東、コラット市の郊外に位置し、ここではキャッサバ根茎(イモ)を原料として大規模な澱粉製造が行なわれている。この工場での澱粉製造の基本工程は、従来から一般に行なわれている澱粉製造法のそれと変わらない。その工程は以下のように要約できる:(1)原料キャサバ根茎の汚れ除去、(2)磨砕と篩別、(3)洗浄・精製、(4)脱水・乾燥。この過程をフローシートで示すと図表2-3のようになる。
 このような澱粉製造工業において、環境に影響をおよぼす因子となるのは次の三点であろう。(1)洗浄・精製のための清水の確保、(2)洗浄・精製後に排出される大量の廃水の処理、(3)カスの処分。この中でも特に(2)の廃水処理が環境汚染という観点からは最も問題となる。
 キャッサバ根茎を磨砕した後、カスを分離して得られた粗澱粉懸濁液から澱粉を分離、精製する際には大量の清水が必要であり(この工場では 毎時225トンの水を使用)、その結果、大量の廃水が出る。この廃水中にはキャッサバ根茎に含まれていた軽い浮遊しやすい有機物、可溶性成分、例えば、炭水化物や蛋白繊維、澱粉の一部、糖、これらの分解物であるアンモニア、亜硝酸塩など、そして、キャッサバ根茎成分として特有な青酸HCNが含まれている。有機物含量はかなり高く、精製操作や規模によって大きく変動するが、一般にBOD値が6,000ppmといわれている[*8]
 今回、われわれはA社工場におけるこの廃水処理方法に注目した。ここでは廃水は広大な敷地に作られたラグーン池に放流され、数カ月をかけてゆっくりと流れながら、自然浄化に委ねられ、この間、蒸発、浸透により水量も減少し、最終的に浄化水はユーカリ樹育成などのための灌漑用として使われている。したがって、廃水が蕫排液﨟という形で環境(河川等)に放出されることはない。
 われわれ日本人の考え方としては、このような食品加工業廃液は、適切な処理、例えば、ラグーン池での沈殿の他、空気酸化法、凝集剤による沈殿法、あるいは活性汚泥処理などの手段で処理し、最後は「水質汚濁防止法」に準拠して河川に放流するとするのが一般的である。ところが、今回訪問したタイ国の工場では、森の中の広大な土地に設置した複数のラグーン池を使って、時間をかけて、ゆっくりと池から池へと流すことで、廃水の自然浄化を行ない、環境汚染の問題をクリアーしている。浄化された水はユーカリ樹の育成に利用され、沈降した汚泥は肥沃土として農耕地に運ばれる。
図表2-4 廃水処理施設(ラグーン池)と
工場の俯瞰図
 ラグーン池・廃水処理施設と工場の全容を図表2-4に示す(工場事務室のロビーに置かれていたミニチュア模型を参考にして作製)。図中のA地点に廃水を導入。その後、廃水は池を流れ、次の低い池へと段階的に流下する形でB地点に達する。その間、数カ月。最初に褐色で不透明だった廃液は、B地点で殆ど透明な浄水となる。最後は、C地点の池を経てユーカリ樹の林に移される。池を一周するのに車で約三〇分が必要であった。池の姿の一部を写真に示した(実際の池はミニチュア模型ほどには整然と並んでいない)。
 敷地全体で2,000ヘクタールにも及ぶ広大な土地の利用が可能で、その結果、時間をかけて自然の浄化スピードに任せて廃水処理ができるという、日本とは違った現地の現状を実感した。
ラグーン池
 キャッサバ根茎を原料とする澱粉製造廃液には青酸HCNが含まれる。これについても特別な処置は行なわれていない。廃水がラグーン池を移動する間に、青酸は分解、あるいは揮散されて他の無機窒素化合物に変換されるものと推測される。右のようなこの工場での廃水処理システムの中では、廃水に含まれる青酸はとりたてて問題とはならないとの印象を受けた(タイ国でよく栽培されるキャッサバ・苦味種の根茎内部の青酸含量は、0.002~0.037%)[*9]。係員も廃水中に含まれる青酸の存在を指摘はしていたが、現処理法で問題はないと判断されている様子。廃水中に含まれる有機物濃度の指標となるBOD値は適宜測定されているとのことであるが、数値は入手していない。
 この工場での澱粉製造廃水の処理に関しては以上の通りである。初めに挙げた環境に関係する三つの問題点の(1)洗浄・精製のための清水の確保については、地下水の汲み上げで充当している。現在この手段で十分まかなわれており、トラブルは発生していない。(3)のカスの処理については、主に豚の飼料として搬出されており、産業廃棄物としての処理問題はクリアーされている。

 A社の環境配慮2
 前述の如く、A社工場では、現在、澱粉製造工程で排出される廃棄物については環境問題を考慮して処理されており、解決しなければならない当面の課題を抱えているわけではない。しかし、広大なラグーン池を使って処理されている大量の「廃水」には多量の有機物が含まれており、現在はラグーン池で沈降させて肥沃土として農耕地に利用されているとはいえ、この廃水中の有機物および蒸発させている大量の水を有効利用する可能性は残っている。
 このような観点から、A社では廃水から「バイオガス」を作る計画が進められている(タイ国、米国、日本の共同研究計画)。生ごみからメタンガスを主成分とするバイオガス製造技術を応用すれば、この計画は近い将来実現可能であろう。現在、ラグーン池に溜まっている多量の廃液から有機物と水をいかに分けるかという技術的な問題はあるとしても、廃水中の有機物組成は生ごみよりはむしろ「均質」であり、バイオガス原料として適切な素材と考えられる。A社の話からは、得られたバイオガスは自家発電の重油の節約に貢献し、一方、有機物を除いた水は澱粉の洗浄・精製工程に再利用されて地下水汲み上げの節約につながるという期待がうかがわれた。
 この「バイオガス計画」が実現すれば、廃水処理は現在とは違った姿となり、広大なラグーン池は必要なくなる。池跡地の利用、エネルギーの節約、そして水の確保の三点から、タイにおける澱粉製造工業の形態として、一つの理想的なものとなるかもしれない。



[*1] これらの状況および後段で説明されるキャッサバの需給状況一般については、多田稔「農業生産の動向」(堀内久太郎・小林弘明編著『東・東南アジア農業の新展開――中国、インドネシア、タイ、マレーシアの比較研究』第四章「タイの食料需給と国際市場」、150~164頁)、Kajonwan Itharattana, Effects of Trade Liberalization on Agriculture in Thailand: Institutional and Structural Aspects, The CGPRT Working Paper Series, UN/ESCAP / CGPRT Centre, January 1999, Bogor, Indonesia、また、キャッサバを含む農産物貿易に関する最近の問題については、ブンジット・ティタピワタナクン「アジア諸国のWTO対応 第五回――タイ」(『農林統計調査』50巻5号、小林弘明抄訳、2000年5月、50~57頁)など参照。
[*2] 森林破壊に関しては、「5・タイの森林破壊と再植林事業の展開について」においてあらためて議論される。
[*3] 先進国による農政改革の主要な中身とは、それまでの農業保護政策の中で中心的な地位を占めた農産物価格支持政策を後退させるものである。EUは、共通農業政策(CAP: Common Agricultural Policy)により、農業関連政策の主要部分を、メンバー国共通に適用している。これらの点については、ローズマリー・フェネル著・荏開津典生監訳『EU共通農業政策の歴史と展望』(食料・農業政策研究センター、1999年)などを参照されたい。
[*4] その他、エタノール、プラスチック生産などの新規用途の開発を有望視する見解もある。A Global Development Strategy for Cassava: Transforming and a Traditional Tropical Root Crop Spurring Rural Industrial Development and Raising Incomes for Rural Poor, Mar. 2000, Global Cassava End Uses and Markets: Current Situation and Recommendations for Further Study, Oct. 1998. (www. globalcassavastrategy.net より2001年7月ダウンロード)参照。
[*5] 統計数値には出典によりバラツキがある。また国内供給はあまり明らかではないらしい(Global Cassava Strategy, ibid., p. 22-23)。
[*6] Global Cassava Strategy, ibid., p. 22.
[*7] われわれの入手している農産物生産費統計(Agricultural Statistics of Thailand: Crop Year 1998/1999, Office of Agricultural Economics, Ministry of Agriculture & Co-operatives に所収)では、これらの点を確認することはできない。
[*8] 『食品工業の廃水処理』(光淋書院、1961年、186頁)参照。BODについては1 の注[*6]参照。
[*9] 『澱粉科学ハンドブック』(朝倉書店、1977年、397頁)参照。



3 事例 二 タイの牛乳・乳製品市場と酪農業

――牛乳・乳製品市場と政府による酪農業の振興[*1]

図表3-1 タイの牛乳・
乳製品供給量(=需要量)
 他の多くのアジア諸国と同様に、タイではもともと牛乳や乳製品を消費する習慣はなかった。牛乳の消費が普及しはじめたのは一九八〇年代以降で、その中身もいまだ飲用乳(liquid milk)が主体である。チーズなど乳製品の消費は一般化していない[*2]。タイ政府は近年、国民の健康増進という目的から、わが国でも行なった学校給食への導入などにより、乳製品消費の拡大を推進している。急速な経済成長のもと、飲用乳を主体とする乳製品消費は順調に増加し、一九九七年からの経済危機で若干の減少とはなったものの、FAOの統計によると、国民一人当たり20キログラム(生乳換算)を超える水準に達している(図表3-1)。消費の中心は最も所得水準の高いバンコク首都圏で、全国流通量の半数前後がここに集中しているものと類推される。
 ちなみにわが国の牛乳・乳製品消費(生乳換算値)は、一九九九年度で一人一年当たり93キログラム、うち飲用乳は39キログラムで、チーズ、脱脂粉乳、バターなど乳製品の方が量的には上回っている。タイの牛乳・乳製品消費は、わが国で言えば、約四〇年前の水準にあたる。
 消費習慣および酪農業自体の伝統がなかったことに加え、寒冷な気候を好むホルスタイン種の生育に適さないことから、タイの酪農業は立ち後れてきた。一九四〇、五〇年代にはインド系およびパキスタン系農民による小規模酪農がバンコク周辺で細々と営まれていたにすぎず、その後の増加する需要に応えたのは輸入粉乳およびバターを原料とする還元乳であった。
 タイの酪農業が急成長を遂げたのは、政府が、粉乳の輸入割当を国産乳との抱き合わせで行ないはじめた八〇年代以降である。その後も政府による酪農業の振興策は続けられ、生産者価格の支持、大規模な融資制度やその他の普及事業などにより、一九九九年時点でも33%の自給率を達成し(図表3-1)、さらに急成長していると見られる。これは、同じように酪農品の需要が拡大する他の東南アジア諸国の中では顕著な実績である。
図表3-2 タイの
飲用乳消費
図表3-3 タイの飲用
乳類の消費 1999年
図表3-4 UHTミルクの
企業別シェア 1999年
図表3-4 パスチャライズ
ミルクの企業別シェア 1999年
図表3-6 CP・明治社
の概要
 タイの牛乳・乳製品市場と酪農業の現状をごく簡単に要約すると次の通りである(図表3-2~3-6参照)。
 つまり、
 (1)消費の中心は「ドリンキング・ヨーグルト」を含む飲用乳である。また類似商品である豆乳のシェアが高い。
 (2)乳製品の小売価格および生産者支持価格はともに公定で、二〇〇一年八月現在、一リットル当たりそれぞれ31バーツ(成分無調整牛乳)および12.5バーツである(一バーツ=約2.8円)。常温での長期保存が可能なロングライフミルクは、パッケージが高価で、一リットルサイズで二、三バーツ余計にかかる。
 (3)牛乳・乳製品の消費量は一九九七年をピークに減少した。要因として経済および所得水準の低迷が一般には指摘されているようだが、行政価格である小売価格が一九九七年から二〇〇一年の間に約二割上昇していることも重要な要因であろう。
 (4)国内生産はなお増加しており、消費の四割を超えるが、残りは輸入によりまかなわれており、飲用乳の相当部分は還元乳、ないし生乳と還元乳を混ぜたものである[*3]
 (5)国内酪農の国際競争力はなお十分ではない。このため、国内産よりも割安な乳製品の輸入は実質的に割当制度(IQ)によっており、かつ輸入品は単価の高い国産の牛乳と抱き合わせ販売される。
 (6)製品には加糖など味付けされたものが多い。いわゆる「成分無調整」的なものは、約五割の市場シェアで、特にバンコク首都圏の若年層が主たる需要者であるという。
 (7)低温輸送に難のあることならびに日常的な消費としてはいまだ発展段階にあることから、わが国ではあまり一般化しなかったロングライフミルクのシェアが高い。
 (8)主にバンコク首都圏を対象とする外国資本との合弁企業などの大企業と学校給食にも多くを依存する地域レベルの小規模業者が併存している。
 (9)いまや全国的に拡大した国内酪農ではあるが、平均的な規模は小さく、一頭当たり搾乳量で代表される生産性は低い。

――飲用乳の品質問題と酪農による環境汚染の可能性[*4]

 製品に関する二つの品質問題
 タイにおいては、飲用乳に関して二種類の品質問題が指摘されている。一つは、わが国で言えば「成分無調整」にあたる「100% Fresh」と表示された商品が、実際には輸入粉乳やホエイなどにより「増量」されているケースがあるというもの、もう一つは、製品の衛生管理に関する問題である。いずれの問題も、本年われわれが視察したCP・明治社のようなナショナルブランドの大企業よりも、むしろ地方に立地する小規模な無名の乳業会社が生産する商品で発生しがちなものと思われる。
 一つ目の問題は、バンコクポスト紙でもしばしば取り上げられている。「増量」は本物の牛乳を飲みたいという消費者を偽り、さらに不当な利益を得る行為であるとして糾弾するものである。
 飲用乳を生産する乳業会社サイドから見て、還元乳での「増量」を図ろうとするインセンティヴは、右記の(5)で述べた国内産生乳と輸入粉乳等との価格差=内外価格差にある。しかし近年でこそ国内生産による自給率が四割を超えるほどに上昇したとはいえ、数年前にしても国内供給力ははなはだ低かったわけであるから、市場全体として、還元乳が流通していたことはある意味でやむをえないものとも思える。問題の一つは「100% Fresh」の表示にあるとも言えようが、消費者の信用を失うかもしれないというリスクを侵してまで還元乳による「増量」を図る経済的なインセンティヴをもたらす要因についても再考する必要はあろう。一つは、比較的大きな内外価格差のもとで、割り当てられた者に一種の利権をもたらす輸入制度を運用していることであり、今一つは、主に地方に立地する小規模業者は、消費者の信用を失うことのリスクをそれほど感じることはないであろうということである。
 さらに、タイの地方圏に立地するこれら小規模業者は、政府による補助を受けている学校給食向けの製品出荷に依存する度合が高い。いわば「物言わぬ消費者」を相手にしているわけであり、モラルハザードが生じる可能性は高いわけである。執筆者の一人は一九九七年から一九九九年にかけて東北タイ地域の乳業会社をいくつか訪問している。その中でB社を訪問した際には、製品のすべてが「100% Fresh」であるにもかかわらず、工場内に全粉乳の大袋がおかれているのを目撃している。
 二つ目の問題、つまり製品に関する衛生上の問題で具体的に指摘されているのは、一般的なバクテリアのほか、アフラトキシンおよび抗生物質による製品汚染である[*5]。大手の乳業メーカーはいずれも新鋭の設備を整え、十分な製品管理をし、かつ入荷する原料乳についても適切な検査を実施しているものと思われるが、地方に立地する小規模乳業メーカーについては、問題のあるものもあるといわれている。本年訪問したCP・明治社は、一九九六年に、タイでは最も早期にHACCPを取得した食品企業の一つでもあり[*6]、一定の品質基準を満たさないものは入荷を拒否することも明言している。
 ここでも最も問題視されているのは、学校給食を通じて供給される製品である。単価を抑えて供給しなければならないという事情から、これらの多くは、本来常温での輸送・保管を行なえないチルド牛乳(パスチャライズミルクと呼ばれる)である。しかし地方の小規模業者では、冷蔵車を持たずに学校給食の牛乳を供給しているケースもある。先に紹介したB社のケースでも、製品(学校給食用および一般用)を出荷する小型トラックは、「保冷のため」分厚い壁の荷台をつけてはいたが、冷蔵車ではなかった。出荷先までは数時間を要することもあるとのことであり、品質管理は素人目にも心許ない。
 またCP・明治社のような大手乳業会社に入荷を拒否された原料乳は、その後どこに行くのであろうか? 品質基準を満たさないとされた原料乳の多くが廃棄されていることも報告されてはいるが、一部はそのまま小規模乳業会社に引き取られているのではないかという可能性を否定し得ないことも現状のように思われる。

 酪農による環境汚染の可能性

図表3-7 タイ東北部酪農
における糞尿処理
図表3-8 経営耕地面積と
飼養頭数の関係
 執筆者の一人は、一九九九年に新興酪農生産地域であるタイ東北部において経営調査を実施した際に、あわせて家畜糞尿の取り扱いについても簡単な質問を行なった。
 図表3-7がその回答結果である。自家農地・草地への還元には、放牧中に排泄されたものもそのまま計上されていると思われるが、さすがに「牛舎の回りにそのまま放置」されているケースはほとんどないようである。実際のところ、畜産による悪臭以外の環境汚染が生じるのは、濃厚飼料の多くを購入することで、還元すべき農地が自家にはない大量の有機物が発生することによる。別のいい方をすれば、購入飼料として、酪農家自身が管理していない農地から栄養分が導入され、それを自家農地に還元するには量的に過大になるということであろう。
 右の調査対象農家は、平均して5.4ヘクタールの農地を経営し、9.8頭の成牛を飼養している。一頭当たり0.5ヘクタール以上の経営地があることになり、有機物の分解が早いであろう気象条件をも考慮すれば、現状の糞尿処理が環境に何らかの悪影響を及ぼす可能性は低いと思われる。ただし、これも平均水準としての一つの評価である。図表3-8は、調査サンプルをもとに、飼養農家ごとの経営面積と乳用牛成牛飼養頭数の関係をプロットしたものである。経営面積当たり飼養頭数で見て、平均水準を大幅に上回る酪農家が散見されることにも注意されるべきかもしれない。

 いずれにしても、養鶏や養豚部門に比べた場合、現段階においてタイの酪農部門はほとんどの地域においてまだまだ小規模であり、畜産公害の主役になる状況にはなっていないのが共通認識かもしれない。



[*1] 本稿でまとめられる一般的な状況については末尾の文献を参照。また、今回ヒアリングしたCP・明治社の関係諸氏ならびにその他の方からも多くのご教示をいただいている。
[*2] タイ国内では、チーズや粉乳への加工は行なわれていない。Agricultural Statistics Thailand, ibid. によると、一九九九年における「チーズ・カード」の輸入量は1,300トンにすぎない。バターは1万トン余り輸入されているが、これには還元乳の原料となるものが含まれていると思われる。
[*3] 直近の数字としては、120万トンの総消費に対して58万トンの国内生産、自給率にして48%という数字が報告されている。バンコクポスト紙、 2001年7月16日。
[*4] 本項は、バンコクポスト紙ホームページよりダウンロードした多くの関連記事、執筆者の一人が一九九七~一九九九年にかけて行なった酪農地域の現地調査および関係者からのヒアリング、ならびに本年八月のCP明治社サラブリ工場でのヒアリング等にもとづいている。
[*5] バンコクポスト紙、 2000年5月15日付け社説、1999年11月16日付けなど参照。
[*6] HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point Systems)とは、製造工程全般を管理することにより製品の安全性を確保しようとする国際的な規格基準である。タイの食品企業は一般に輸出指向性が高く、その意味でも重要視されている。


《参考文献》
Chantalakhana, Charan. Dairy Development in Thailand: A Case of Small Farm Production for Urban Consumption, Paper presented at the WAAP/FAO International Symposium on Supply of Livestock Products Rapidly Expanding Urban Populations, held at Hoam Faculty Club, Seoul, Korea, during the 16-20 May 1995.
WTO Trade Reviews: Review of Thailand, 17 December 1999, www.wto.org 、2000年3月ダウンロード。
小林弘明「家計調査等からみたタイの食料消費構造の変化と牛乳乳製品事情」(『1998年度日本農業経済学会論文集』405~408頁)。
――― "Situations of Dairy Farming in the Northeast Thailand"(他八名と共著、『1999年度日本農業経済学会論文集』503~504頁)。



4 事例 三 NPOによる持続的農業と森林再生への試み

 人口増加と環境劣化の同時進行という、近年の地球環境をめぐる事態の中で、持続的農業すなわち農業生産力を高めつつかつ持続的にこれを維持していくことのできる農業の必要性が強く認識されてきている。そのためには化学肥料や農薬など人工的農業資材を多量に投入しつつ土地の自然力を奪ってきた在来農法から、自然の循環に則り、環境を保全しつつ収穫を上げるような、いわゆる自然農法への転換が求められる。今回の調査の中でわれわれは、この持続的農業生産を試み、実践している一施設を訪問した。
 これは「世界救世教自然農法センター」といって、日本の静岡県熱海市に本部のある、宗教法人世界救世教の外郭団体で、その教義に即した自然農法の研究と研修を行なっている。
 宗教団体によって運営される研修施設という特殊な例ではあるが、自然農法の試みを行なっているNPOの一例として報告する。

――タイ農業をめぐる一九六〇年代以降の変化[*1]

 タイはコメの国際市場において世界最大の輸出国である。このことに見られるように、農業は現在もこの国の基幹産業である。しかし、一九六一年にスタートした第一次経済社会開発五カ年計画以降、国の工業化が進められ、農業の相対的地位は徐々に低下オてきた。すなわちGDPにめる農業生産の割合は一九七○年代半ばの40~50%から、九○年代半ばには15%以下へと下がった。
 この変化と並行して農産物の種類も国内向け食料生産を中心としたものから輸出向けの商品作物に重点が置かれるようになり、比較的大規模な農場で、化学肥料や農薬の多投入による商業的生産の割合が増加した。1―で見たように、これら人工的農業資材の投入量は一九八○年代後半以後急増したのである。
 このような農業形態の変化は、土壌の劣化(表土流出、塩類化を含む)や森林破壊、農薬事故や農産物汚染、社会的不安定などの多面的なマイナスの結果をもたらすことが少しずつ認識されてきた。
 こうした背景の中で、近年、それらの問題を解決し新しい農業のあり方を模索する動きとして、持続可能な農業を目指す試みが、さまざまな社会的セクターで行なわれるようになってきた。それらは主にNGOによるもので、そしてほとんどがいまだごく小規模であるが、今後の農業のありかたに示唆を与えるものであろう。

――世界救世教自然農法センター

 この施設はバンコク東北方約50キロメートルのサラブリ県のはずれにあって、広い敷地の一方にこのセンター棟と農場が、他方に壮大な寺院とその庭園があり、その裏山は社寺林をなしている。
 センターでわれわれを迎えてくれたのは、ディレクターのカニット氏であった。ここでこのセンターの仕事や基本的な考え方、主要な農業資材であるEMの説明を受けた後、訪問者用の見学車両に乗って農場内を見学し、その後、森林再生の実験場でもある社寺林を見学した。以下にここでの見聞とパンフレット類、その他の資料[*2]によって概要を述べる。

――世界救世教の自然農法の考え方

 世界救世教とは、岡田茂吉(1882~1955)が提唱した宗教であり、自然の摂理に従った農業と生活の原理を説く[*3]。この原理に沿った農法を研究し、それを普及することを目的として、日本には(財)自然農法国際研究開発センターが置かれ、タイにはここサラブリに自然農法センター Kyusei Nature Farming Center が一九八八年に開設された。岡田は自然農法によって、安全で栄養豊かな食物を生産し、人びとの健康のためにそれを供給することができると考えた。自然農法は、化学肥料や農薬など人工的資材の多投入にたよる近代農法を退けて、伝統的な農法の長所を取り入れたものであるが、同時にそれは、古い農法による貧困へ逆戻りすることではなく、土地の自然力を引き出すことによって生産力を高めることができるとされる。

――EMの活用

 現在、この自然農法の基盤かつ主力技術となっているのが、琉球大学教授比嘉照夫氏の開発した、EMである[*4]。これは、「有用微生物群」(Effective Micro-organisms)の略称として命名されたもので、光合成細菌、乳酸菌、酵母菌、窒素固定細菌など多様な微生物の混合物である。
 このEM中の微生物群によって、土壌中の有機物が作物の栄養として摂取されやすい形に分解されるため、作物の成長が促進され、収量も著しく増え、かつ食味や栄養も優れるという。化学肥料を施肥する必要はない。またEMは土壌中の病原微生物を駆逐するし、作物は健康に育って害虫にも強いので、農薬も不要である。雑草や作物の茎などの有機物残滓は栄養成分として土に戻され、自然の循環が成立する。こうして、農薬汚染の心配がなく、かつ食味良く、豊かな収穫が得られ、土壌も肥沃に保たれるという。
 EMおよびその派生的資材であるExEM(Extended EM=糖蜜などの有機物にEMを加えて発酵させた液)やEMボカシ(米ぬかなどの有機物をEMで発酵させて乾燥させたもの)の利用によって、このセンターの農場ではスイカをはじめとする果樹、野菜、コメの無農薬栽培やニワトリ、豚の無薬品飼育を実行し、それらの糞もまたEMで発酵されて肥料として利用されている。また、EMは自治体や企業の協力を得て、学校やホテルの下水や生ゴミ処理、工場の廃水処理にも利用されはじめているという。
 EMはタイの環境問題の一つである森林破壊の再生事業にも利用されている。自然農法センターは王室森林局サラブリ地域事務所と協力して地域の森林資源保全事業を行なっている。荒れた森林を再生させるために、田畑におけるとおなじように林床にEMを撒布することによって樹木の健康と成長を促すということであった。

――農場と森林の見学から

 農場では、おそらく数十人と思われる人びとがそれぞれの作業をしていた。パパイヤの果樹園、ナスなどの野菜畑、幾種類もの淡水魚を飼育している池、鶏舎、豚舎、生ゴミの堆肥化施設等を見学した。鶏糞からはEMで発酵させて乾燥した肥料が作られ、出荷されている。豚舎からの汚水はそれぞれ約3メートル四方の6槽からなる、EMを利用した浄化槽で処理されて、その処理水は養魚池に導かれており、有機物は魚の栄養になるという。
 また、自給自足可能なモデル農家を見学した。これは約3ヘクタールの土地に水田、畑、池、鶏舎が配置されたもので、それぞれの面積比は3対3対3対1である。この中で、食料の生産と消費と廃棄物の還元という物質循環が成立するというしくみであった[*5]
 EMは腐敗菌の繁殖を妨げるので有害な腐敗生成物が生じないという。たしかにこの見学のあいだ、糞尿臭や腐敗臭を感じることはなく、どこか甘酸っぱいようなEMのにおいが漂っていた。ただし鶏舎や豚舎はかなりの密集飼育と思われた。
 センターの事業の一つである森林再生のモデルとして、裏山の社寺林の手入れが行なわれている。林学者のカニット氏は誇らしげにわれわれをこの森に案内された。彼の説明によれば、EMをも利用しつつ数年間の管理によって、植物の密度や種数、生息する昆虫や野鳥の数も目立って増えてきたとのことである。この森にオオハシ鳥が訪れてくれるようになることが彼の夢だと語っていた。林学にはまったく素人のわれわれだが、日本のよく繁った森林を見慣れた目には、亜熱帯混交林のこの森が特別豊かに繁茂しているものとも思われなかった。しかし、このセンターに別れを告げたのち車窓から振り返って見た遠方からの眺めは、たしかにこの調査旅行中に車窓から見えた他のどの森よりもこんもりと繁っていたように思われる。



[*1] この項の記述は、Nitasmai Tantemsapya, "Sustain-able Agriculture in Thailand,", TEI Quaterly Environment Journal, 3(2), Bangkok, 1995, pp. 55-66を参考とした。
[*2] Kyusei Nature Farming Center(The Asia Center for Person-nel Creation on Kyusei Nature Farming) Thailand, July, 2001、Ravi Sangakkara, Kyusei Nature Farming and the Technology of Effective Microorganisms: Guidelines for Practical Use, revised ed., 1999、Kyusei Nature Farming Center, Sarabri, Thailandなどのパンフレット類、および(財)自然農法国際研究開発センターのホームページ http://www.infrc.or.jp/infrc/。
[*3] 井上順孝ほか編『新宗教事典』弘文堂、1990年、841頁ほか。
[*4] EMについては、比嘉照夫『微生物の農業利用と環境保全―発酵合成型の土と作物生産』農山漁村文化協会、1991年ほか、比嘉氏の著書。
 ただし、農業資材としてのEMの有効性については農学研究者の間に否定的見解もあって、学界一般に承認されているとは言いがたい。日本土壌肥料学会主催公開シンポジウム「微生物を利用した農業資材の現状と将来」講演資料(1996年)、同学会ホームページ http://www.soc.nii.ac.jp/jssspn/info/pdf5_sympo1996.pdfを参照。このシンポジウムの基調は微生物の農業利用一般に異論を呈しているわけではないが、EMをはじめ市販されている多くの微生物資材について実証データが不足している現状では、これらに過大な期待を抱くべきでないことを論じている。
 筆者にはこの点について判断する知識がないので、ここでは自然農法センターでの見聞などに基づいて紹介するにとどめる。
[*5] この自給的・自己完結的なシステムは、現国王の新理論(King's Theory と呼ばれている)を実践する試みである。この新理論とは、個々の農業経営ないし地域農業に関する一つの理想的な状況を提示する部分を含んでいる。この状況とは、コメなど自給的な生産部門、地力保持など持続性を確保するための畜産部門、および換金作物部門をバランス良く内包するものとされる。



5 タイの森林破壊と再植林事業の展開について

 世界の森林はこの数十年で、そのほぼ半分が失われた。今日、世界の森林は総陸地面積(約131億ヘクタール)のおよそ30%(約39億ヘクタール)となっており、その約半分が熱帯地方に存在する。そして過去三〇、四〇年における森林消失の大部分がこの熱帯地方で起こった。タイは熱帯アジアの土地面積の6%を占め、国土の大部分が熱帯季節林になっている。そのタイにおいて一九六一年から一九九〇年の間に森林面積が国土面積の53%から27%にまで減少し、熱帯林の消失が最も大きな環境問題となった。しかし、一九八九年に政府による森林伐採禁止令が出された後は減少速度が低下し、FAOの最新の調査結果によっても、一九九〇年から二〇〇〇年における森林面積の年減少率は0.7%に止まった[*1]
 一方、世界の植林地は一九八〇年から一九九五年の間に約二倍(1億8,000万ヘクタール)になり、二〇〇〇年現在、1億8,700万ヘクタール(世界の総森林面積の5%に相当)に達した。中でも発展途上諸国が二〇一〇年までに植林面積を二倍にすることを発表していることは注目に値する。タイにおいても植林計画が進行している。この項では、タイにおける森林消失の特徴と森林修復にむけての取り組みを概観する。

――タイの森林植生

 熱帯モンスーンに位置するタイでは、国土の大部分が熱帯季節林になっている。熱帯林は熱帯地域(赤道をはさんで北回帰線と南回帰線の地域)を覆う森林をさし、熱帯雨林、熱帯季節林およびサバンナ林の三つに大別される。このうちタイの森林は熱帯季節林に属し、5月~11月には熱帯気団の襲来により雨季になり、11月~4月には亜熱帯気団が襲来して乾季となる。その結果、南部の半島部以外の地域には乾燥常緑林、北部山地にはマツ林、東北部には乾燥フタバガキ林、北部には混合落葉林が広がるタイ特有の森林を形成している。一年の約半分を占める乾季はさらに暑い時期とやや冷涼な時期とに分かれる上に、年により乾季の長さが変化するため、タイの熱帯季節林はその年によっても大きく変化して多様な姿を現す。一方、南部の半島部は熱帯雨林となっており、常緑の森林を形成している。
 北東部のナコンラチャシーマ県パクチョンチャイ国有林には乾燥常緑林と乾燥フタバガキ林の天然林が比較的よい状態で保存され、北部のランタン営林局管内にはタイの代表的な木、チークを主とした混合落葉樹林が広がり、乾季にはほとんどの木が落葉する。また、北部や北部山地の痩せた尾根の山火事跡には、マツ(ケシアマツとメルクマツの二種が主)が広く分布している。

――森林消失の歴史およびその原因

図表5-1 地域別森林率の推移
 タイにおいて森林業を目的とした森林管理が行なわれるようになったのは、一八九六年におけるタイ王室森林局(Royal Forest Department)の設立後である。
 一八九六年以前においては、森林伐採は無秩序に行なわれた。伐採業や加工業は主としてイギリスをはじめとするヨーロッパ各国の伐採業者に握られ伐採されたチークは大量に外国へ輸出された。その結果、森林資源が大幅に減少し、森林の荒廃が進んだ。一八九六年九月一八日に国王ラマ五世が王室森林局を設立し、森林伐採はすべて森林局の許可がなければできないことになった。一九五〇年代まで森林伐採の全責任は王室森林局が担っており、一九六一年には、森林面積は北部で69%、東北部で42%、中央部で55%、そして南部で42%を占めていた(図表5-1)。この間、チーク丸太およびチーク材は主要な輸出収入源であった。しかし、一九五六年に林業機構(Forest Industry Organization)が発足したことにより、森林管理は王室森林局の手から離れていった。そして一九六二年の初めに国立公園およびその他の森林保護領域が定められ、王室森林局の仕事の中心はその管理になった[*2]
 一九六一~一九六六年における第一次経済社会開発五カ年計画では全国土の50%を林地として保全することが決定されたにもかかわらず、この期間にタイの森林は商業的農業の急速な拡大によって、減少し始めた。その減少は、続いて実行された第二次から第四次までの経済社会開発五カ年計画中にピークを迎え、一九八二年には森林面積は全国土面積の30%にまで減少した(図表5-1)。
 森林面積の消失とともに、不法伐採や薪炭利用による森林劣化が進行した。開発のために建設された道路は、森林へ入植するのを容易にし、道路に沿って森林破壊が急速に進行した[*3]
 森林消失の原因の第一はアグロインダストリーによる森林伐採である。キャッサバなどの商品作物の普及により森林が農地に転換されていった。内陸部の森林のみならず、エビ養殖のためにマングローブ林も大量に伐採された。つまり、一九七九年には約二九万ヘクタールあったマグローブ林は、八〇年代に激しく減少し、一九九一年には約17.4万ヘクタール、七九年の60%の水準となった。年率にして約4%の減少率である。1 で述べたように、その後はエビ養殖事業が次第に内水面養殖へとシフトしたこともあり、マングローブ林の破壊にも歯止めがかかり、九六年現在で16.8万ヘクタールとなっている(年率0.6%の減少率)[*4]
図表5-2 地域別森林面積
減少率の推移
図表5-3 森林の地域別賦存状況
図表5-4 タイの所得格差
 このように農産物増産や養殖業のための森林開発の力は強く一九六〇年代から伐採された森林の70%強が農地に転用された。その他残りの30%は、道路やダムなどのインフラ整備による消失とされているが、森林管理の不手際および不法伐採の横行など、消失の原因は単純ではない。地域別の状況をみると、一九六一~七三年間には北部を除く各地域で高率の森林消失が起こった(図表5-2)。北部タイでのチーク材の商業伐採は、この時期すでに峠を越えていたのである。つづく一九七三~八五年間には北部タイでも激しい森林消失が起こり、全国で年率3.2%という減少率となった。この期間はタイの農用地面積が急速に拡大した時期に当たる。一九六一年からの全期間を通すと、最も激しい森林消失が起こったのは東北タイであり、地域別に見た森林の賦存状況も大きく様変わりした(図表5-3)。
 森林破壊はしばしば貧困と関連づけられる。図表5-4に示す所得水準の地域格差はこのことをあらためて示唆する証左の一つである。
 OECD(経済協力開発機構)による「環境と貿易」報告書は、インドネシアの熱帯林減少の60%は焼き畑により、20%がプランテーションなどによる農業であることを述べている。また、ブラジルでは40%が牧畜によるものであり、焼き畑によるものは20%位であるという。一方、IPF(森林に関する政府間パネル)による分析では、熱帯林の減少および劣化は、国や地域によりその原因が多様であり単純ではないことを例示している[*5]。例えば、ボルネオ島やアマゾン地域は商業伐採とその跡地における土地収奪的な農業の組み合わせによる。サヘル地域および南米高地では人口増加、貧困、薪炭材の過剰採取や過放牧の悪循環による。そして、東南アジアの森林や沿岸部の場合は土地利用計画の不備と不適切な農地やエビ養殖場の開発の組み合わせによるとしている。タイの場合は最後の例に該当すると考えられるが、経済活動の急激な進展、人口増加および貧困問題に加え、土地の所有権に関する法の不整備も関係する複雑な様相を呈している。またFAO年次報告では[*6]、(1)農業による浸食、(2)狩猟・漁獲、(3)商業伐採・薪炭採取、(4)家畜の放牧、(5)鉱業、(6)火災、(7)道路建設、(8)水力発電、の八つを、途上国地域における保護林管理への脅威として指摘する研究を紹介している。
 一九八八年末、タイ南部をおそった山崩れと土石流による大惨事を契機として、一九八九年一月、政府は森林の全国的な伐採禁止令を公布した。森林の伐採を原則禁止して、商業用には特許された区域内だけの伐採を認め、植林法を定め伐採後の植林を義務づけた。九〇年代には農産物の国際価格が低迷し、農地開発圧力が弱まったという背景はあるものの、ともあれ森林消失の速度は漸減した。植林による増加もあり、一九九八年におけるタイの森林面積は全国土面積の25.3%(1,297万ヘクタール)になり[*7]、専門家の見解によると、(まだ統計が得られていない)現状では増加に転じているという。
図表5-5 木材の生産と輸出入
 森林面積の減少に歯止めがかかったことは、図表5-5に示した木材の需給状況に明白に反映している。九〇年代に入り著しく減少した木材の生産は、輸入に置き換えられたことがわかる[*8]。九七年以降の輸入の減少は、経済危機によるものであろう。この現象は、近年森林面積が維持されてきたことを素直には喜べないことを意味している。タイにおける森林破壊が、近隣国に「輸出」されたことを意味するからである。森林の役割が、単に洪水など自国での災害を防ぐというだけではなく、地球環境の保全と結びつけられる今日においては、タイの現状を持続的なものと呼ぶことはできまい。

――森林保護および森林再生計画

 タイの森林政策は経済政策の中に位置づけられ実行された。第一次経済社会開発五カ年計画(一九六一~一九六六)では政府による造林が開始され、全国土の50%を林地として保全することが決定された。一九六六年に国家土地区分委員会が設置され、永続林、農地の利用区分、森林の所有区分が明確にされた。しかし、それらの土地はすでに住民が居住耕作をしているという、日本においては考えられないような状態であるため、現実の森林保全は極めて困難であったといえる。さらに、引き続く経済社会開発計画を通して開発の力が強く、一九七六年には森林率が40%を割り込んだ。この時点で再度、森林資源の保全、林産物の生産向上および森林再生が国家政策として強調された。しかしさらに一九八五年には森林率が30%を割り込むに至る。そのため、一九八五年、王室森林局は「国家森林政策」を発表し、国有林を保安林と経済林に二分しその取り扱いを明確にした。その内容は国土面積の40%を森林に回復させ、そのうちの15%を保安林として保護し、25%を経済林として植林を条件として伐採を認めた。
 FAOによると一九八一~一九九〇年のタイにおける植林増加面積は約42万ヘクタールである。一九九六年にはプミポン国王在位五〇周年を迎えるための祝賀造林80万ヘクタールが計画され一九九四年から実施に移された。
 当初の植林事業で主役となったのはユーカリの一種(Eucalyptus camaldulensis)であった[*9]。パルプ需要の急成長を原動力とし、一九七八年に安価な種子が導入されたことから、それは森林保全という国策に結びついた。担い手は日本や台湾との合弁によるパルプ・チップを生産する大企業である。政府は、租税上の優遇措置を採用したり、低地代により植林地を提供するなどの支援策を行なった。ユーカリは、木質柔らか、成長が早く異種環境およびやせた土壌でも良く生育するという特徴を持つが、土壌・水循環・土着種等への悪影響も報告されている。また、さまざまな補助政策が関係していることから汚職の温床となったり、既存の森林を伐採して植林事業が開始されるなどの問題もあり、環境派からは多くの批判を受けた。一九八八年には、他の作物の生産に適さない土地に限定するなど、農業協同組合省によるガイドラインが設けられ、カセサート大学の専門家によると、今日では問題の多くは解決されたという。
 地域住民を担い手として期待する共同林(Community Forest)という概念がある。一九九四年に開始された「民間植林振興計画(Private Tree Farming Promotion Program)」は、そのような発想によるものと思われる。これは目標である八〇万ヘクタールの植林を六年間で実施しようとする政策で、植林者である農民に対して、一定の条件の下、五年間で一ライ(0.16ヘクタール)当たり3,000バーツ(約8,400円、1バーツ=約2.8円で換算)を支給するものである(一年目の支給額は800バーツ、以下二年目以降、700バーツ、600バーツ、500バーツ、400バーツとなる)。二〇〇一年秋頃までの実績では、約38万ヘクタールの植林がこの政策のもとで実施された。そのうち16万ヘクタールほどは適切に管理されず、すでに放棄された状態にあり、またその他の問題点も指摘され、本事業全体の評価については今後の課題であろう。
 第六次経済社会開発五カ年計画(一九八七~一九九一年)でも森林地に侵入している住民に植林活動の機会を与えるため、農民が造林するのを助ける政策(社会林業)が導入された[*10]。日本は東北タイ造林普及計画(一九九二~一九九七年)にもとづき森林業協力を行なっている。その内容は、東北タイにおける環境復旧と地域住民の生活向上に資するための社会林業の発展を図り、地域住民による造林活動を推進するものである[*11]
 現在、タイにおける森林保護地域は完全保護地域が、森林面積に占める割合として37.2%であり、部分的保護地域も23.6%を占めている。これらは、アジアの中でも中国とともに高い値を示している。したがって、今後のタイにおける森林政策はアジアにおける熱帯林保全にとって重要な意味を持っている。
 タイにおける森林保護および森林再生の問題についておおまかにまとめてみたい。再三にわたる森林保護政策を掲げながら現実にはむしろ破壊が進行してきた原因の第一は、やはり森林を取り巻く経済環境の急激な変化が挙げられる。農産物の商業生産の圧力により森林が次々に農地に転換され保護政策が実効を見なかったといえる。つぎに土地所有問題が挙げられる。すなわち土地が基本的に国の所有となっており、すでに住民による慣習的な薪炭材の採取や放牧地、あるいは焼き畑として使用されている土地が森林保護および森林再生の対象とされ、実施されたため多くの困難を伴った。この解決のためには明確な土地利用計画の策定と土地所有制度の法的な改革が必須と考えられる。近年になり地域住民の生活を保証するような社会林業の推進が強調され始めた。国全体から見るならまだほんの一部の地域における試みではあるが、森林消失率が低く保持されるようになった現状において、このような地道な政策の積み重ねが最終的に森林保全に繋がると考えられる。



[*1] State of the World Forest 2001, FAO. (www.fao.org より2001年12月ダウンロード)参照。なお、そこでの森林とは、「高さ5メートル以上の樹木および竹の樹冠が地表の10%以上を覆っている0.5ヘクタール以上の生態系であって、一般に野生動植物や土壌を伴い、農業用に用いられないもの」である。それ以前の調査(一連の調査はFRA:Global Forest Resources Assessment と呼ばれる)とは定義が若干変更されているが、熱帯・亜熱帯圏の途上国については影響がない。また、ゴム園が植林地面積に含まれるという変更も加えられている(樹園地は含まれない)。この点はタイの森林面積には若干の影響があるものと考えられる。なお、このFRA2000によるタイの森林面積は、本節後段で参照される同国の公式統計よりも一割強多い。ゴム園が含まれるなど、定義や調査方法等の違いによるものと思われるが、九〇年代における森林面積の減少率に関しては両者ともに年率0.7%と一致している。
[*2] 以上については1 の参考文献[20]参照。
[*3] FAOでは生産林での商業伐採によって森林の質や生産力が低下することを「劣化」と定義し「減少」とは別の森林変化として分類している。したがって、商業伐採による劣化面積は減少面積には含まれていない。なお、1 の参考文献[18]は、数学モデルにより、農産物価格、人口要因などとともに、道路密度が森林破壊に影響する度合を定量している。
[*4] 王室森林局 Forestry Statistics of Thailand 1999, (www.forest.go.th/より2002年1月ダウンロード)による。
[*5] 小林紀之、「二一世紀の環境 企業と森林」(『熱帯林再生への挑戦』日本林業調査会、第五章、2000年)284頁。
[*6] FAO,ibid.
[*7] 王室森林局、Forestry Statistics of Thailand 1999, ibid 参照。統計数値の信憑性とはさまざまな分野で問題とされるもので、この公式統計に対しても、過大であるという批判はある。
[*8] 図表5-5では、木材の輸出量が生産量を大幅に上回っている。後者は、国内で伐採され実際には木材として流通するもののすべてを捕捉していないものと思われ、また前者のほとんどは農業・協同組合省の管轄となるゴムの木である。
[*9] ユーカリの植林事業に関する以下の記述については、1 の参考文献Puntasen[14]、バンコクポスト紙1997年11月30日付、1998年7月24日付などを参照。
[*10] 竹田晋也「タイにおける地域住民による森林管理――東北部ヤソトン県の事例から」(『林業経済研究』、128巻、1995年)8~13頁。
[*11] 佐藤孝吉「タイにおける我が国の国際森林―林業協力の現状と課題」(『林業経済研究』128巻、1995年)14~19頁。



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