教職員から |  2009/10/14


こんにちは。経済学科の加藤巌です。
2009年4月から、マレーシア国立サバ大学で海外研修を行っています。今日はマレーシアの(大学の)卒業式の様子をご紹介しましょう。
 なお、こちらでは「大学」のつづりがUniversitiと最後がyではありません。マレーシア英語と言うのでしょうか。面白いですね。

 現在、マレーシアには20校の国立大学と大小の私立大学があります。私のいる国立サバ大学(Universiti Malaysia Sabah=UMS)は1994年に国内9番目の国立大学として誕生しました。サバ州では唯一の国立大学で、医学部や水産学部、芸術学部まで持つ総合大学です。学生数も約1万3千名とマレーシアの大学としては大きな大学です。キャンパスも巨大です。隣の学部へ行くのに、車で移動することがごく普通です。日本ではなかなか想像できないでしょうが、学内の生協で「消しゴム」を買うために、車で出掛けています。

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▲サバ大学のガウンと卒業式会場(大講堂)

 いま、このサバ大学で卒業式が行われています。10月10日(土)から10月13日(火)にかけて(日曜日を除く)三日間、午前と午後に分けて、都合5回行われます。もちろん、(複数の)学部ごとに分かれて卒業式を行っていますから、卒業生が出席するのは1回の式典だけです。ところが、学長や副学長などの主要な教職員は三日間出席しっぱなしです。なかなかに大変だと思います。

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▲卒業式会場の様子(先生方の後ろから写真を撮っています)


 上記では、さらりと「学長や副学長が出席してウンヌン」と書きましたが、実は、少し説明が必要です。マレーシアの国立大学で学長といえば、スルタン(Sultan=君主・王様)が務めているのです。いまの時代に「王様!」などと驚かないでください。マレーシアの国旗を見ると赤と白の紅白の線が13本描かれていますね。これは全国に州が13あることを示しています。この13州のうち、9つの州にいまでもスルタン(君主)家があり、人々から大いなる敬意を払われています。

 なんだか話しが(卒業式から)逸れていきますが、9人のスルタンが5年に一度互選(持ち回りと聞きました)で、マレーシア国王(King)を選出するそうです。もちろん、サバ大学にも国王夫妻の肖像画が飾られています。肖像画を見る限り、現在のマレーシア国王は比較的若い方のようです。
 「ついで」の話が長くなります。先ほど13州のうち9州にスルタン(君主)がいると紹介しました。では、「残りの4州は?」との疑問がわくでしょう。スルタンのいない4つの州には「首長」と呼ばれる方々がいます。君主のような世襲ではなく、政治的に選ばれるそうですが、相当な権威を保っています(当然のように高い地位を示す貴族の称号を持っています)。
 サバ州にも「君主」の代わりに「首長」がいます。もちろん、サバ大学の学長はこの方が務めていて、卒業生は一人一人、卒業証書を「首長」から受け取ります。と言うことは、幸運にも、その時、国王を務めているスルタンがいる州の大学を卒業した場合、国王から卒業証書を受け取るということになるのでしょうか。今年はトレンガヌ州のスルタンが国王を務めていますから、もし、私がトレンガヌ大学で海外研修を過ごしていれば、いまごろ、国王にお会いする機会に恵まれたのかも知れませんね。

 念のために説明しておくと、日常的な大学の業務は「副学長」が取り仕切っています。ですから、大学内では、実質的な大学のトップとして「副学長」を扱っています。「副学長」を補佐する"副副学長"も3人いますが、こちらも実質的には大学のトップ2となります。あくまでも「スルタン」や「首長」は(式典などには参加する)名誉学長といったところが実際の感覚に近いものです。

 さあ、話をサバ大学の卒業式に戻しましょう。私は10月10日(土)午前中の第1回目の卒業式に参加しました。この回は経営経済学部や工学部などの合同卒業式でした。もちろん、経営経済学部の卒業生を見送るためです。
まず朝の7時半に会場入りして、ガウンと帽子を借り受けました。写真でも確認してもらいたのですが、映画「ハリーポッター」で魔法学校の先生が着ているような、重くて長い裾を引きずるようなガウンです。ガウンの中はスーツを着ているので、正直なところ、暑くてかなり汗をかいてしまいました。

 私はお仕着せのガウンを着たわけですが、先生方は様々なガウンを着ていました。ガウンと帽子は「出身大学」や「学位」を示すものなのです。ちなみに、式の際、隣に座ったマイケル先生はケンブリッジ大学で博士号(生化学)を取得したので、それを示すガウンと帽子を身に付けていました。やはり「ケンブリッジ大学の博士号」は一等抜きん出ているようで、多くの人がマイケル先生のガウンを見て(何も言わずに)「ほぅー」といった表情をしていました。正直なところ、私は(マイケル先生のガウンのことを)人に言われるまで気が付かず、それだけに物怖じしないで楽しく会話ができたという次第です・・・。
 実は、マイケル先生が手に持っていた本を私も所有していたことが話のきっかけとなりました。この本は日本語訳も出版されています(私は日本語訳を読みました)。世間は狭いもので、この日本語版は和光大学で非常勤講師を務められている岸由二先生らが翻訳されたものです。
なお、なぜマイケル先生が本を持ち込んだのかは、みなさんのご想像にお任せしますね。

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▲ケンブリッジ大学(博士号取得者)のガウンと帽子

 もう少しガウンの話を続けます。ケンブリッジ大学のガウンは袖がかなり長い筒状になっていました。これは、昔、卒業式の際に貰うプレゼントを入れるために使ったそうです。ガウンの後ろにも大きなフードが垂れているのですが、こちらにも人びとが、お祝いのお金を放り込んだといいます。ケンブリッジ大学では卒業に際して、卒業生や教職員がガウンを着用して街中を練り歩きます。その際に、町の人々がプレゼントやお金を卒業生らに渡す習わしがあったのだそうです。聞いたところでは、昔は学問を修めるのは神学生が多かったので、学業を成し終えた卒業生に人びとが「寄進」をしたのだろうとのことでした。

 実は、マレーシアの大学でも、この「街を練り歩く」伝統を引き継いでいるところがあります。サバ大学でも以前にしたことがあると聞きました。また、ボルネオ島南部のマレーシア国立サラワク大学ではいまでもガウン着用の上、街を歩くのだそうです。同大学で働くマレー人の友人が言っていました。卒業式に際して「晴れがましい」とは言え、赤道直下に近いところで行う「ガウン行列」はとても大変なのだと。そうでしょうね。

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▲ガウンの背中に垂らされたフード
(昔は、町の人々が卒業のお祝いのお金を、この中に入れたそうです)

 基本的にサバ大学の用意するガウンもケンブリッジのものと似ていました。ただし、色合いがサバ大学のものは鮮やかな紫でした(ケンブリッジは黒)。袖の部分もケンブリッジ大学のガウンに比べてやや細かったです。
 面白いなと感じたのは、学部や学科がガウンの形やフードの色などで区分されており、その一覧表が配られていたことです。当然、その一覧表を見れば、誰がどの学部を卒業したかが一目瞭然となるわけです。サバ大学の先生方も一覧表を見ながら、卒業式に臨んでいました。きっと、すべての学部学科のガウンを頭に入れている人は少ないのでしょうね。

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▲ガウンの違いから学部学科が判ります(一覧表の抜粋)

 さて、ガウンの後は朝食です。教職員は早朝から来ている人もいるので、控室に朝食が用意されていました。それぞれに食事を済ませ、お茶を飲み終わる頃になると、教員全員が会場入口に2列に整列するよう指示されます。長い待ち時間の後で、吹奏楽の勇壮な演奏にのって入場しました。広い会場の正面入り口から、大きな階段通路をステージに向かってガウンを着た大勢の教員が胸を張って行進する様子はなかなか壮観なものだったと思います。会場内では卒業生はもちろん、大勢の保護者も全員が立ち上がって教員の行列を迎えます。

 教員の入場が終了した後、あらためてアナウンスがあり、学長である「首長」や副学長はじめ大学の中枢メンバーが入場します。当然ながら、首長がステージ上に据えられた「背もたれ」の非常に長い特別な椅子に腰を下ろすまで誰も着席できません。「首長」の隣には大学の理事長が着席しました。また、オペラ劇場の特別席のような貴賓席には、おそらく「首長」のご家族だと思われる人々が入って来ました。

 「首長」の会式宣言で厳かに卒業式が始まりました。副学長の挨拶などがあった後、博士号と修士号の授与がありました。それから学部学生の卒業生が一人一人ステージに上がって名前を呼ばれます。先にも書いたように、首長から各人に卒業証書が手渡されました。中には成績優秀者がいて、その旨をアナウンスされると会場から「おぉー」といった歓声があがっていました。卒業式に参加していたニュージーランド人の先生(医学部)の観察によると、首長と握手する卒業生は数少ないとのことです。それは、貴人に触れてはいけないという慣習と、モスリムの女性が男性と握手することは稀だということによるのでしょう。

 卒業証書の授与が終わると、学生代表の挨拶やイスラム教のお祈り、国歌斉唱、サバ州の州歌斉唱、そして、校歌斉唱を行いました。首長の閉会宣言があり、先ほどとは逆に、首長、教員の順番に中央階段通路を引き上げていきました。この間も会場の全員が起立していました。

 その後は大きな丸テーブルが幾つも並んだ大きな特設会場でフルコースの食事(昼食)をいただきました。正面には首長や大学首脳陣が陣取り、各人の前には首の長いワイングラスが並んでいました(ただし、モスリムの方々ですから、グラスの中身は赤い色のジュースです)。このあたりも英国の古き良き伝統を引き継いでいるのでしょうか。サバ大学で親しくしている先生が「サバ大学の卒業式は英国以上に英国の大学の伝統を色濃く残している」と評していました。

 さてさて今日も長いお話にお付き合いいただきました。お付き合いのついでに、もう一つ情報提供です。マレーシアの大学では修業年限は3年のことが多いのです。正確に言うと学部学科ごとに修業年限が異なっているのです。例えば、サバ大学経営経済学部の中でも「人的資源経済学科」は3年で卒業できますが、「会計学科」は4年間勉強しないと卒業できません。
 そして、実質的に卒業生が大学での学業を終えるのは、例年5月となります(新入生が入って来るのが6月下旬です)。では、5月から「卒業式」のある10月まで彼らは何をしているのでしょうか。それは、インターンシップ(職場体験学習)なのです。つまり、大学3年生は大学での学業を5月に終えてから、数ヶ月間、各地で(例えば、自分の故郷で)インターンシップに従事します。その(インターンシップの)成績も加味されて、卒業式に臨むというわけです。このあたりも同様の教育システムを持つ英国に似ていると言えるかも知れませんね。

 マレーシアの卒業式に参加してみて一言。教員の席にはペットボトルの水と甘いキャンディが用意されていたのですが、その持つ意味がよく分かりました。長時間の式典と慣れないガウンの着用で結構疲れるものなのですね。そして、英国の植民地だったマレーシアに、その(英国の)伝統が色濃く残されている事実から、私たちは何かを学べるのではないかと思いました。

 この文章をお読みのみなさん、10月にマレーシアへ行く機会をお持ちであれば、現地の卒業式を覗いてみませんか。会場の周りにはタムーも出ています(タムーについては「ボルネオ便り4」をご参照ください)。体力は要りますが、きっと興味深い体験ができますよ。

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卒業おめでとう!卒業生とそのご家族
(卒業生の着ているガウンの色から判断すると
彼女らは心理学部の卒業生です)


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※ この情報は経済学科の加藤巌先生から寄せられました。

※ ボルネオ便り6「マレーシア社会の所得格差を一緒に考えてみませんか(前半)」
  こちらから→http://www.wako.ac.jp/blog/index_univ/1365.html

※ ボルネオ便り7「マレーシア社会の所得格差を一緒に考えてみませんか(後半)」
  こちらから→http://www.wako.ac.jp/blog/index_univ/1368.html

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