臨時学長代行 伊東 達夫
2009年度、和光大学は、800名余りの新入生を迎えます。受験勉強から解放された、これから好きなことができる、思いっきり遊べる、アルバイトができる、と思っている皆さんもいると思います。それは正直な気持ちではないかと考えます。しかし、これから始まる大学生活は、おそらく皆さんにとって、長い人生のうちでかけ替えのない貴重な時間になるということだけは知っておいてください。そして、この4年間は、君たち自身の時間ですので、大切にしっかりと使っていただきたいと思います。
その貴重な時間の一歩が、これから始まります入学登録です。すでにご存じのように、和光大学では、入学式と言わずに、入学登録と言います。これから先生方の前で、署名してもらうわけですが、そのサインは、自分が、これから和光大学の一員として、大学生活を始めますという意思表示であり、大学生としての責任をしっかり果たしていきます、という覚悟をみんなの前で表明するものです。署名は簡単ですが、君たちに求められているものは、勉強でも、生活面でも、クラブ活動でも、そのほかいろいろな局面において非常に大きいと思います。
私は経済経営学部で、「経済学史」という科目を担当しています。経済学の歴史について勉強しているわけですが、その中でも特に、経済学の父といわれるアダム・スミスについてやっています。『国富論』で有名ですからご存じの方も多いでしょう。そのアダム・スミスが書いたものに『道徳情操論』という社会哲学の本があります。その1ページ目に、「人間は自分のことを考える利己的な心だけでなく、他人への思いやりを考える心も同時にもっている、」と言います。それは人間ですから、自分のことを考えるのは当然です。でも、それだけでは、社会は、ばらばらになってしまいます。
自分のことと同時に、他の人のこと、社会全体のことも考えましょう。大学のゼミで『国富論』を読んで、私も頭の中では理解していたつもりでしたが、机の上から離れて、外へ出てみると、まったく理解されていないことに気がついたんです。お年寄りや子どもへの思いやり、助け合いなどまったく動いていなかったんです。自分のことで頭がいっぱいだったんです。先輩にそのことを話したら、先輩は、「おまえは、何で社会科学をやっているんだ」と言われました。ショックでした。もっと社会という大きな視野の中で物事を考え、行動しなければと思ったんです。
そこで何をしたかというと、もちろん机の上の勉強はしなければなりませんが、先生や、先輩や後輩、友達と話をするように努めました。喫茶店でコーヒー一杯で何時間も粘って、勉強のことだけでなく、政治のこと、経済のことなどいろんなことをそれまで以上に話すようになりました。どこまで進歩したかは分かりませんが、でもそういう努力をしたということは自分でも認めています。皆さん、それぞれの趣味や学問の方向は違っていても、自分の殻にとじこまらずに、大きな視野でいろいろな人と話をして下さい。それが自分を作る土台になっていきます。
和光大学は教職員と学生の距離が近いといわれます。人という点が動くことにより、人間関係という線のつながりになり、さらに線が動くことにより面という、より広い人間広場ができます。さらに人間広場がさまざまに組み合わさって、和光大学という学びの空間が完成するのではないでしょうか。今日から、和光大学という学びの空間を作る一員になって欲しいと思います。
(2009年度入学登録での挨拶を一部抜粋して掲載しました。)

臨時学長代行 伊東達夫(いとう たつお)