教職員から |  2009/09/07


こんにちは。経済学科の加藤巌です。
2009年4月から、社会的な多様性に満ちたマレーシアのボルネオ島で暮らしています。今日は「前半」に引き続き、マレーシア社会の所得格差(貧富の差)についてお話しをしましょう。 
私は、マレーシア経済が発展し、人々の生活が豊かになっていることを実感しています。その一方で、社会の構成員が一様に豊かになっているのかと聞かれると少し返答に困ります。
 
図表3をご覧ください。このデーターからはマレーシア社会が内包する問題点が見えてきます。まず、マレーシアでは最も豊かな人々(所得階層の上位20%)が社会全体の所得のうち54%を得ていることが分かります。反対に所得階層の低い人々(所得階層の下位40%)が社会全体の13%の所得を分け合っています。
 
このことを「100人の村」で例えてみれば、村で「最も豊かな20人」が(村で得られる)収入の「半分」を受け取っている一方で、「最も貧しい40人」が全収入の「10分の1程度」しか、もらっていないことになります。
 

図表3:マレーシアの所得配分の公平性について(国際比較)
 
graph3.gif
注1:所得階層は個人単位ではなく、世帯単位で計測されている。
出所: UNICEF "The state of the world's children 2008"より作成

 
図表3をよく見るとマレーシアの所得配分の割合は発展途上国の平均値に近いものです。ですから、マレーシアが"飛びぬけて"所得配分の公平性に欠ける社会だとは言えません。
 
しかし、先に「前半」でお話したように、マレーシアの所得水準はすでに発展途上国の平均を大きく超えており、いまから11年後の2020年に先進国入りを目指しています。この状況下で所得配分に大きな偏りがあることは、"深刻な問題を含んでいる"と指摘しなくてはなりません。もちろん、将来の社会の不安定要因にもなりかねません。図表3の数値を見ながら、皆さんも、その意味することを考えていただければと思います。
 
マレーシアにおける所得配分の偏り(収入格差)について、もう少し詳細に見ていきましょう。
 
以前の「ボルネオ便り1」でもご紹介したように、マレーシアは複合民族国家です。文化的な多様性を持つ強みがある一方、異なる民族の間で収入格差が生じており、社会問題化していることもあるようです。
 
「前半」でも取り上げた住商総研のレポート(ワールドフォーカス2008年5月号No.27)によると、マレー系の人々(先住民族を含めてブミプトラと呼ばれます)とその他の民族の間で所得格差が生じているそうです。
 
例えば、ブミプトラと中華系の間では1対1.54の収入格差があるそうです。つまり、ブミプトラの平均収入が100とすると、中華系の平均収入は154と5割増しになっています。同じように、ブミプトラとインド系の間には1対1.2ほどの収入格差があるといいます。
 
同レポートでは格差は縮小傾向にあるとしていますが、今後、民族間の所得格差が何を生み出すのかは、気をつけて議論する必要がありそうです。
 
地方と都市の収入格差も見過ごせません。再び住商総研のレポートによると、2007年には、地方と都市の間には1対1.91の収入格差があったそうです。そして、この有意義なレポートは結論部分で、マレーシアでは「地方・都市間、民族間の経済格差は平均値としては縮小したものの、個人間の所得格差はむしろ反対に拡大していると見られる」と(未来への)警告を発しています。
 
上記の二つに加えて、もう一つ問題点を指摘しておきましょう。それは「不法移民」と呼ばれる人々に関わる問題です。誤解のないように説明しておきたいのですが、「不法滞在者を捕まえて強制送還しろ」とか、逆に「保護しろ」といった主張をしたいわけではなく、あくまでも収入格差の観点から彼らの存在を考えてみたいと思います。
 
地元の研究者の話では、私の住む地域の住民のうち2割程度は外国人だろうとのことです。それほど外国人比率が高いのかと驚いたのですが、確かに市内で外国人労働者の姿をよく見掛けます。とくによく出会うのがフィリピンからやって来た人たちです。ついで、インドネシアから来ている人にも会います。また、韓国人ビジネスマンの姿もちらほら目にします。
 
かく言う私自身、現在「就労ビザ」(Work Passという名称です)を持った外国人労働者の立場にあります。私の場合、地元の国立大学の(客員)教授としてWork Passを申請したのですが、その取得には一定の時間と費用が掛りました。書類の申請後、(家族2人分も含めて)おおよそ1ヶ月の日数と、その費用として(家族2人分も含めて)約78,000円を費やしました。
 
ちなみに、私自身のWork Passだけでみると、Pass自体が200リンギ(約5,600円)とその発行手数料が50リンギ(約1,400円)でした。ただし、私の場合はマレーシア入国後の取得だったため、500リンギ(約14,000円)の費用をさらに支払っています。最後の500リンギについては、就労ビザは基本的に外国にある公館で予め取得していることが望ましいので、それを省略した場合に支払う必要があります。
 
こうした費用と時間を掛けられない、もしくはWork Passを申請するには不適切とされる職種で働く外国人労働者が不法就労者、ひいては不法滞在者(不法移民)と呼ばれる人々となります。その実数は分かりませんが、相当な数に上るだろうと想像されます。
 
ここでは二つの事柄だけを指摘しておきます。一つは不法就労者の賃金がとても安いことです。例えば、建設現場で働く(不法就労)男性の日給が15リンギから25リンギと聞きましたから、日本円に換算すると420円から700円となります。仮に1ヶ月に25日間ほど働いたとすると、月給で10,500円から17,500円程度となります。
 
どうぞ、先に「前半」でご紹介したマレーシア人の平均月収と比べてみてください。平均値(マレーシア国民1人あたり月額収入は6万4千円)との差が大きいことに驚きます。率直にお話しすると、不法就労の是非はおいて、その収入で生活が支えられるのかなと心配になってしまいます。
 
指摘しておきたい二つ目の事柄は、不法滞在者はしばしば家族連れであるということです。このことが、こちらで彼らが「不法移民」と呼ばれている所以だろうと思います。
 
私が見るところ、家族連れの場合、とくに子どもの養育が問題となっているようです。友人が主催する福祉系NGOにも不法移民の子どもたちがやって来ます。この子どもたちは満足な教育を受けていないようです。基本的な読み書きや計算の仕方も覚束ない子どもたちも多いようです。
 
残念ながら、こうした子どもたちは義務教育を受ける機会も無く、ごく幼いうちから社会の底辺で働き始めなければなりません。また、厳しい環境下では反社会的な行為への誘因もうごめいているようです。
 
先日、子どもたちに自ら住む場所へ案内してもらいました。正直にお話しすると、その住環境は劣悪で、人びとが健康的で快適に暮らせるとはとても思えませんでした。その場所を(正確には以前に)撮った写真を掲載します。よく見ると、写真の奥には丘の上に建つ高級マンションも写っています。
 
たった一枚の写真ですが、ここには社会の構図が図らずも映し出されているように思われます。不法移民の住居は森の中に隠れるようにして建っています。一方、その背後にはぼんやりとですが、丘の上に建つ高級マンションが見えています。
 
こうした対比は、豊かな人はより豊かになり、貧者はしばしば置き去りにされるということを物語っているのでしょうか。また、統計データーには出てこない人々の暮らしまで含めると、まだまだ大きな収入格差が残っていることを語り掛けているのでしょうか。皆さんとともに私も考えたいと思います。
 
なお、今回のブログの内容はマレーシア社会への批判であると誤解を受けそうですが、そうした意図はまったくありません。
 
どのような社会も矛盾や幾分かの問題を内包することは当然のことですし、そもそも難しい課題を抱えていることも承知の上で、私はマレーシアのことが大好きなのです。実際、この地で社会的な難問へ果敢に挑戦していく、マレーシアの人々の姿から私は大いに勇気をもらっています。
 
borneo_vol7.JPG

▲森の中の「不法移民」の家と、背後の丘に建つ高級マンション

 
最後までお読みいただいた方へ、今回はとくに前半と後半にわたる長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
 
 
★この情報は、経済学科の加藤巌先生から寄せられました。
 
★ボルネオ便り6「マレーシア社会の所得格差を一緒に考えてみませんか(前半)」はこちら
 http://www.wako.ac.jp/blog/2009/09/post_223.html
 

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