学長のコトバ |  2011/04/21


伊東達夫学長から、「気づく」楽しさについて、
文章が寄せられたので紹介します。

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今年は変則的な新学期になりましたが、このような緊急の事態ですので、
ご理解願いたいと思っています。

一般の講義関係が少し遅れましたので、
学生のみなさんにはゆとりも生じたのではないでしょうか。
こういう時はじっくり腰を落ち着けて、何かに向かい合って欲しいですね。
別に固いことは言いません。趣味でも何でも結構です。
目の前にあるもの、音楽、小説などなど、
意外とこれが自分の持っている専門や興味とつながっていることもあります。
人間の頭の中はそんなにバラバラなものではありません。
見えない糸で結ばれているような気もします。
目の前にぶら下がっているものに以外と気がつかないものです。

「発見」は大袈裟ですが、「気づく」ことの不思議さですか。
実はそんな経験をしました。

私はこの春、資料読みの合間を縫って、
鄭銀淑(チョン・ウンスク)著『韓国・下町人情紀行』(朝日選書)を読みました。
著者は紀行作家で、日本人に韓国の文化を紹介する仕事をしていて、
この本も韓国の田舎の風景を人情細やかに紹介しています。
もしよろしければ、韓国の人々の生活を知るにはよい本であると思いますので、ご一読下さい。

さて、この本に至るには、少しわけがあります。

NHK・BSで放送されていた韓国歴史ドラマ「イ・サン」をご存じでしょうか。
現在も日曜日10時からNHKで再放送されています。
このドラマは、朝鮮王朝第22代の王様、正祖(チョンジョ)、本名イ・サン(1752~1800年)
という王様をめぐる権力闘争、幼友達との友情、恋愛、家臣との信頼関係などが絡みあった
韓国歴史ドラマです。韓国独特の何をするにも直球勝負のドラマですから、
個人的には大変おもしろく観させてもらいました。

ただ、このドラマは、自分的にはここで終わりませんでした。

もう一つ、興味を引いたのは、この王様の在位が1776年から1800年ということです。
1776年、経済をやってもやらなくても忘れてはならない年、
かの有名な経済学の父アダム・スミスが『国富論』を出版した年なのですね。
自分がこれまで専門として研究してきた著作の「地球の反対側での出来事」が、
40年を経て出現したのです。

日本では江戸時代で田沼意次の時代から松平定信の寛政の改革くらいの認識でした。
正直言って、朝鮮王朝の詳細まで目は届いていませんでした。
1760年代には既に『国富論』の草稿が書かれていますので、
王様の生涯とかなりの部分が重なってきます。
また、この王様は、政治改革はもちろん、経済や文化など多方面で先進的な改革を行いました。
もちろんドラマのなかでも、倭の国との貿易、中国との外交、デフレによる市場の混乱など、
さまざまな問題が取りあげられています。

観ていて、はじめは「おもしろいな」とだけしか思わなかったのですが、
ドラマの進行にしたがい、時代や人間関係が見えてくると、「へえー」になってしまいました。

ヨーロッパでは産業革命18世紀半ばから18世紀初頭、フランス革命1789年、
アメリカの独立宣言1776年が凄まじい勢いで進行する中で、
アジアの世界を眺めることは非常に重要です。
このような形で、隣国の歴史世界が広がるなんて思ってもみなかったことです。

この時代の朝鮮のことを少しずつ興味本位ですが読んだり調べたり、
興味はますます広がっていくばかりです。おもしろいですね。

今は韓国、ソウル、水原華城(ソウルの郊外で、イ・サンがここに遷都しようとしたのですが、
その直前に亡くなってしまいました)の旧跡を訪ねたり、
街を歩いたりしたいと思うほどになりました。 水原華城には出かけました。
王様のことはもちろんですが、
庶民の生活はどうだろうというのがこの本を読もうとしたきっかけです。

「発見」を久しぶりに楽しませてもらっています。

学長 伊東 達夫

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